今回、ご紹介するのは、日本でも昨年3月から配信されているApple TV+の「WeCrashed〜スタートアップ狂騒曲〜」です。「令嬢アンナの真実」のアンナ・デルヴィー、「スーパーパンプト/Uberー破壊的ビジネスを創った男ー」のトラビス・カラニック、「ドロップアウト〜シリコンバレーを騙した女」のエリザベス・ホームズと同様、己を神格化する術に長け、人を騙したり裏切ったりすることに抵抗がなく、真面目な人達から搾取し、共同体の利益にタダ乗りしようとする自己愛性ソシオパス(反社会性パーソナリティ障害)のアダム・ニューマンが、ミレニアル詐欺師の第四弾です。ミレニアル世代の生き方に精通するヴィジョナリーが’売り’だったアダムは、ミレニアル盲信者(=社員)を搾取して、贅沢三昧を尽くした挙げ句の果てに、崖っぷちから突き落とされるも、ゴールデンパラシュート(多額の退職金)のお陰で無傷(何のお咎めもなく)で着地した自己愛性ソシオパスです。
一攫千金を狙うアダム・ニューマン(ジャレッド・レト)が、ニューエイジの申し子レベッカ・パルトロウ(アン・ハサウェイ)の内助の功のお陰で、評価額470億ドルを誇る史上最大のユニコーン企業にのし上がったにも関わらず、僅か1年足らずで400億ドルの損失を出してWeWorkを追放されるまでの波瀾万丈の10年を描きます。誕生からユニコーン神話が無惨に崩壊するまでの盛者必衰と言う意味では、「スーパーパンプト」や「ドロップアウト」と同じですが、「WeCrashed 〜スタートアップ狂騒曲〜」はアダムとレベッカのラブストーリーと言う触れ込みで登場しました。義父ボブ(ピーター・ジェイコブソン)に「レベッカを泣かすな!」と釘を刺されたアダムが、何としてでもレベッカを幸せに(=富裕層のライフスタイルを維持すると言う意味)しなければ!と焦せるプレッシャーに押し潰されそうになりながらも、レベッカの内助の功(ユダヤ人脈やレベッカ自身/親戚縁者からの融資、ハリウッドや芸能界セレブの煌めきを魔法の粉のように振りかけてアダムの出世に加担)をフルに活用して、一端のベンチャー起業家になって行く過程にラブストーリーのレッテルを貼っただけで、実質的には詐欺師夫婦の伝記です。
胡散臭いパフォーマンスと口八丁手八丁で、投資家/取締役会/社員を煙に巻く一方で、あの手この手で私腹を肥やした結果、WeWork帝国から追放された創業者夫婦は、脚光を浴びたい自己愛性ソシオパス男女が繰り広げる「フォリアドゥ」にしか見えません。「フォリアドゥ」とは、一人の妄想がもう一人に感染し、複数人で同じ妄想を共用するという意味のフランス語です。詐欺師を盲信すること自体が「フォリアドゥ」には違いありませんが、カラニックやホームズ個人が広げた大風呂敷を投資家や取り巻きが盲信するのと違って、レベッカが焚きつけたアダムの妄想がめらめらと燃え広がり、ソフトバンク会長の孫正義(キム・ウィソン)が火に油を注いで炎上し、燃え尽きたような感じです。孫の’金は出すが口は出さない’方針が、ニューマン夫婦の贅沢三昧の生活を野放しにして収集がつかなくなり、WeWork社を救う為に二人を追放せざるを得ない状況に追い込まれます。
「WeCrashed」の土台となったポッドキャスト「The Rise and Fall of WeWork by Wondery」を聞いた事がない私は、他の詐欺師ドラマと同様、どれが事実で、どれ/誰が想像力の賜物なのか、どこで誰が何を言ったのか等々、全く区別がつきません。そこで、エリオット・ブラウン、モリーン・ファレル共著の「The Cult of We: WeWork, Adam Neumann, and The Great Startup Delusion」(邦題はまだありませんが、「ウィー礼賛:ウィーワーク、アダム・ニューマンとスタートアップの幻想」という意味)の400ページ弱を読んで紐解いてみると、アダムが秘密裡に行っていた私腹を肥やすための不正会計や投資家との駆け引きより、テレビ伝道師夫婦を彷彿とさせる常軌を逸した言動の方が絵になるからだと納得しました。因みに、テレビ伝道師って?と首を傾げる方も多いかと思いますが、1970年代に米国に登場した「お茶の間教会」と呼ばれるキリスト教布教の草の根運動です。裏表が著しい偽善者の色と欲にまみれた宗教ビジネスの実態は、ドラマ「ジェムストーン家の敬虔なる私生活」や映画「タミー・フェイの瞳」などで如実に描かれていますので、ご参照ください。
劣等感と自己嫌悪が服を着て歩いているようなアダムとレベッカは、初対面から同じ穴のムジナだと直感したに違いありません。似た者夫婦は、欠点を補償する事ができないと、優越感を感じる為に権力を手に入れようとし、常に脚光を浴びていなければ、生きている価値がないと確信するナルシストです。但し、「WeCrashed」ではさほど明確にはされていませんが、育った階級に雲泥の差があるので、アダムは貧乏根性丸出しの業突く張りナルシスト、苦労知らずの令嬢レベッカはスピリチュアル・ナルシストだと言えるでしょう。最初は貴重な時間を費やすのも惜しい、口だけの中古車営業マンと卑下していたレベッカが、アダムの自尊心をくすぐり、「地球の救世主」「スーパーノバ」とおだて上げて、超富裕層1%の仲間入りに便乗しようと企んだ政略結婚のような印象を受けました。不覚にもアダムを父親以上のペテン師に煽て上げてしまった大失敗に、レベッカが気がついているのかどうかは、残念ながら「WeCrashed」も「ウィー礼賛」いずれも触れていませんが、心理分析大好き人間の私が一番知りたい所です。
負け組の父親の背中を見て育ち、何が何でも金持ちにならなければ!と我武者羅に起業したカラニック、ホームズや、失敗は絶対に許されないと信じる余り、史上最大のネズミ講詐欺師と化した故バーナード・マドフなどと同様に、両親の離婚を機にシングルマザーに育てられたアダムは、自分を捨てた父親を見返してやろうと異常な野心を抱くようになります。王国を築くためには、失敗や非を認めるなど言語道断、嘘の上塗りを繰り返して、バレないように工作する(ハッタリを利かしたり、追及を回避するために喋り続けたり、威嚇したり)のが常套手段です。
キブツの共同生活に安らぎを見出した幼い頃から億万長者になると吹聴していますが、本音は「全てを分かち合うのは不公平」で、起業秘話を裏では否定しています。仮病を口実に契約より2年早くイスラエル海軍を除隊するような、窮地を脱する要領の良さ/こざかしさや、羽振りが良くなってからアダムが発揮する、他人の金なら無駄遣いしても平気という貧乏根性/たかり根性は、幼い頃に植え付けられ、WeWork帝国で大きく開花したという訳です。サーフィンにハマったアダムは、沖に出るためのパドリングが欝陶しいと、ジェット・スキーからステップオフして波に飛び移る新しい方法(不正行為)を好み、これを禁止しているカウアイ島でやってのけ、サーフィン界の顰蹙を買った事実を「ウィー礼賛」で読むと、例え趣味と言えども、欲しいものを手に入れるための忍耐も努力も不要な抜け道を常に模索してきた狡猾な人間であることは明白です。
ロングアイランドのノースショア地元でも名だたる、自己チュー/高ビー/鼻持ちならないパルトロウ家の令嬢レベッカは、資産家の母が出て行った後、父に育てられた四人兄妹の末娘です。母、兄(若くしてガンで死去)、高校時代の恋人を失ったため、見捨てられた感=被害者意識が強く、基本的に「男は信用ならぬ」を信条に生きてきました。しかし、欲しいものは何でも与えられ、わがまま一杯に育ったため、自分の力量をほとんど理解しておらず、特にこれと言った目標も夢もなく、ふわふわと生きています。アダムを煽てて「スーパーノバ」にすれば、七光を受けて自分も「華がある人」「輝いている人」になれると思ったのも、十分に頷けると言うものです。とは言え、煽て上げてスーパーパワーにしたアダムの自画自賛に耐えられず、「もう特集記事のインタビューには応じないで!天狗になって、迷惑してるんだから」と、広報担当者にクレームをつけるほどです。起業以来、マーケティング、ブランディング、デザイン部門に関与している人の言うことでしょうか?全て、自分にどう影響するかのみを考えている自己チュー令嬢レベッカならではの発言です。
起業当初は、女優業を諦めきれず、短編映画の自作自演を試みたレベッカ。この作品で自分の大根役者ぶりに気が付いたのかどうかは不明ですが、「女優はもう飽き飽き!子育てに専念するわ」と負け惜しみを言って、5人の子供をもうけており、その間はWeWork王国にはほとんど顔を出していません。但し、WeWork本部モデルコミュニティー体験ツアーに、ファミリーの雰囲気を誇示する目的で、アダムのオフィスにはべる役を子供と一緒に演じることはありました。投資家にアピールするモデルオフィスに仕立てあげる配役、舞台装置、照明、音響効果まで、逐一を演出するのがアダムの仕事だったからです。
何でも神任せだった組織的宗教に飽き足らず、自分を知り、自分らしく生きることに至上の価値を置くニューエイジ主義は、自分自身が神になるという自己啓発の神秘主義でもあり、独善的で自己陶酔型の「スピリチュアルなナルシシズム」とも言われています。自分こそが絶対で、社員、使用人や鴨(身内以外の投資家)は自分より劣る、故に劣った人間には何をしても良いと考えているので、レベッカは常に人を見下すことで優越感に浸ります。但し、アダムを励まし支える時だけ、ニューエイジ用語を使って内助の功を発揮します。WeWorkスローガンとして使われている「天職を探そう!」は、レベッカが使うニューエイジ用語の中では最もマトモな自己啓発概念ですが、「オフィス革命で世界の意識を高めよう」や「ニューマン一族がWeWorkの羅針盤!」等、意味不明のスローガンは、コア・ビジネスと何の関係があるのでしょうか?
レベッカのスピリチュアル・ナルシスト振りが猛威を振るうのは、孫から引き出した事業拡張資金31億ドルの的外れな使い道として、WeGrow(教育部門)を立ち上げようと試みた2018年です。表向きには「共働や意識を高める」ヴィジョンを掲げつつ、裏では自分の子供に相応しい学校がないことに不平不満だらけのレベッカが、「自分でやるっきゃない、学校なんて屁の河童!」と、3〜9歳向けの起業家育成学校設立に乗り出した訳です。自分の能力を知り尽くしていなければ、知らない事やできない事を認めて人に助けを求める謙虚さには繋がりません。悟りを開いてもいないのに、開いたと錯覚して得意になっているスピリチュアル・ナルシストのやりそうな事ではありますが. . .(笑)
アダムの狂気の沙汰や取り留めのない壮大な未来構想に歯止めが利かなくなるのは、妄想を共用するソフトバンク会長のMasaこと孫正義から巨額の投資を獲得しようと、前時代的アイデアにテック要素をペタペタと貼り付けて名ばかりの組織を捏造してからです。ドット・コム・バブルが弾けて700億ドルの投資が一瞬にして消失した後、再度世界から一目置かれるテック・ベンチャー企業投資家として巻き返しを図りたいと切望していた孫は、WeWork社が利益を出していない事実は無視、寂しい現代人を結ぶコミュニティー作りという壮大な未来像(単なる理想論で終わりますが)と、何世代(200〜300年)に渡る王国を守り、それを生き抜く永遠の命(?)を手に入れ、世界の大統領になるなど、アダムの果てし無い妄想を孫が共用していたからです。
しかし、ソフトバンク・ビジョン・ファンド(SVF)を投資した中国のアリババ・グループ同様の見返りを期待する孫は、「もっとクレイジーになれ!」とアダムに発破をかけました。取締役会の経験豊かで常識ある役員の反対を押し切って、事業拡張ペースに拍車をかけ、競合会社を蹴散らして市場独占に乗り出します。要は、コワーキングスペース業界のアマゾンになろうとしたのです。
こうして分析して行くと、「フォリアドゥ」がいずれ炎上して燃え尽きるであろうことは明らかですが、ベンチャー起業そのものに、問題があった事は否めません。
1)ヴィジョンそのものが革命的ではない
ユニコーンの地位を獲得したカラニックやホームズは、曲がりなりにもテクノロジーを駆使(悪用?)して既存の業界に殴り込みをかけたディスラプター(革命児)ですが、WeWork社は前時代的ビジネスをテック会社と偽って、企業評価額を一桁も二桁も吊り上げて、ユニコーンの仲間入りを果たしました。
オラクルCEOのラリー・エリソンは、「自称『時代の先端を行くテック会社WeWork』は、裸の王様でしかない。うちのビルをリースして、オシャレな内装にした細切れオフィス+コミュニティースペース+会議室パッケージをシェアオフィスと称して転貸してるだけで、テクノロジーなんてちゃんちゃらおかしい!」と非難しています。それが証拠に、シェアオフィス世界最大手IWGのマーク・ディクソンCEOは、「うちと内容は変わらないのに、何故WeWork社の評価額がうちの4〜5倍になるのだろう?」と、偽ユニコーンを調査したと告白しています。アダムは知人が経営する既存のシェアオフィスを見学して、堅実な金儲けコンセプトのみならずリース契約書を丸写しにして使用していたと言いますから、エリソンやディクソンの指摘通り、時代の先端を行く画期的なベンチャー企業とは名ばかりの金の亡者です。
読み書き障害を患い、仕事にコンピュータを使えないアダムにとって、「テック」とは何だったのでしょうか?10年近く、上場を拒否したアダムは、最後の最後までコア・ビジネスが何であるかさえ説明できない上、口にする度に内容がコロコロ変わる始末です。ユニコーンの地位を確保する為に、付け焼き刃かその場凌ぎの思いつきで、何度も「テック」要素を盛り込もうとしましたが、いずれも的外れで無駄な投資に終わっています。アダムが呪文のように唱えていた共働コミュニティー(インキュベーターのコンセプトをこう呼んでいたのか、インキュベーターの存在を知らなかったのかは不明ですが)を会員がフルに活用していたとは言えないと、IWGのマーク・ディクソンCEOのアンケートが指摘しています。つまり、絵に描いた餅だったにも関わらず、2018年にはテック専従社員を1,500人にまで増やし、テック機器への投資は億ドル単位と業界誌に吹聴しています。帳簿管理と買収した会社のシステム管理をしていただけで、AI革命を目指していた孫には情けないとしか言いようが無い程、AIどころかテクノロジーの使い方は稚拙そのものでした。
2)金持ち父さん 対 大人になりたくない不良息子
欲のレンズをかけて世の中を見る人達には、壮大な構想を熱く語る地球の救世主/カリスマ創業者に映るようですが、アダムの自己愛性ソシオパス特有の傲りは、ウソ発見機を持って生まれたラッキーな人には、火を見るよりも明らかです。単に時価総額を膨らませて、スティーブ・ジョブスやマーク・ザッカーバーグ級の歴史に残る起業家の仲間入りを果たし、同時に私腹を肥やすことのみがゴールだったのです。見掛け倒しの革命児は、知略を張り巡らせて、人を操って財布の紐を緩めさせ、他人の金で贅沢三昧に耽ることが生き甲斐なのです。
メッドテックの知識ゼロの政府要人の私的財産をターゲットにしたホームズ、口出しされるのが嫌で、VC投資家からしか投資を募らなかったカラニックとは異なり、アダムは起業当初は妻レベッカ(高利で15万ドルを融資)やレベッカの裕福な親戚縁者に投資してもらい、オフィスビルを持て余していたオーナーとの取引でスタートアップを大きくし、ベンチマーク・キャピタル社やDAGベンチャーズを初めとするシリコンバレーVCや、事業拡張期にはJPモーガン・チェース、T・ロウ・プライス、フィデリティ等の大手金融機関のFOMO(見逃しの恐怖)に訴えて、評価額と投資額の桁を着々と吊り上げて行きました。一流のVCや金融機関からの投資は、中身の薄い(無いに等しい)WeWork社に箔をつけ、「オフィス革命で世界の意識を高める」「ニューマン一家がWeWork社の羅針盤!」のヴィジョンを連発するだけで、収入より出費が嵩む一方の超ブラックベンチャー企業にも、笑いが止まらないほど投資が転がりこんできました。
孫の桁外れの投資を受けている限り、株式の上場を何年も先送りでき、ウォール街のアナリスト/ファンドマネージャー/投資家の厳しい目を気にすることなく、アダムの思いのまま、事業拡張と市場独占に専念できます。投資家とスタートアップ創業者は、金持ち父さんと不良息子の関係です。破天荒で血気盛んなティーンエイジャーに、満タンにしたスポーツカーを貸して、無傷で目的地に到達する事をただ祈るしかない親と同じです。特に、社用(ほとんど私用に濫用していた)最高級ジェット機購入を快く認めてくれた孫は、アダムにとっては、願ってもない金持ち父さんなのです。
3)大人不在のパーティー集団
「スーパーパンプト」は、ベンチマーク・キャピタル社のベテラン投資家ビル・ガーリーに経験豊かで常識を弁えた大人の言動に託して、シャーデンフロイデを味あわせてくれますが、「WeCrashed」には常軌を逸したニューマン夫妻に意見し、軌道修正する大人は登場しません。ベンチマークのブルース・ダンレヴィー(アンソニー・エドワーズ)はシリーズAのVC投資家で、アダムに首ったけであると同時に、上場の際に投資は何倍にもなって返って来ると盲信している(欲レンズをかけている)ので、レベッカの贅沢なライフスタイルを維持する為に奔走するアダムに同情して、不正会計や上場前の持ち株の売り抜けなども大目に見る始末です。又、孫がいずれはWeWork社を買い取ると言いだした時点では、「孫は了承済み」と言うだけで、反対する人間は皆無となり、正にアダムのやりたい放題となってしまいました。
4)言行不一致と常軌を逸した言動がユニコーン神話を崩す
従来のベンチャー企業創業者は、株式上場まではずっと我慢の子で、社員と同時に富を手にして初めて贅沢が許されるという鉄則を守ったものです。あの狂犬カラニックでさえ、持ち株は最後の最後まで売らない!と頑張ったと言うのに、アダムはそんな鉄則など何のその!業績を偽り順調に成長している振りをするだけで、企業評価額がうなぎのぼりになり、投資家や金融機関が次世代のAppleやFacebookを求める余り、巨額投資をどうぞ遣って下さいと差し出すからです。
「We before Me」(自分よりWe社を優先しよう)「We’re family and this is our company」(我々は家族、We社は我々のもの)等の甘い社訓スローガンと、ビール飲み放題!やサマーキャンプという名の乱痴気騒ぎ等の小手先の福利厚生で丸め込み、常にIPO時に巨万の富を手にできるという幻想を仄めかして、アダムを盲信する社員を安月給で奴隷の如くこき使いました。
一方、たかり根性を十二分に発揮して、夢にまで見た贅沢三昧の生活(乱痴気騒ぎや超高級テキーラや薬物にのめり込み、各地に豪邸を購入し(最終的に持ち家は8軒)、ジェット機を乗り回して)を満喫していました。つまり、社訓スローガンとは正反対の「Me before We」が、業突く張りナルシストの提唱する理想のコミュニティーだったのです。
どれ程、テレビ伝道師夫婦のように神秘的な説教をしても、言う事とやる事が正反対で、公私混同が表沙汰になると、化けの皮が剝がれるというものです。アダムのビジネス感覚の無さ、経営の杜撰さ(経営という言葉を使うにはお粗末過ぎる、行き当たりばったり、出たとこ勝負の会社運営)、コア・ビジネスとは何の関係もない会社への無意味な投資、私腹を肥やすための不正会計、経費削減と称して社員を解雇するパワハラやセクハラ、刻々と気が変わり、その時の気分で組織や右腕を取っ替え引っ替えする等々は、創業者と言えど首切りされても仕方がありません。IPOに失敗しても、最後の最後まで、私腹を肥やす事だけに全力を注いだ前代未聞のナルシスト夫婦です。
4回に渡ってご紹介したミレニアル詐欺師のうち、カラニックとニューマン夫婦は、かなりの巨額を手にして、現在も何のお咎めもなく、悠悠自適の生活をしています。カラニックは、料理宅配サービスを運営するレストラン経営者に、調理器具を完備したキッチンスペースを貸し出す「CloudKitchens」というスタートアップを2016年に始めました。しかし、Uberと同様の問題が発生し、22年には会員の7割余りがバーチャルキッチンで調理することを拒否して、経営不振に陥っているようですが、カラニック自身がどうなったかは不明です。
一方、ニューマンはシリコンバレーの投資会社AndreeVssen Horowitzから評価額10億ドル、3億5千万ドルの巨額投資を確保して、今年、WeWork住宅版の新会社「Flow」を立ち上げる予定です。Netscape創業で手にした金でVC活動を展開するマーク・アンドリーセン(AndreeVssen Horowitzのパートナーの一人)は、アダムが「過去の失敗から学んで、復活することを期待している」と応援の言葉を贈っています。へー、学んだと思う人がいるんですね?又、焦げ付かすのは目に見えていますが. . .
アンナ・デルヴィーは、21年2月に出所した後、不法滞在の罪で米国移民関税捜査局(ICE)に拘束されていましたが、10月には獄中で描いたイラストの複製で稼いだ20万ドルから、保釈金1万ドルを払って、足首にモニターをつけて自宅軟禁中です。(詳細は、2022年10月12日掲載の「『令嬢アンナの真実』のモデルとなったアンナ・デルヴェイが出所、ニューヨークにカムバック!」をご覧ください。)しかし、回顧録の出版や自作アート展示、VIPを招いてデルヴィー宅で開催する夕食会シリーズなど、相変わらずお金になりそうな企画が山積みだと主張します。そして、雑誌の取材に3千ドルを要求する厚かましさは、自責の念、羞恥心、後悔、恐怖、戸惑いの欠如を物語っています。「今の私には発言力がある」とか「私が今もこれだけ注目されているのは、ブレてないからだと思う」とうそぶくのは、さ、す、が!転んでもただは起きない自己愛性ソシオパスならではの発言です。私の予想通り、キャンセルされるどころか、フォロワーを唆して、益々増長しそうです。
独りだけ、刑務所行きが現実になりそうなのが、セラノス創業者エリザベス・ホームズです。2022年11月18日、カリフォルニア連邦地裁のエドワード・ダヴィラ判事は、ホームズに11年3カ月の禁固刑、出所後3年間の保護観察を申し渡しました。(詳細は、2022年11月21日掲載の「”2代目スティーブ・ジョブス”女性起業家エリザベス・ホームズに禁固11年の実刑判決!」をご覧ください。)しかし、来たる4月27日に自首するまでは、二度目の妊娠中である事、10年以上も長男の側にいてやれない事などを理由に上訴を繰り返して、ダヴィラ判事の人情に訴えようと企んでいます。今後の展開を見守って行きます。
ハリウッドなう by Meg ― 米テレビ業界の最新動向をお届け!☆記事一覧はこちら
◇Meg Mimura: ハリウッドを拠点に活動するテレビ評論家。Television Critics Association (TCA)会員として年2回開催される新番組内覧会に参加する唯一の日本人。Academy of Television Arts & Sciences (ATAS)会員でもある。アメリカ在住20余年。