昨年4月3日の「良妻賢母だけが女じゃない!『デスパレートな妻たち』2018年版ドラメディー『Good Girls』も、崖っぷちに立つ女たちを哀しく可笑しく描いて爽快、爽快!」でご紹介した作品も、米国では去る3月3日よりシーズン2が始まり、現在好調に進行中です。
プレミア直前に発表した英文評はこちらをご覧ください。
デトロイト市に住むベス(クリスティーナ・ヘンドリックス)、妹アニー(メイ・ウィットマン)とルビー(レタ)は、家族の一大危機を脱するために、スーパーに強盗に入ると言う突飛な手段を選びます。ところが、盗み出した大金を返せと執拗な取立てをして来たのは、スーパーではなく、地元の悪の元締リオ(マニー・モンタナ)でした。そこで、「普通の主婦に戻りたい!」一心で、その場凌ぎの対処を繰り返す’良い子ちゃん’トリオを描いたのがシーズン1でした。「良妻賢母だけが女じゃない!」と男に勝る知恵や商才を働かせ、リオの支配をすり抜けようとすればするほど、益々深みにはまって行くトリオでした。リオはマネーロンダリングの子分に酷使していたベスが「親分素質」を持っていることに注目し、敵に塩を送ることも何度かあり、二人の摩訶不思議な関係が生まれます。
クリエイターのジェナ・バンズの「死にものぐるいは、当事者でない限り、コメディーそのもの!」信条が土台となって、創作制作された「Good Girls」です。従来過激シーンはご法度だった地上波局NBCからフリーパスを取り付け、好き勝手を許されたドラメディーだけあって、シーズン2は、八方塞がりの仲良し三人組が無駄な抵抗を試みたが故に、どん底で這いつくばりながら、それでも一抹の光を求める展開になっています。
左からルビー(レタ)、ベス(クリスティーナ・ヘンドリックス)、アニー(メイ・ウィットマン)は、スーパーの金庫からとてつもない大枚を盗み出したまでは良かったのだが、悪の道を歩き始めたことなど、知るよしもない。仲良しトリオの出会いは、シーズン2の後半に描かれる。 © Danielle Levitt/NBC
法律や道徳に一瞬目を背ければ、あくせく働かずとも大金が手に入ると味を占めた良い子ちゃんトリオが、未知の世界に足を突っ込む一種の「冒険」だったシーズン1と比べ、悪の世界に転落してしまった3人が家族を守る大義名分を振りかざしつつ、二進も三進も行かず、あ~でも無い、こ~でも無いと無駄な抵抗を続ける「悪足掻き」がシーズン2です。地上波局がついに「暗~いドラマ」を売りにして来たケーブル局と肩を並べることに成功したと言っても過言ではありません。但し、緊張の1時間に、時々ブラックユーモアが散りばめられていおり、ウィットマンとレタが持ち前の間の良さと場違いの発言で大いに笑わせてくれます。
シーズン2は、初体験がぐっと減り、未知の世界を探検する軽いノリではない。悪循環を繰り返しながら、奈落の底を這い蹲り、何とか抜け出そうとする三人の悪足掻きが描かれるだけに、「暗い」の一言に尽きる。© Jordin Althaus/NBC
更に、今シーズンは二度と’堅気’には戻れないと知りつつも、どん底を這いつくばっているうちに、主婦トリオは「何でこうなったの?」と自問し始めます。リオに’見染められた’ベスは、何故こんなワルに惹かれるのか?単に夫ディーン(マシュー・リラード)の不甲斐なさに愛想をつかしたから?と問いかけます。一旦手に入れた姉御の地位に酔いしれているだけ?とも考えられます。
リオ(マニー・モンタナ)にあの手のこの手で暴利を貪られても、ベスが足を洗わない理由を探求するのが、シーズン2のテーマと読む。© Jordin Althaus/NBC
長年、良妻賢母に甘んじてきたベスにとって、’姉御肌’を買われた満足感や、やれば出来る!達成感は、一旦覚えたら退屈な結婚・主婦生活に戻れない高揚です。悪の世界やリオが持つ危険性に惹かれてと言うよりは、夫には無い’強引さ’や’行動力’を目の当たりにしたからに違いありません。シーズン2第4話では、提案した中古車販売店の新ターゲットや運営方法に耳を貸さないばかりか、経営能力などカケラもないディーンから「男の仕事に口を出すな!」的男尊女卑発言を浴びせられ、ベスは落胆します。あれだけ尽くしても、やはり見下げられていたのだ!と漸く気が付いたのです。’結婚号’の舵取りは実質的に女がしており、自分は帆柱でしかないことに気が付かない男がほとんどです。良くも悪くも’実力’を評価してくれるリオの存在が無ければ、ベスはきっと生涯気付かなかった筈ですから、怪我の功名と言えるのではないでしょうか?
経営能力などカケラも無い上、浮気を繰り返す夫ディーン(マシュー・リラード)に振り回されるのはもう沢山!と謀反を宣言するベス。© Jordin Althaus/NBC
元々、無責任、無鉄砲なアニーは、ストレスに耐えられず、娘の父親グレッグ(ザック・ギルフォード)とくっついたり離れたり、娘に愛想を尽かされるなど、収拾がつかない事この上なしです。但し、ダメ上司レスリーを可愛がる叔母メアリー・アンには弱く、情報を手に入れようと近付いたものの、ミイラ取りがミイラに. . .?
若くして親になったグレッグ(ザック・ギルフォード)は、あの頃をもう一度!とアニーとよりを戻そうとするが. . . © Scott Green/NBC
ルビーのみが、警官になった夫スタン(リノ・ウィルソン)に導かれ、良心の呵責に耐え切れず、危うく警察に出頭することまで考えます。大小関わらず、嘘で嘘を固め、秘密だらけの生活を続けていると、家族や友達関係に少しずつヒビが入って行きます。いつまでも、秘密を守り、嘘をつき続けることはできません。但し、家族の危機を救うために敢えて大胆な行動に出たトリオは、「男に答えを出してもらおうと思うこと自体が問題!」と悟り、頼りになるのは、お互いしかいないとの結論に達します。何でも男に任せていたからこうなった、何でも自分達でやるっきゃ無い!と気付いたのです。そう言えば、ウィットマンがこのシングルマザー役を受けたのは、「これまで自分を押し殺して生きてきた女性に、羽ばたいて欲しいから」と番組開始前に発言しました。
警官になった夫スタン(リノ・ウィルソン)に、何もかも打ち明けたルビーは、何とかムショ入りを避けたいと、助けを求めるが. . . © Josh Stringer/NBC
リオは、我が子には砂場では順番を守れとか、自己チューはご法度と躾はするものの、行動は悪党以外の何物でもなく、今シーズンは凶悪さが露骨に表れます。この手の人間を信じるなんて、大間違い!なのです。言いなりにならなければ、どんな手を使ってでも除去されます。ヤクザやチンピラは、法や道徳には全く左右されませんから、牛耳られるか、逃げるかのいずれかしかありません。ごろつきには、情けをかけてはなりません。ひさしを貸せば、母屋まで取られてしまうからです。だからと言って、刃向かえば、仕返しを覚悟しなければなりません。ならず者に何故?を聞くのは、時間の無駄です。理路整然と行動する訳ではなく、善悪の判断基準が備わっておらず、投獄されることなど平気の平左だからです。
シーズン2の6話を観た後の感想は?6時間ぶっ通しでモグラ退治ゲームをしたかのような、疲労感を覚えました。ベスが敵に回す犯罪者の数は増える一方で、この窮地をどう逃れるのか?逃れられるのか?とドキドキ、ハラハラしました。一難去ってまた一難、息をつく間もありません。家族を守ると言う大義名分が立てば、どんな汚い手を使っても許されるのでしょうか?リオに暴利を貪られたとは言え、根っからの悪党ではないベス、アニー、ルビーのトリオは、阿漕さのせめぎあいをいつまで続けられるのでしょうか?最後に笑うのは誰なのでしょう?何でもあり!の世界ですから、リオが潜入捜査官だったりして. . .このまま行けば、とどのつまり悲惨な結末は目に見えていますから、とんでもないドンデン返しを期待するしかありません。
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◇Meg Mimura: ハリウッドを拠点に活動するテレビ評論家。Television Critics Association (TCA)会員として年2回開催される新番組内覧会に参加する唯一の日本人。Academy of Television Arts & Sciences (ATAS)会員でもある。アメリカ在住20余年。