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「グッド・ファイト」3月14日よりストリーミング配信開始! 「魂の闇夜」から「激動」のシーズン3に移行、元気を取り戻したダイアンの闘いぶりは、爽快そのもの!

心身共に鍛えて、闘いに挑むダイアン・ロックハート(クリスティーン・バランスキー)。シーズン3では、ダイアンのトランプ罷免願望は、更に私的な恨み辛みも加算されて、火に油を注ぐ結果に。©Patrick Harbron/CBS COLUMNS
心身共に鍛えて、闘いに挑むダイアン・ロックハート(クリスティーン・バランスキー)。シーズン3では、ダイアンのトランプ罷免願望は、更に私的な恨み辛みも加算されて、火に油を注ぐ結果に。©Patrick Harbron/CBS

本年も、3月14日から「グッド・ファイト」シーズン3のストリーミング配信が開始されました。シーズン2はトランプ罷免キャンペーンが山場でしたが、何と言ってもデキる女の鑑ダイアン・ロックハート(クリスティーン・バランスキー)に「幸せの秘訣は、鈍に徹すること」と言わしめた、学習性無力感/絶望感のどん底で辛うじて生き長らえてきた良識人の2018年をリアルタイムで描きました。「『魂の闇夜』で苦しんでいるのは、私だけでは無い!」と一抹の光を見出したのは、私だけではありません。良識家の胸の内をあそこまで如実に表現し、カタルシス療法の役目を果たした秀作は、後にも先にも「グッド・ファイト」しかありません。小手先でお茶を濁してきた他局のドラマ等、本作の足下にも及びません。テレビという媒体は、実際に起きた大惨事を映画とは比べ物にならない速度で映像化し、放送できるのが特徴です。しかし、2017年にトランプ政権になって以来、深夜のトーク番組(「The Daily Show with Trevor Noah」「Full Frontal with Samantha Bee」「The Late Show with Stephen Colbert」等)や政界風刺コメディー(「The President Show」「The Cartoon President」等)を除けば、トランプに刃向かうドラマが「グッド・ファイト」以外に見当たりません。皆、トランプの祟りを恐れているのでしょうか?想像だにしなかった狂気の沙汰が分刻みで繰り広げられ、トランプ疲れで、メディアも無力感/絶望感のどん底に落ちたからでしょうか?

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2月1日のTCA冬のプレスツアーで、クリエイターのキング夫妻(ロバート&ミシェル)が、シーズン3を「激動のシーズン」と、発表しました。オバマ政権下で正義を貫いた’理想に燃える’進歩派弁護士ダイアンを演じ、トランプが繰り広げる修羅場の真っ只中で、生き残りを賭けて順応せざるを得ない正義の味方に共感するバランスキーは、「醜い現実をありのままに描く番組のライター達には頭が下がるわ!」と敬服の念を表しました。しかも、ほとんどリアルタイムですから、如何に頭の良い人達がこの作品を制作しているか想像がつくと言うものです。2016年の本作制作発表会で、「トランプ当選で度胸が据わった」とキング夫妻が宣言したことが思い出されます。とは言うものの、辛辣なトランプ批判をキャラが口にする度に「うわー。言っちゃいましたね!」とほくそ笑むものの、同時に「そんなこと言っちゃって大丈夫なの?」と訴訟大好き人間トランプに名誉毀損で訴えられるのを覚悟しているのだろうか?これまで訴えられた事はないのだろうか?と老婆心ながら、心配になってしまいます。

シーズン2のとてつもなく暗く落ち込んだダイアンに打って変わって、今シーズンのオープニングは、「し、あ、わ、せ!」と宣言するダイアンのアップで始まります。もっとも、至福の瞬間は、夫カート・マクヴェイ(ゲーリー・コール)が最近密かに交友を深めている相手の素性がばれた時点で、波打ち際に築いた砂の城の如く、脆くも崩れ去ってしまいます。自分の意に沿わない人間は誰彼無しに罵倒し、権限もないのにその日の気分で政府高官を首にする等、世界の指導者にあるまじき人間以下のトランプの言動に、怒り心頭に達して、為す術もない良識家は怒りのはけ口を求めています。シーズン3開始前は、それでも「今に見ていろ!」と、マラー報告書に大いに期待を寄せていたのですが、漸く4月に公表された報告書は、不発弾に終わってしまった感があり、頼みの綱が断ち切られた今、罷免など夢の夢なのか?と又、失望のどん底に突き落とされたような気がします。

シーズン1から同じオープニングが使われて来ましたが、今シーズンは、木っ端微塵に飛び散るコーヒーポットやカップ、ワイングラス、バーキン風バッグ、ブランド物の衣服等、品目が追加されました。更に、最後にテレビ画面に映し出されたショーン・ハニティー(Fox Newsのニュースキャスターで、トランプが毎晩電話口で相談する相手)、トランプとプーチン、トランプと副大統領ペンスが、画面共々木っ端微塵になるシーンが新たに加えられました。テーマソングはデビッド・バックリーが作曲した歌曲をシーズン1から使用、バロック音楽を上品に奏でるハープシコードで始まり、事務機器や花瓶などが爆発して木っ端微塵に飛び散る度に、テンポが早まり、中世の騎士道を思わせる士気を鼓舞するテンポに変わって行きます。そして、映像に合わせて、鬨の声が入ります。怒りのはけ口を求めて来た私は、このオープニングをすっ飛ばすなど以ての外で、爽快感を味わえる必須のオープニングとして楽しんだいます。特に、今シーズンは、ダイアンがトランプに刃向かう気力を取り戻し、積極的に行動に出る勇気が湧いたので、「私も何かしなくては!落ち込んでいる場合ではない!」と奮い立つから不思議です。これは、米国に住んでトランプの悪政や暴君振りに心を痛めている被害者にしか実感がないので、日本の視聴者がどう受け止めるのかは、大いに疑問です。又、信じ難い、眉唾物の話がドラマに多々盛り込まれているので、米国でトランプの汚水漬け体験していない限り、どこからがフィクションなのか真偽の程が定かでは無いかも知れません。

早朝から72歳幼児の癇癪/泣き言/罵詈雑言のツイートで始まり、トランプ陣営や取り巻きによる茶番劇や狂気の沙汰が繰り広げられるのが、トランプ就任後の’新たな現実’です。2年余りトランプの修羅場と化した米国では、トランプ色に染まることを飽くまで拒否して来たNYやCA州でさえ、如何なる秘密/悪事を暴いても、君臨する’お山の大将’を引きずり下ろすことができないので、諦めの境地に達しています。毎日、民主主義を根底から覆すトランプの言動に心を痛め、衝撃を受けていたのは最初の1年で、最早何を見ても、何を聞いても、動揺しなくなってしまいました。慣れほど恐ろしいものはありません。どうも、これがトランプの手のようです。破廉恥な言動を垂れ流しにすれば、汚水漬けになった被害者(=国民)は徐々に鈍感になって行く、そうなったら自分の勝ち!との計算した上です。シーズン3で初登場するローランド・ブラム(マイケル・シーン)と命名されたキャラが、トランプの手の内を身を以て明らかにします。今尚、トランプの「Make America Great Again(=米国を再び偉大な国にしよう)」スローガンに賛同するのは、白人至上主義者、特権階級の権利を飽くまでも維持しようと試みる極右派、人工中絶と同性愛の’罪’を許容しない初の米大統領故に、その他の非人道的言動を黙認する’クリスチャン’と一纏めにされる米国福音派です。この3グループが、卑劣な手段に出ることを厭わず、良識家から見ると「過激派」と十把一絡げにしたくなる連中です。

ダイアンは体を鍛えると同時に、ある秘密結社の一員となり、トランプ打倒を掲げますが、トランプ就任前と就任後では、米国社会の掟や不文律がすっかり様変わりしてしまったことに落胆します。ダイアンが守って来た旧い掟は、最早無用の長物となってしまったのです。真っ向から立ち向かえないトランプ級の卑劣人間には、敵のルール「速やかに、小賢しく、攻撃、嘘をつき、逃げの一手」で対抗するしかないのです。「とにかく、勝つしかない」哲学は、今シーズン意外にもダイアンの身近にその標本が登場します。


落ち込んでいたダイアン(バランスキー)が、怒り心頭に発して、トランプ打倒を目指す秘密結社の一員となる。ガンパレ、ダイアン!と応援すると同時に、私も何かしなくては!と思わせる所が味噌?

シーズン2で、疑心暗鬼になっていたダイアンの不安材料は、伝説的公民権運動の指導者カール・レディック亡き後、レディック・ボウズマン・ロックハート法律事務所に入所して来た娘リズ(オードラ・マクドナルド)でした。リズに事務所を追い出されるのではないかとビクビクしていましたが、幸いダイアンの取り越し苦労に終わりました。相通ずるのは、トランプ罷免のみにも関わらず、ダイアンに誘われてリズも秘密組織の一員となります。

ダイアンの口利きでシカゴでも数少ない’黒人の、黒人による、黒人のための’法律事務所に入所したマイア・リンデル(ローズ・レスリー)は、2週間の拘留体験で、すっかり逞しくなったものの、巨額金融詐欺罪で拘留されたリンデル一族の汚名と、何もかもそつなく熟す、’良妻賢母’アリシア・フローリック級の「優等生」のレッテルを剥がすことができません。カリンダ顔負けの敏腕調査員に昇格したマリッサ・ゴールド(サラ・スティール)は、イメチェンを目指すマイアに、自説「チビの呪い」=透明人間にならないための秘訣を伝授します。存在感を知らしめる訓練が功を奏して、自信が付き始めた矢先、マイアはとんでもない輩ローランド・ブラム(マイケル・シーン)と協働弁護する羽目になります。


イメチェンを図るマイア(レスリー)。リンデル一族の汚名と、アリシア・フローリック級の優等生のレッテルを剥がす為に、マリッサ(スティール)のアドバイスに従うが. . .レディック・ボウズマン・ロックハート法律事務所の弁護士との差別化を図るために、「クール、タフ、若さ、聡明さ」を前面に押し出して、新たにホームページを作って売り込みに励む。

ルッカ・クィン(クッシュ・ジャンボ)は、彼氏が下院議員に当選して首都ワシントンで働くことになったので、乳飲み子を抱えて、シングルマザー生活をしています。姑が子守りを買って出てくれたので、意外にも(?)子育てを満喫。法律事務所の離婚部門を率いることとなり、公私とも多忙な毎日です。


母性本能などあるのか?と思うほどの敏腕弁護士だが、出産してみると、乳飲み子と二人の生活が楽しくて仕方がないルッカ(ジャンボ)。それでも、公私共しっかり両立させる知恵を持っている。

今シーズン、新たに登場する弁護士ローランド・ブラム(シーン)は、嘘もつきようで信ぴょう性が高まると、嘘をつき通して成りあがった傲慢、尊大、破天荒なキャラです。キング夫妻がモデルにしたのは、マッカーシズムを先導した悪名高き弁護士ロイ・コーン。負けても、「勝った!勝った!」と気炎をあげれば、周囲を煙に巻けるとトランプに世渡り術を教えた張本人で、現在のトランプはコーン無くして考えられないと言われています。トランプの師匠コーン風ブラムは、芝居気たっぷりの言動で人目を引き、奔放な振る舞いや破廉恥な言動で圧倒し、敵の痛い所を突いてきます。法廷でも、レディック・ボウズマン・ロックハート法律事務所でも、本音と本能的衝動に身を委ねるよう薦めます。協働弁護して卑劣な手段を目の当たりにしたマイアは、ブラムの策略にまんまとはまり、3年も死に物狂いで働いたレディック・ボウズマン・ロックハート法律事務所から解雇処分を受けます。


ブラム(シーン)は、良識家を遣り込めるのが生き甲斐の破廉恥弁護士。ダイアンやリズ等、女性弁護士からは総すかんを喰いますが、権力に弱い男性にはコネを利用してすり寄り、友達の輪に組み込んで、味方につけてしまう。

「激動」のシーズン3では、良識家ダイアンが、トランプを引きずり下ろす為に、どこまで腐敗、堕落できるか?と言う、難問を提起します。ダイアンは、卑劣人間のルールを実行するほど、身を落とせるでしょうか?「とにかく、勝つしかない」哲学の標本ブラムを嘲笑していても何も始まりません。旧い掟は最早無用の長物となってしまった今、良識家は敵のレベルに身を沈め、自ら卑劣な手を使わなければ、獣同然の輩に太刀打ちできないのでしょうか?ブラムは、トランプとロジャー・ストーン(現代版ロイ・コーンで、トランプの顧問弁護士)を「スリー・アミゴス」(=仲良しトリオ)と称し、「人生は飽くまでも闘いであり、敵の長所を逆手に取れば勝てる」をモットーに、何が何でも勝ち組になることだけ考えて生きています。果たしてダイアンは、目的を達成する為には、手段を選ばず、情け容赦なく刃向かえるでしょうか?

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