去る10月18日の「2022年秋の期待作は、ヒラリー・スワンク主演の『アラスカ・デイリー』と複雑な母子関係を軽いタッチで描くドラメディー『ソー・ヘルプ・ミー・トッド』」でご紹介した、ユニークな想像の賜物の現況をお知らせします。
時代遅れの企業文化を死守して来た恐竜レガシーメディアCBSに、新風が吹き込まれるようになって4年強。同性婚を果敢に描く犯罪捜査/ミステリードラマ「インスティンクト~異常犯罪捜査~」(2018~19年)以来、2021年に颯爽と登場したクイーン・ラティファ主演の痛快アクション・ドラマ「イコライザー」リブート版や黒人女性判事が主人公の法廷ドラマ「オール・ライズ 判事ローラ・カーマイケル」(2019〜21年)と、ダイバーシティ(人種・性別・年齢・階級等の多様性)とインクルージョンを実現して来ました。しかし、巨体の恐竜が方向転換をするのは生易しいことではないと見え、22年秋の新ドラマ3本のうち、「East New York」以外は、「Fire Country」「So Help Me Todd」とも、白人中心で脇をダイバーシティで固めた感は否めません。にも関わらず、その2本のシーズン2更新の発表が最も早かったことは、注目に値します。シーズンを重ねる毎に、俳優へのギャラが釣り上げられ、制作費がうなぎのぼりとなるため、永年継続されて来たドラマの方が、キャンセルの対象となるからでしょう。
「『グッドワイフ』の弁護士アリシアと調査員カリンダを、母親と息子の異色コンビに置き換えて『こちらブルームーン探偵社』(1985~89年)の世界に放り込んだら. . .と提案したら、あっさりOKが出ました」とクリエイター、スコット・ペンダーギャストが発表した異色ドラメディー「So Help Me Todd」。ペンダーギャスト自身の母子関係に捻りを利かした作品だけに、「グッドワイフ」同様、家族内で繰り広げられるドラマがきめ細かく、面白おかしく描かれています。毎回、マギー(マーシャ・ゲイ・ハーデン)が関与する仕事や訴訟は、ライト一家内の揉め事/争点/恨み辛みに対応しており、クライアントの発言や行動から「人の振り見て我がふり直せ」を学び、息子や娘にはそれぞれの人生を歩ませるしかないと思いつつも、潔癖性故の口出しはそう簡単には治りません。家族ドラマ6割+事件捜査/法廷ドラマ4割の構成になっている事が、本作の成功の鍵ではないでしょうか?
オレゴン州知事の首席補佐官として働く長男ローレンス(マシュー・ウィルカス)が第7話で初めて登場し、母親との関係のみでなく、妹アリソン(マダリン・ワイズ)、末っ子トッド(スカイラー・アスティン)との力関係が漸く明らかになります。父親を亡くした時の歳によって、三人が歩いてきた道は大きく異なります。ローレンスは既に成人して家を出ており、海兵隊除隊後に政界を目指すようになります。政界での野望を持つ故に、知事に立候補する際に自分に不利な厄介な家族から孤立して、一心不乱に働いて来ました。理路整然、冷静沈着を絵に描いたようなローレンスは、マギーには自慢の長男ですが、負け組とけなされても自由に生きるトッドに言わせれば、「アップデートが必要な冷たいロボット」でしかありません。
一方、仕事も結婚も母が敷いたレールに乗っかって、「グッドワイフ」のアリシアのように良い子ちゃんを演じてきたアリソンは、アラサーになって自分の生き方に疑問を感じるようになります。何の取り柄もない(失礼!)夫チャック(クレイトン・ジェームズ)とは同居人同様で、出会い系サイトに登録するほどの反抗期(?)を迎えています。
感謝祭に全員集合しないと意気消沈するマギー、母親の心痛を読みとって兄と姉を説き伏せようとする心優しいトッドを描く第7話は、母親が我が子にかける過度の期待と子供側の言い分や思惑の正面衝突を巧みに描きます。同時に成人してやっと露わになる兄妹の本音を聞くと、同じ親に育てられたにも関わらず、生まれ順や性別/性格の影響で、三人三様の体験があってこそ今日があるんだ!と、目からウロコを味わいます。
謎解きあり、大いに笑えて、時々ほろっとする軽快な異色ドラメディーは、22年9月のデビュー以降、毎週平均630万世帯の視聴者を獲得、放送後35日以内にVODかParamount+配信サービスで視聴した110万世帯を加算すると、総計740万世帯を誇るヒット作となり、早々にシーズン2更新が決まりました。バンザーイ!
映画「スポットライト」の脚本と監督を務めたトム・マッカーシーが書き下ろした「Alaska Daily」は、Missing and Murdered Indigenous Women and Girls(=MMIWGとは、全米・カナダの先住民族女性や少女が何世代にも渡って受けてきたあらゆる迫害や暴力等、白人による残虐行為の解決を促す運動)と貴重な地方新聞の存在をとりあげる、重厚な社会啓発、問題提起ドラマです。
演技派女優ヒラリー・スワンクが演じるのは、NYでキャンセルされて行き場を失ったアイリーン・フィッツジェラルドで、地の果てアラスカで先住民女性が抱える制度的偏見・差別を暴いて、ジャーナリストとしての名誉挽回を計ろうとする調査報道記者です。しかし、アラスカの文化・伝統・歴史を何も知らない他所者白人への風当たりは半端ではありません。’竜巻’アイリーンに脅威を感じるのは、臭いものには蓋を今後も続けていきたい現状維持タイプの官僚、執行機関等々。それでも、勇猛果敢なベテラン調査報道記者に生き残りを賭けなければならない地方新聞社の現状は、哀しいとしか言いようがありません。
昨年10月のデビュー以来、アイリーンと二人三脚を強いられた先住民記者ロズ・フレンドリー(グレイス・ダブ)との仕事振りを主軸に、ザ・デイリー・アラスカン紙記者5人の活躍や葛藤を毎回描いて、脇のキャラを紹介して来ました。取材内容は、アイリーンとロズが追う制度的偏見・差別や白人による残虐行為の解決を促す程の重みはないとしても、地方新聞社の存在を深く掘りさげているのは、さすがマッカーシーのなせる技です。但し、重厚な社会啓発、問題提起ドラマは諸刃の剣で、視聴者の年齢層は高く、シーズン1のみで完となる可能性も無きにしも非ずです。
独りで残業するアイリーンに忍び寄る暗い影. . .前回の崖っぷちシーンを引き継いで始まる第7話「Enemy of the People」は、アラスカに到着して以来、アイリーンに脅迫状や銃弾を送り付けて嫌がらせをしていた地元テロリスト(自分の主義/主張を認めさせようと、物を壊したり、人に危害を加えて、恐怖に陥れて口封じする人間)がついに姿を現すスリル満点でしかも切ない逸話です。「Woke(社会的正義、人種や性差別、環境問題に敏感な事)なエリート・ジャーナリスト」に制裁を加えようと銃を振り回して乗り込んで来ます。Wokeなエコテロリストのお陰で、失業したと愚痴る男の正体は?昨今、事実・真実に基づいた正当な報道をするジャーナリストを襲撃するフェイクニュース(がせねた/デマ/でっちあげ)盲信者=MAGA(Make America Great Againの略)共和党の陰謀論者や過激派に煽られた市民レベルのテロリストが増えているだけに、報道関係者としては身につまされる逸話です。
制作発表時には全13話だった「Alaska Daily」は、去る3月2日、第7話でシーズン1後半を再開し、3月30日の第11話(フィナーレ回)で幕を閉じます。デビュー以来、当日ライブで観た視聴者+放送後7日間のVOD再生視聴は、毎週平均550万世帯を記録しているとABCは発表していますが、シーズン2更新か否かは、5月までお預けです。
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◇Meg Mimura: ハリウッドを拠点に活動するテレビ評論家。Television Critics Association (TCA)会員として年2回開催される新番組内覧会に参加する唯一の日本人。Academy of Television Arts & Sciences (ATAS)会員でもある。アメリカ在住20余年。