マッツ・ミケルセンが、最新作における多様性の欠如が、アカデミー賞作品賞の出品条件を満たさないかもしれないとの質問に困惑した。
先日開催されたヴェネツィア国際映画祭において最新作『Bastarden(原題。英題はThe Promised Land)』の上映が行われ、Q&Aセッションに俳優マッツ・ミケルセンと、ニコライ・アーセル監督とともに登壇した。そこで、2人は記者からアカデミー賞の多様性に関する規定について意見を求められた。
その新基準は2024年に施行される予定で、アカデミー賞の作品賞部門に応募するためには、4つの基準のうち2つ(※)を満たさなければならない。
※4つの基準のうちの1つ、「基準A:スクリーン上の表現」を満たすためにまた3つのうち2つを満たす必要があり、1つ目は「主演または重要な助演俳優の少なくとも1人がアジア人、黒人、ラテン系、ネイティブ・アメリカンなどの人種/民族的マイノリティであること」、2つ目は「二番手または脇役の30%以上が女性、少数民族、LGBTQ +、障害者のうちの2つのグループに属していること」、3つ目は「ストーリー展開・テーマ・物語が女性、少数民族、LGBTQ +、障害者に沿った内容であること」とされる。基準B〜Dでは、監督やスタッフなどの雇用についても同じような条件を課している。
【動画】Q&Aセッションに応じるマッツとアーセル監督(英語)
記者は2人に対して「この作品は、北欧のキャスト・デンマーク製作による作品であるゆえに多様性に欠ける部分がある。そう言えるでしょう」と、今作の多様性の欠如を指摘。
続けて記者が「ハリウッドでは新しいルールも示されていて…」と上記のルールについて言及しかけたところで、マッツが「君は何が言いたいんだい」と話をさえぎった。少し困惑したのか、マッツは笑いながら首を振り、「初めからもう一回質問して」と切り出した。
マッツの要望に従った記者は改めて、「アカデミー賞の作品賞(部門)に出品するためには、多様性のルールがあります。私の見るところ、今作のキャストではその基準に達していないと思います。ほんの興味で質問していますが、今作は芸術的な理由ではなく、多様性の欠如のためにアカデミー作品賞に出品できないはずです。それについて心配はありますか」と質問を整理する。
マッツはすぐに「君はどう思っている」と記者を問い正し、「私は真剣に、正直に聞いているよ。今、君は我々をピンチに追いやっているんだから、しっかり教えてくれ」と記者の話を追及。
記者はアカデミー賞の基準を「難しい基準」と呼び、新しいルールの下では、2020年にアカデミー作品賞を受賞したポン・ジュノ監督の映画『パラサイト 半地下の家族』でさえも、将来的には同部門の対象にはならなくなってしまうという旨を説明した。
それに対してアーセルは、『Bastarden』には有色人種のキャラクターが登場すると返答。続けて彼は「そもそも今作の舞台は1750年代のデンマークなんだ」「有色人種の少女が人種差別を受けるシーンがある。おそらく彼女は当時、デンマーク全土で唯一ともいえる有色人種だったんだよ」と有色人種は映画にも登場するが、そもそも有色人種がほぼいなかった時代の話であることを説明。
続けて「だから私たちの想定には(賞レースの基準の話が)なかったな」「(この映画で人種のバランスを考慮しろというのは)ちょっとおかしな話だと思うよ」「1750年代を歴史的にありのまま描いただけなんだからね」とアーセルは歴史をねじ曲げてまで出演する人種のバランスを考慮しなければならないことに戸惑っていた。
マッツ・ミケルセンが『Bastarden』で演じるのは、王の命令で不毛の平原を耕し、富と名誉を手に入れようとする兵士ルドヴィグ・フォン・ハーレンだそう。
『Bastarden』の日本での公開はまだ決まっていないが、もし今作が歴史に忠実で、かつ芸術的に名作なのであれば、歴史に逆らってまでルールに従わなければ評価されない風潮は議論を呼びそうだ。
【動画】『Bastarden(原題)』予告編
フリーライター(tvgroove編集者兼ライター)。2019年に早稲田大学法学部を卒業。都庁職員として国際業務等を経験後、ライター業に転身。各種SNS(Instagram・X)においても映画に関する発信を行いながら、YouTubeチャンネル「見て聞く映画マガジンアルテミシネマ」にて映画情報・考察・レビュー動画などを配信したり、映画関連イベントの企画・運営も行っている。