アルフォンソ・キュアロン監督(『ゼロ・グラヴィティ』『ROMA/ローマ』)が、『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』はホラー映画だと語った。
『ハリー・ポッター』シリーズ第3作である『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』は、全シリーズの中でも非常に雰囲気のある作品だ。魂を吸い取るおぞましいディメンター、暗い森に響く狼男の遠吠え、タイムトラベルと、さまざまな要素が盛りだくさんの映画となっている。
【動画】『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』予告編(英語)
そんな今作を手がけたアルフォンソ・キュアロン監督は、Total Film Magazine最新号のインタビューで、今作はホラー映画とみなすことができると語った。
「ええ、確実にそう(ホラー映画)ですね」とすぐに認めたキュアロン監督は続けて、「小説を読んだとき、僕が気に入った要素が2つありました。それらはホラー映画の要素ですが、ノワール映画(※1)の側面もあります。なので僕が今作を撮ったとき、フリッツ・ラングから(F・W・)ムルナウ(※2)のような、サイレント時代の終わりからトーキー映画への移行期のドイツ映画をモデルにしたんです。フリッツ・ラングの映画のいくつかは、ノワールのようでもあり、同時にホラーの要素もあることがわかるでしょう」と、100年くらい前のドイツ映画に今作の源流を見出していたことを明らかにした。
※1:フランス語の「noir(黒、暗い)」を語源とし、アメリカで「フィルム・ノワール」といえば虚無的・退廃的な犯罪映画・サイコパス映画などを指すことが大半である。
※2:フリッツ・ラングは『メトロポリス(1927)』や『M(1931)』、F. W. ムルナウは『吸血鬼ノスフェラトゥ(1922)』や『サンライズ(1927)』で知られる映画監督。白黒映画ならではの質感にダークな世界観も映え、今観ても目を奪われる作品を多数残している2人だ。
続けて「さらに大切なのは、特にフリッツ・ラング監督がこういったジャンルを通して、その時代の不安を伝えようとしていた、あるいはそれを投影しようとしていたことです。J.K.ローリング(「ハリー・ポッター」の原作者)が『ハリー・ポッター』で行ったことも、現代や人間のふるまいについての言及だと思うんですよ」と、モデルにしたジャンル映画と、「ハリー・ポッター」の世界の共通項を説明した。
『アズカバンの囚人』に限らず『ハリー・ポッター』シリーズはどれも、ただの煌びやかなファンタジーではなく、どこかダークな要素を垣間見せる作品となっている。そんな仄暗いミステリアスさも間違いなく魅力の一つだ。
魔法のワクワク感、甘酸っぱいロマンス、感動のシーンやエモーショナルな悲劇、そして今回取り上げたおぞましいホラーまで、さまざまな側面で楽しめるからこそ、最終章が終わって10年以上過ぎても常に愛され話題にされ続けるシリーズになったのだろう。
フリーライター(tvgroove編集者兼ライター)。2019年に早稲田大学法学部を卒業。都庁職員として国際業務等を経験後、ライター業に転身。各種SNS(Instagram・X)においても映画に関する発信を行いながら、YouTubeチャンネル「見て聞く映画マガジンアルテミシネマ」にて映画情報・考察・レビュー動画などを配信したり、映画関連イベントの企画・運営も行っている。