10月13日、『死霊館ユニバース』最新作である『死霊館のシスター 呪いの秘密』が日本公開。
この記事では、シリーズを通して人々を恐怖に陥れる悪魔ヴァラクとの新たな戦いを描く今作をレビューする。
【動画】『死霊館のシスター 呪いの秘密』予告編
『死霊館のシスター 呪いの秘密』の概要
あの『死霊館』シリーズの生みの親ジェームズ・ワンが、記念すべき(死霊館)ユニバース10周年となる年に製作を手がけ、想像を絶する恐ろしい呪いの秘密を描く。
1956年、フランスで起こった神父殺人事件をきっかけに、世界に悪が蔓延。ある特殊な能力を持つ主人公のシスター、アイリーンは教会の要請を受けて事件の調査をすることに…。人々を救うため、命の危険をかえりみず祈りをささげるアイリーンは、ついに悪の元凶“シスター ヴァラク”と対峙する。
世界一有名な恐怖のシスター、ヴァラク――すべての呪いとポルターガイストにつながる、呪いの秘密をあなたは直視できるか!?史上最恐のホラーエンターテイメントが、10月13日の金曜日に幕を開ける!(公式HPより)
前作の簡単なふり返り(※前作ネタバレ)
ここで、過去作を復習する時間のない方のために、前作『死霊館のシスター(2018)』を軽くふり返っておこう。
『死霊館のシスター』では、今回の2作目でも主人公であるシスター・アイリーン、そして案内人の男性フレンチーが、神父の付き添いとして修道院の調査に同行。
修道院では昔儀式で召喚されて封印されていた悪魔ヴァラクが空爆によって復活し、修道女たちを苦しめていた。最終的に、アイリーンたちの活躍でヴァラクを撃退した…かに見えたが、ヴァラクの呪いはアイリーンを庇ったフレンチーの首元に残っており、逆さ十字(※1)型の傷として浮かび上がっていた…というところで1作目は終わった。
※1:十字架を逆さにすることでキリスト教を侮辱する悪魔のサイン
悪魔ヴァラクは『死霊館のシスター』シリーズより後の時系列を描く『死霊館 エンフィールド事件(2016)』で登場するため、そう簡単に倒せるはずはないのだが、倒したくても倒せない強力な悪魔というのは、厄介だし恐ろしいものだ。
【動画】前作『死霊館のシスター』予告編
前作の評価で観ないのはもったいない!
実は前作『死霊館のシスター』は、英語圏の映画批評サイトロッテントマトでは批評家の支持率24%・観客の支持率35%、日本の映画レビューサイトFilmarksでも5点満点中星3.3とあまりよろしくない評価を得てしまっている。「前作が気に入らなかった、満足できなかった」という方は多いかもしれない。
筆者的にも1作目は、「世界観は好きだがインパクトに欠け、テンポがよくない作品」という印象はあった。何より、世界観を共にする『死霊館』『アナベル』シリーズのような雰囲気を期待した人が、雰囲気の違いで期待はずれと思ってしまった可能性もあるのではないか。
そんな映画ファンの方々に伝えたいのは、今回の『死霊館のシスター 呪いの秘密』は、「1作目が微妙だったから」で観ないのはもったいない、王道ドキドキホラーに仕上がっているということである。
物理的な攻撃やエンタメ感もある迫力で勢いよく攻め、ジャンプスケア(※2)で驚かせてくる豪快さは、まさに『死霊館ユニバース』の正式な仲間入りとも感じる雰囲気だ。陰鬱な修道院を舞台にのんびりしたテンポで進んだ前作に比べると明らかに、派手でわかりやすい王道ホラーに様変わりしている。
※2:緩急つけた大きな音や迫力ある映像で飛び上がらせるような恐怖演出
ちなみに今作を担当したのは前回『死霊館のシスター』を手がけた監督ではなく、『ラ・ヨローナ〜泣く女〜(2019)』『死霊館 悪魔のせいなら、無罪。(2021)』のマイケル・チャベス監督。死霊館ユニバース3作目となり、シリーズファンが求めるスリルと楽しさを提供する作品づくりもすっかり板についてきた安心の監督という印象になった。
びっくりするし怖いシーンはあるが、その根っこにはエンタメがあり、とはいえ『アナベル 死霊博物館』ほどは遊びすぎず、あくまでホラー映画として見せる。そのバランス感覚が非常に好きだった。
エンタメホラーらしく、びっくりさせたり怯えさせたり、もはや怖いというより感心してしまうような演出まで、悪魔による恐ろしい仕かけも大量だ。
もはやホラー版『マーベルズ』?
普段かわいらしい笑顔が印象的なタイッサ・ファーミガ(シスター・アイリーン役)はすっかり「シスター兼ヒーロー」然とした姿を見せてくれて、堂々とした成長を感じさせてくれる。その姿はどこかDC映画のヒーローのようにも見えてくる。
そして、バットマンにはロビンが、キャプテン・アメリカにはファルコンがいるように、シスター・アイリーンには、共に怖がりながら怪奇現象に立ち向かってくれる奔放な相棒シスター・デブラ(ストーム・リード)がいる。
そんな2人の女性コンビに加え、あどけない少女もキーパーソンとして登場。3人は大変な怪異に晒されながら、勇気とガッツと選ばれし力で頑張る。
ガールズパワーにあふれる力強い女性の戦いを見ていると、同じように2人の大人の女性と1人の少女がチームアップする最新マーベル映画『マーベルズ(11月公開)』も頭に浮かび、今作の印象はすっかり“ホラー版マーベルズ”だ。
彼女たちといい『ヴァチカンのエクソシスト』のアモルト神父といい、2023年日本公開映画の聖職者ヒーローたちは強い。
シスター・アイリーンという孤高のヒーロー
先ほど、観ていてDC映画のヒーローにも見えた、と言及したシスター・アイリーン。彼女の描き方にはまさに「孤高のヒーロー」の側面を感じる。
DC映画にはもちろん愉快なチームプレイヤーもいるが、マーベルと比較すると圧倒的に、自らのアイデンティティを隠し、信念や正義のために孤高の存在であり続けようとするヒーローが多い(『ダークナイト』のバットマン、『Vフォー・ヴェンデッタ』のVなど)。その孤独・孤高・秘密のヒーローという姿勢がアイリーンに重なるのだ。
キリスト教に忠実で自分のことは後回し、そして恋愛には距離をおいている。シスターという立場である自分が今すべきことだけを、常に過不足なく行う。
元からクールなキャラクターであれば当然のかっこよさかもしれないが、そうではなく感情はハッキリ表に出るタイプのキャラクターだからなおのこと、「孤独で孤高」という雰囲気が強まるように思えるのだ。終盤にその「寂しさを背負った孤高」っぷりがよく現れるシーンがあるので、ぜひそこも味わっていただきたい。
まとめ:今週末は映画館でヴァラクと対峙せよ!
前作とはまた一味違う、『死霊館ユニバース』らしいスリル満点のホラーで、さまざまな工夫を凝らした悪魔の恐怖演出や3人の女性ががんばるチームアップ感を楽しめる1作で、シスター・アイリーンのヒーロー感もぜひお楽しみいただきたい。
『死霊館のシスター 呪いの秘密』は10月13日(金)全国公開。
『死霊館のシスター 呪いの秘密』作品情報
■『死霊館のシスター 呪いの秘密』
■公開:10月13日(金)
■配給:ワーナー・ブラザース映画
■監督:マイケル・チャベス
■出演: タイッサ・ファーミガ、ストーム・リード、ボニー・アーロンズ ほか
■公式サイト: https://wwws.warnerbros.co.jp/shiryoukan-himitsu/
フリーライター(tvgroove編集者兼ライター)。2019年に早稲田大学法学部を卒業。都庁職員として国際業務等を経験後、ライター業に転身。各種SNS(Instagram・X)においても映画に関する発信を行いながら、YouTubeチャンネル「見て聞く映画マガジンアルテミシネマ」にて映画情報・考察・レビュー動画などを配信したり、映画関連イベントの企画・運営も行っている。