全米で大ヒットし、A24(※)配給ホラーでNo.1となった注目映画『TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー』が12月22日より日本公開。
月曜日の日本最速試写が終わった後、今作の監督でありYouTuber「ラッカラッカ」としても活動してきたダニー&マイケル・フィリッポウ兄弟が登壇した。
※A24:アカデミー作品賞受賞の『ムーンライト』『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』や、話題をさらったホラー映画『ミッドサマー』など、幅広い個性派映画を世に送り出してきた注目の映画会社
会場に笑顔で手をふりながら登場した、「ラッカラッカ」ことダニー&マイケル・フィリッポウ兄弟。
あいさつを求められたダニーは「来てくれてありがとう。映画を楽しんでくれるとうれしいな」と一言。続けてマイケルが「ありがとう。映画を楽しんでくれたかどうか…」と切り出すと、即座にダニーが「僕の(コメントの)パクリだ」とツッコミ。さらにダニーが会場に向けて「お金ならあげるから盛り上がってね」とジョークで呼びかけるなど、開始早々コメディアン・コンビのようなテンポ感で会場の笑いを誘っていた。
「今作は日本のみんなに見せたかった」
どのような流れで映画監督デビューすることになったのか?という質問に対してダニーは、「もともと長編映画を作りたいと思っていて、YouTubeは僕たちの映画撮影スタイルを探すための準備段階でもあった」と明かす。
マイケルは「幽霊ホラーとか憑依ホラーって最高だよ。日本もそういう最高な映画を作ってる国だよね。だから今作は日本のみんなに見せたかった」と日本のホラー文化と今作の共通点に触れていた。
今作はサンダンス映画祭に始まり、アメリカで公開されてさらに大きな話題になっている。
作品への反響について兄弟は「アメリカの観客って声を上げて『そこに行っちゃダメ!』『やめて!』なんて声に出したりするし、何人か気絶すらしていたようで、うれしかったよ」「観客の盛り上がりにはワクワクしたね。それだけでなく、今作を観たジョーダン・ピールやアリ・アスター、ピーター・ジャクソン、サム・ライミとか、尊敬している人々がそれぞれ僕たちに連絡をくれて、本当に感動した」と、一般観客はもちろん、名だたる映画人たちにも認められて大満足の様子だ。
「A24が声をかけてくれただけで夢が叶った気分」
サンダンス映画祭ではその場で小切手を持って「(今作の権利を)買わせてくれ」と言ってくる人々すらいて驚いたという兄弟。
その際にすでにA24からもアプローチを受けていた兄弟は「『別に…』みたいなフリをして内心大喜びをしていた」「A24が声をかけてくれたというだけで夢が叶った気分だった」と有頂天。
製作が決まっている続編もA24が担当することが決まっているが、兄弟は「続編についてはまだ何も(脚本を)書いていなかった時点でA24はOKをくれた。本当に感謝しているよ」とA24との強い信頼関係を語った。
ちなみに兄弟は今作の冒頭につながる前日譚も撮ってあるそうだが、「YouTubeの別アカウントでアップしてみたら、あまりにバイオレントでいじめの描写がひどいとして削除されてしまったんだ。どうしようかなと思ってる」とのこと。今後映画として観られることになるのか、何かの特典映像になるのかは不明だが、YouTubeにアップしてみるくらいには製作が進んでいるようだ。
「製作中は3日間寝ないような期間もあった」
続いて兄弟は、映画を観たばかりの観客からの質問に答えることに。
ふたりのYouTubeチャンネル「ラッカラッカ」の動画のファンだという観客に、YouTubeおよび今回の映画の作り方について聞かれた兄弟は、「YouTubeも映画も自分たちを表現するために作ってる。でももともとYouTubeは映画撮影のテクニックを学ぶためにやっている部分もあるから、色々試したよ。エフェクトを使ってみようとか、セットを組んでみようとか、(「セサミ・ストリート」の)ビッグバードを殺してみようとかね(笑)」と、独創的なYouTube動画を通して映画に必要な技術を学んでいたことを説明。
【動画】ラッカラッカは過去の活動ダイジェスト動画で「ホラー映画監督になったよ」とYouTubeチャンネルに報告した
しかし「YouTubeではなるべく注目を集めることを目指すから、できるだけカオスに、できるだけ破壊や出血を増やして…という方針で、自分たちの深い表現はできなかった」と語るふたりは、映画では兄弟を含めた3人がそれぞれ編集を行い、一番よかった編集を採用することで洗練された作品を目指したという。「3日間寝られないような時期もあった」というストイックな作業を経て、YouTubeではできなかった「深い表現」に向き合ったようだ。
「ホラーでありつつドラマでもある作品を撮りたかった」
ラッカラッカのチャンネルでは暴力的・残虐な演出が大量なのに対して、静かな怖がらせ方もあった『トーク・トゥ・ミー』。そのバランスについて質問を尋ねられたふたりは、「ホラーでありつつドラマでもある作品を撮りたくてバランスに気を配った」「スプラッター映画をやりたかったわけではないんだ」と語る。
今作は本当はもっとバイオレンス描写が多い予定だったが、バランスに配慮してカットも行われたそうだ。「本編で15秒ほどだった“地獄”の描写も、本来は2分30秒あった」との説明には会場もどよめいていた。
「ネガティブなもので心を埋めるとネガティブな結果を呼ぶ」
霊を呼ぶアイテム“手”が表すものについて尋ねられた兄弟は「初稿の段階では“手”にするとは決まっていなかった」「物語が決まってから、今作が表す“人と人とのつながり”のシンボルは“手”だと気づいた」と、降霊の道具以外にも象徴的に描かれる“人の手”の重要さを明かす。
ちなみに降霊道具の“手”に書かれた文字は、世界中を回ってきた“手”の歴史を表しているそうだ。
「“手”は薬物のような“悪いもの”の象徴。人は薬物、アルコール、セックスみたいなもので心の穴を埋めようとするけど、暗いものから逃げようとしてネガティブなものに頼るとすると、ネガティブな結末を呼ぶことになる。それを表現したんだ」と説明するダニー。人は誰しも暗い時期があるが、そういった時に“頼ってはいけないもの”の恐怖が、今作で描かれた。
そしてイベントは終幕へ。
最後の一言を求められたマイケルは「今日はありがとう、作品を楽しんでいただけたなら何よりです」とコメントするも、ダニーが「つまらないコメント」とツッコミ。対するマイケルは「よしじゃあダニーを殴って終わろう」とパンチのフリをするなど、最後まで楽しそうな兄弟でイベントは終わりを迎えたのであった。
【動画】『TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー』予告編(英語)
母を亡くした高校生のミアは、気晴らしに仲間とSNSで話題の「#90秒憑依チャレンジ」に参加してみる。ルールは簡単。呪物の「手」を握り、「トーク・トゥ・ミー」と唱えると、霊が憑依する――ただし、必ず90秒以内に「手」を離すこと。ミアたちはそのスリルと快感にのめり込み、憑依チャレンジを繰り返してハイになっていくが、仲間の1人にミアの母の霊が憑依し――。(公式HPより)
監督であるフィリッポウ兄弟が子どもの頃に観て憧れた「グースバンプ」シリーズ、さらに『殺人の追憶』『ぼくのエリ 200歳の少女』といった名作映画たちに影響を受けた、A24 No.1ホラー映画『TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー』は12月22日より全国公開。
フリーライター(tvgroove編集者兼ライター)。2019年に早稲田大学法学部を卒業。都庁職員として国際業務等を経験後、ライター業に転身。各種SNS(Instagram・X)においても映画に関する発信を行いながら、YouTubeチャンネル「見て聞く映画マガジンアルテミシネマ」にて映画情報・考察・レビュー動画などを配信したり、映画関連イベントの企画・運営も行っている。