10月20日公開の『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』にはさまざまな苦労があったことをマーティン・スコセッシ監督が明かした。
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ウォール・ストリート・ジャーナル誌の新たなインタビューによると、マーティン・スコセッシ監督はパラマウント・ピクチャーズの重役から、“丸ごと書き直された『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』の脚本を支持するつもりはない”とはっきり言われたようだ。その決裂は、新たな脚本を最終版としてまとめた後に起きたという。
大きな変更にパラマウントが困惑
「スタジオ(パラマウント)は『我々は違うバージョンの脚本をサポートすると決めたのであって、このバージョンでは不可能です』と伝えてきた」と、パラマウントに受け入れてもらえなかったことを振り返るスコセッシ。
当初スコセッシと共同脚本のエリック・ロスは、デヴィッド・グランによる2017年の同名の原作小説(邦題:「花殺し月の殺人」)に忠実な脚本を計画していた。
原作小説およびオリジナルの脚本は、1920年代にオーセージ民族で起きた連続殺人事件を捜査したFBI捜査官の視点から描かれており、レオナルド・ディカプリオは、この事件を担当するFBIの主任捜査官トム・ホワイト役を演じる想定だった。
パラマウントはそのバージョンを喜んでサポートをしようとしていたが、脚本執筆2年目にディカプリオが脚本の見直しを要求したことでそれは変わった。
アイリッシュ・タイムズ誌のインタビューでスコセッシも「僕とエリック・ロスは、捜査にやってくるFBI捜査官の視点からストーリーを語る想定で話し合っていたんだ」と原作に忠実だったバージョンについて語っている。
「脚本に取り組んでから2年が経ってから、レオ(ディカプリオ)が僕のところにやってきて尋ねたんだ。『心はこの物語のどこにあるの』ってね。僕はオセージ族と会って夕食を共にした。そして『そうか、ここに物語はあるんだ。本当の物語が必ずしも外から来るFBI側にあるとは限らない。むしろオクラホマの内側にあるんだ』と感じたんだ」と、ディカプリオの指摘がきっかけでこの物語の見方が変わったことを説明していた。
ディカプリオの指摘以降、スコセッシとロスは“アーネスト・バークハートとオセージ族の女性モリーの結婚”にスポットを当てた視点で脚本を完全に一新し、ディカプリオがアーネスト役を、グラッドストーンがモリー役を演じることになった。
ディカプリオ演じるアーネストは第一次世界大戦の退役軍人で、オセージ族から富を奪おうとする叔父(ロバート・デ・ニーロ)の貪欲な陰謀に巻き込まれていくことになる。
ディカプリオが演じるキャラクターが変わったことで、脇役として登場するFBIのトム・ホワイト役はジェシー・プレモンスが演じることになった。
スコセッシによると、パラマウントは当初今作を喜んで支持しようとしていたが、脚本が変わって予算が膨れ上がったことで、パラマウントはプロジェクトを降りることにしたという。最終的にはアップル社が2億ドルを出資したことで、パラマウントは劇場配給パートナーとして戻ってきた。
ディカプリオとデ・ニーロのスタイルが違いすぎる?
今作をめぐるスコセッシ監督の苦労はそれだけではない。
スコセッシは長年起用してきた2人のお気に入り俳優、レオナルド・ディカプリオとロバート・デ・ニーロを共演させたことによる苦難をウォール・ストリート・ジャーナル誌に明かしている。
「ふたりはこれ以上ないほどに異なるタイプの俳優」だと説明するスコセッシは、撮影現場でのディカプリオの会話・セリフの即興演技が「エンドレス、エンドレス、エンドレス」だったと振り返る。
それに対して「ボブ(ロバート・デ・ニーロ)はもう喋りたくない状態だった」と対照的な状態だったデ・ニーロ。
「ときどき、ボブと僕は目を見合わせて呆れてしまい、『レオ、そんなセリフ要らないよ』と伝えることもあったね」とあまりのディカプリオの即興の多さに空気が悪くなることもあったことを明かした。
そんなさまざまな苦難はあったようだが、それを乗り越えた『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』の評価は、批評家の支持率94%(ロッテントマト)と非常に高い仕上がりとなっている。
『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』は10月20日より日米同時公開。
フリーライター(tvgroove編集者兼ライター)。2019年に早稲田大学法学部を卒業。都庁職員として国際業務等を経験後、ライター業に転身。各種SNS(Instagram・X)においても映画に関する発信を行いながら、YouTubeチャンネル「見て聞く映画マガジンアルテミシネマ」にて映画情報・考察・レビュー動画などを配信したり、映画関連イベントの企画・運営も行っている。