例年秋(エミー賞授賞式の翌日から)に始まる地上波局の新番組の発表は、ストの影響で各局が苦肉の策を打ち出しましたが、指折り数えて待つほどの作品が皆無のため、気が付けばもう感謝祭!やクリスマスのホリデーシーズンに突入していると言う、何とも情けない状況です。
ABCは長年ドラマをすっかり放棄した感があり、昨年から今年にかけて秀作「アラスカ・デイリー」とマイロ・ヴィンテミリアの復帰作「リスキーな結婚相手」を試したものの、いずれもキャンセルされてしまったことに懲りたのか、リアリティー番組+ゲーム番組のオンパレードです。「アラスカ・デイリー」は久々の重厚な秀作だったので、残念無念としか言いようがありません。
CBSがParamount+契約者増加の引き金となった「テイラーバース」の母艦「イエローストーン」を秋の呼び込みドラマに選んだり、Paramount+に移行した「シールチーム5」を穴埋めに使うという画期的(?)な方法を発表しました。「イエローストーン」は、モンタナ州に米最大規模の牧場を営むダットン一家と、西部先住民や開発業者との土地争いや家族内の人間模様を描くネオウェスタン劇です。
NBCは、ストを見越して突入前に撮り終えた「Found」と「The Irrational」の新ドラマ2本を放送中です。10月3日に放送開始となった「Found」は、ギャビー・モーズリーが幼い頃に誘拐監禁された体験を生かして、失踪者や犯罪の被害者を救出する犯罪捜査ドラマです。「WITHOUT A TRACE/FBI 失踪者を追え!」(CBS 2002〜09年)を彷彿とさせるドラマですが、危機管理チームを率いるギャビーが、地下室に監禁している誘拐犯の悪知恵を捜査に利用している点が特徴です。
私が観ている唯一の今秋の新作「The Irrational」は、「パーセプション 天才教授の推理ノート」(TNT 2012〜15年)と同様の犯罪捜査ドラマです。「パーセプション」の神経心理学教授ダニエル・ピアース(エリック・マコーマック)は、統合失調症を患いながらもFBIの犯罪コンサルタントとして活躍するドラマでしたが、「The Irrational」は行動心理学教授アレック・マーサー(ジェシー・L・マーティン)が、教え子や元妻が働くFBIの依頼を受けて犯罪捜査に手を貸すドラマです。9月25日放送開始。
土台となった「予想どおりに不合理 行動経済学が明かす『あなたがそれを選ぶわけ』」の作者ダン・アリエリーもライターチームに加わって、人間の行動に潜む不合理さを行動経済学の観点から検証します。行動経済学という新しい学問が注目されるきっかけになった名著と言われるだけあって、なるほど!と言わせる論理が事件や犯罪捜査に活かされています。例えば、「人間は自分の予測に合わせて結果を解釈する」「正論だけでは人は動かない」「基準次第で結果の解釈は変わる」などのアリエリー論が毎回登場し、一味違う犯罪捜査ドラマに仕上がっています。
今年は、お得意の大人用アニメ作品やゲーム、料理コンペティション・リアリティー番組で凌ぐFox。2024年春の新番組は、ジョン・ウェルズ(「ER 救急救命室」クリエイター)のオアフ島ノースショアで繰り広げられるライフガードとサーファーの闘いを描くドラマ「New Rescue: HI-Surf」と、過去の記憶を失くした医師を描くイタリアの同名ドラマのアメリカ版「Doc」の2本です。
唯一、The CWが痛快推理コメディー「The Spencer Sisters」に加えて、「Sullivan’s Crossing」と、英国チャンネル4制作の異色コメディー「Everyone Else Burns」と最多の本数で勝負します。
10月4日放送開始となった「The Spencer Sisters」は、ミステリー作家ビクトリア・スペンサー(リー・トンプソン)と元警官の娘ダービー(ステイシー・ファーバー)の母娘トリオが繰り広げる痛快推理コメディーです。制作はCTV。
同じく10月4日放送開始となった「Sullivan’s Crossing」は、医療過誤で訴えられて故郷ノバスコシアに舞い戻った脳神経外科医マギー・サリバン(モーガン・コーハン)が繰り広げる愛愛憎模様を描きます。相手役にチャド・マイケル・マーレー、父親役にスコット・パターソンが起用されています。こちらも制作はCTV。
英国チャンネル4制作の異色コメディー「Everyone Else Burns」は、10月26日から始まりました。マンチェスターに住むガチガチの清教徒一家が、ファナティックな(他人の意見や批判を聞く余裕がないほど一途に信じる)伝道に奔走する余り、一般社会から疎まれ爪弾きにされながらも、必死になる両親、普通に生きたい長女、かなり歪んだ世界観を表現する長男を描くコメディー(?)です。宗教であれ、陰謀論であれ、信奉(?)にどっぷり浸かって、周囲や現実が見えない、しかも自分だけが正しいと信じている変な人が増えた昨今、この手のコメディーが出現するのは当然かも知れません。
SAG-AFTRA(俳優組合)のストが終結した11月9日、テレビ評論家協会から2024年春のTCAプレスツアーは、2月1日〜16日に予定されているとお知らせが舞い込みました。まだ日程は確定していませんが、例年1月に開催されるプレスツアーを1ヶ月先に開催するとは、ちょっと意外でした。きっと、感謝祭やクリスマス休暇を返上して、とにかく数話だけでも撮影して、放送開始前に披露するつもりなのでしょう。春は期間が短いので、どの作品も10〜13話で賄える筈です。
それが証拠に、11月13日、CBSから2024年春のスケジュールが送られてきました。2月11日のスーパーボウル中継終了次第、午後10〜11時にジャスティン・ハートリー制作・主演の新ドラマ「Tracker」プレミア放送で幕開けする2024年春のスケジュールは以下のようになっています。
2月12日
「NCIS 21」「NCSI:ハワイ3」
2月13日
「FBI 6」「FBI:インターナショナル3」「FBI〜指名手配特捜班3」
2月14日
「ヤング・シェルドン7」(最終シーズン)「ソー・ヘルプ・ミー・トッド2」「Tracker」アンコール放送
2月15日
「S.W.A.T.7」「ファイア・カントリー2」「ブルー・ブラッド〜NYPD家族の絆14」
2月16日
「イコライザー4」「Tracker」アンコール放送(レギュラー時間枠)「CSI:ベガス3」
2月29日
「エルスベス」(「グッドワイフ」「グッドファイト」のスピンオフ。大ピンチお助け弁護士エルスベス・タシオネがNYPDのコンサルタントとして活躍するコロンボ女版ドラマ。)
「Tracker」はトレーラーを観ても、全く内容がつかめませんが、日本でも固定ファンがついているミステリー小説家ジェフリー・ディーヴァーの流浪の名探偵コルター・ショウ・シリーズの第一弾「ネヴァー・ゲーム」(2019年)を基に、テレビ化したものです。コルター・ショウ(ハートレー)は、緻密で細部を見逃さない冷静な推理と、窮地を見事に抜け出す父親仕込みのサバイバル技術を駆使して、懸賞金付き失踪人/逃亡犯探しに全米を流浪する名探偵。複雑な家族関係や不可解な死を遂げた父の謎を追う人間ドラマであり、同時に頭脳戦とアクション、「どんでん返しの帝王」ディーヴァーならではの逆転劇が期待できる新しいヒーローの誕生です。
WGAとSAG-AFTRAによるダブルストのあおりでキャンセルの憂き目に遭ったドラマは、ABCの「ザ・ルーキー 40歳の新米ポリス!?」のスピンオフ作品「ザ・ルーキー FBI」(22年9月27日〜23年5月2日までに22話放送して、宙ぶらりん状態でしたが、俳優組合のスト終結の翌日に一巻の終わり!を宣告されました)と、韓流ドラマの焼き直し「グッド・ドクター 名医の条件」のスピンオフ作品となる筈だった「グッド・ロイヤー」です。既に、3月放送の「グッド・ドクター」の逸話で、OCD(強迫性障害)を抱えながら恩人弁護士ジャネット・スチュワート(フェリシティ・ハフマン)の下でリサーチ・アシスタントとして働くジョニィ・デグルート(ケネディー・マックマン)が紹介されていただけに、日の目を見ることがないとは、残念で仕方ありません。大学不正入学スキャンダルでしばらく謹慎していたハフマンの復帰作であり、下の動画からも明らかなように、マックマン自身がOCDを克服した体験があるだけに、私は大いに期待していたのですが. . .「グッド・ドクター」ファンから抗議文が寄せられているので、もしかしたらABCの気が変わる可能性も無きにしも非ずです。
「THE GREAT〜エカチェリーナの時々真実の物語〜3」(フールー)は、今年5月新番組が立て込んでいた真っ最中に配信を開始しましたが、エミー賞にノミネートされなかったことを理由に、8月には一巻の終わり!となりました。残虐ではありますが、斬新なドラマですし、シーズン2では毒親に育てられたエカチェリーナとピョートルの哀しいサガが巧みに描かれていたので、大いに期待していました。しかし、シーズン3は、ピョートルを生かしておいて、エカチェリーナが独りで啓蒙専制君主になろうとシャカリキになる姿が仇となり、マンネリ化が目立ちました。もっと早いうちにピョートルを殺してしまった方がドラマとしては、良かったのに. . .と思うのは私だけではない筈です。やはり、歴史に逆らうと、エカチェリーナの偉業を映像化できないと言うことでしょうか?今後、時代劇は敬遠されるものと思われます。
他にも、私が今年の傾向で取り上げた「グリース前編」(パラマウント+)と「プリティ・リーグ」テレビシリーズ版(アマゾン・プライム)もキャンセルされました。「プリティ・リーグ」はシーズン2として4話を制作して、シリーズ終了と決まっていましたが、ストのあおりを受けてシーズン2は没になり、例によって例の如く、尻切れとんぼで終わってしまいました。
日本でも結構注目されていた「ペリフェラル〜接続された未来」(アマゾン・プライム)は、「ウエストワールド」のクリエイター、リサ・ジョイ&ジョナサン・ノーランの手になるSFスリラーです。お抱えプロデューサーのステイタスのみで、何とかシーズン2更新にこぎ着けましたが、やはりストにかこつけてキャンセルの憂き目に遭いました。折からの制作費削減で、シーズン1の制作費1億7千5百万ドルの大作(?)は、アマゾン・プライムも遠慮すると言うことでしょう。次回作「フォールアウト」(ビデオゲームの実写版。24年4月12日配信予定)がヒットしなければ、お抱えプロデューサーの地位さえ危ないと言われています。
「ピークTV」(供給過剰)時代に金に糸目をつけずにSVOD(定額制動画配信サービス)がお抱えにしたプロデューサー軍団は、これからは実績を上げない限り次々と断捨離対象になるでしょう。これまでは、動画配信会社が視聴者数の開示を屁理屈をこねて、頑なに拒否してきましたが、今回のストで追加報酬を支払うために、WGAに開示義務を負った為、実績(視聴者数)も自ずと明らかになる筈です。法外なギャラをもらって、作りっぱなしで済んだ古き良き時代は終わりました。更に、レイチェル・ワイズが双子の産婦人科医を演じたサイコ・スリラー「戦慄の絆」のような限定シリーズも、今後は敬遠されるでしょう。短期の拘束時間で、映画スターが鳴り物入りで関与する限定シリーズは、嘗てはプレミア・ケーブル局HBOの特許的存在でしたが、最早過当競争ジャンルになってしまった上、結果的にはシリーズ並みのインパクトがないと証明されたからです。他局との取り合い合戦や衝動買いを避け、入念に吟味・厳選し、しかも「量よりも質」を安価で実行しなければならない今となっては、限定シリーズも時代劇も古代の遺物になってしまいそうです。
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◇Meg Mimura: ハリウッドを拠点に活動するテレビ評論家。Television Critics Association (TCA)会員として年2回開催される新番組内覧会に参加する唯一の日本人。Academy of Television Arts & Sciences (ATAS)会員でもある。アメリカ在住20余年。