11月17日、最新わんちゃん映画『スラムドッグス』が日本で公開。
この記事では、動物映画の常識を覆す、爆笑&驚愕の衝撃作である今作をレビューする。
【動画】『スラムドッグス』予告編
『スラムドッグス』あらすじ
ある日、犬のレジーは、飼い主のタグに家から遠い場所に捨てられてしまう。しかしピュアなレジーは、投げられたボールを取りに行く、いつもの“取ってこいクソッタレ”ゲームだと信じていた。
家を目指してさまよっていると、ノラ犬界のカリスマ・バグと出会う。レジーの話を聞いたバグは「捨てられたんだよ。お前は今日から“ノラ犬”だ!」と断言する。
飼い主タグが最低なヤツだと気付いたレジーは、まさかの方法で復響することを決意。
「あいつの大切なチ〇コを噛みちぎってやる!」
大胆なレジーの計画に賛同したバグの友達であるマギーとハンターも仲間に加わる。果たして、この復響チン道中の行方はいかに!?(公式HPより)
犬を飼う人全員が「いい人」ではない!
“忠犬ハチ公”の美談にはじまり、『マーリー 世界一おバカな犬が教えてくれたこと(2008)』『犬と私の10の約束(2008)』『僕のワンダフル・ライフ(2017)』『ベラのワンダフル・ホーム(2019)』…と“優しくて温かくて泣ける、感動のわんちゃん物語”は長く愛され、人々を感動させ続けてきた、もはや1つのジャンルといえるだろう。
もちろん、家族に愛されて幸せな日々を送っている犬はたくさんいるし、彼らの絆を描く映画は間違いなく感動的で心温まるものばかり。そうした映画はこれからも人々を癒し、泣かせ続けるだろう。
しかし、果たして犬を飼う人間の全員が善人で、彼らを心から愛し、適切に育て抜いてきただろうか…?
そうであるなら理想的だし、誰も苦労はしない。しかし現実はそうではない。
世の中にはアクセサリーのように犬を飼って適切な育て方をしない人間、犬を虐待する人間、途中で責任を放棄して、犬を捨ててしまう人間も存在する。悲しいことに、それもまた現実だ。
この映画は、そんな“不幸な犬”たちによる怒りと復讐の旅、そしてあふれるブラックなユーモアを通して“ダメ人間”たちに中指を立てる、“いい子ちゃんな犬映画”へのアンチテーゼだ。
“ドッグファースト”で撮られた、本物の犬たちの演技
今作に登場する犬たちの映像は、危険なシーンを除くほとんどが“本物の犬”によって演じられている。
撮影には『わんわん物語(実写版)』『僕のワンダフル・ライフ』など多くの作品で犬の演技指導・アドバイザーを務めてきたマーク・フォーブスが起用され、犬たちの愉快な仕草を導いた。
撮影は“ドッグファースト”で行われ、豪華にもてなされた演技犬たちは遊びムードで楽しく撮影に打ち込んだようだ。
【動画】“ドッグファースト”な撮影の様子
長年犬と仕事をこなしてきた訓練責任者のフォーブスも「『デッドプール』のような喋る犬の映画を作る必要があると思っていた」「本作の話が来た時、胸が高鳴った」と語るとおり、これまでにない犬映画が完成。トレーナーも腕が鳴る撮影だったようだ。
そして大切に扱われた犬たちのうち何匹かはスタッフの家に引き取られることとなった。レジーの幼少期を演じた1匹の子犬はそのまま“レジー”と名づけられ、今作のジョシュ・グリーンバウム監督の家に引き取られたそうだ。
王道な“友情ロードムービー”という側面
今作『スラムドッグス』の原題も「Strays」と複数形。捨てられた主人公レジーが1匹で悲しい運命に気づいてしまう悲劇ではなく、何にでも腰を振ってしまうヤンキーな野良犬バグ、若い犬に飼い主の愛を取られて怒り心頭の美女犬マギー、身体は大きいのに小心者でバカにされている大型犬ハンターという3匹の仲間に出会ったレジーが、群れの1匹として強気に旅を続けるロードムービーだ。
彼らは一緒に長い距離を旅することになる。その旅では脳内のナレーションを聞かせてくる犬(よくある感動犬映画の“あるある”)をバカにしたり、幻覚作用のあるキノコを食べてある事件を起こしてしまったりと、ドタバタ愉快な珍道中が展開する。
そんな経験を通して4匹が、時に衝突したり、時に協力してピンチを切り抜けたりしながら絆を紡いでいく様は、ストレートに楽しくエモーショナル。(ブラックなコメディはさておき)ストレートなロードムービーとして誰もが熱くなれる、楽しい物語にもなっている。
傷つけられたあなたは、悪くない
犬でなくても、自分は傷つけられ、被害に遭った立場なのに「自分が悪いのではないか」とふさぎ込んでしまう人がいる。
今作からは、正しい愛の形を知らず、捨てられたことが信じられないレジーと、彼を見る野良犬たちの交流を通して、“自分を責めてしまう被害者”に「あなたは悪くない」「傷つける人が悪いんだから、自分を責めなくてもいい」と寄り添うような一面も感じる。
全力でおふざけをしつつも、“傷ついた心”への向き合い方は丁寧に教えてくれる、そんな今作の優しさには心を動かされた。
アメリカではR指定にもなった、やり放題のワンちゃん復讐コメディ『スラムドッグス』は、11月17日(金)から日本公開。
日々の鬱憤(うっぷん)を吹き飛ばす、痛快で爽快、前代未聞の犬映画を、ぜひ映画館でお楽しみいただきたい。
原語版ではウィル・フェレル(『バービー』)、ジェイミー・フォックス(『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』)、アイラ・フィッシャー(『グランド・イリュージョン』)、ランドール・パーク(「ワンダヴィジョン」)という豪華な4人がメインの4匹の声を演じ、吹替版でもロバートの秋山竜次、マギー、森久保祥太郎、津田健次郎というこちらも豪華な4人がキャスティングされているため、どちらで鑑賞しても楽しい映画体験が待っているはずだ。
『スラムドッグス』作品情報
監督:ジョシュ・グリーンバウム
出演(声の出演含む):ウィル・フェレル、ジェイミー・フォックス、アイラ・フィッシャー、ランドール・パーク、ブレッド・ゲルマン、ウィル・フォーテ
脚本:ダン・ペロー
製作総指揮:ニッキ・バイダ、ダグ・メリフィールド、ジェシカ・スウィッチ、ジュリア・ハマー
製作:フィル・ロードp.g.a.、クリストファー・ミラーp.g.a、エリック・フェイグp.g.a.、アディッティア・スード p.g.a ルイ・ルテリエ、ダン・ペロー
吹替版:秋山竜次(ロバート)、マギー、森久保祥太郎、津田健次郎、森川智之ほか
邦題:スラムドッグス
日本公開:11月17日(金)
配給:東宝東和
原題:Strays
US公開:2023年8月18日
国内レイティング:PG12
公式サイト:slumdogs-movie.jp
公式Twitter:@slumdogs_jp
© UNIVERSAL STUDIOS. All Rights Reserved.
フリーライター(tvgroove編集者兼ライター)。2019年に早稲田大学法学部を卒業。都庁職員として国際業務等を経験後、ライター業に転身。各種SNS(Instagram・X)においても映画に関する発信を行いながら、YouTubeチャンネル「見て聞く映画マガジンアルテミシネマ」にて映画情報・考察・レビュー動画などを配信したり、映画関連イベントの企画・運営も行っている。