イスラエルとパレスチナ双方から20代前半のメンバーが集まった6人組ボーイズ・グループ「as1one(アズワン)」が誕生した。
長年、音楽プロデューサーとして活躍しているケン・レヴィタンとジェームズ・ディーナーが率いるas1oneのチームは“中東版BTS”を構想しており、その実現を目指したイスラエルとパレスチナのキャスティング・ディレクターは、2021年にイスラエル中の主要都市と小さな村でオーディションを開催。1000人ほどの候補者の中から、6人のデビューが決定した。
プロジェクト開始当初から彼らは、パレスチナ人とイスラエル人で構成されるグループに参加するということが相互の理解・共感を深める試みにつながることを認識していたはずだが、楽曲を発表する前から彼らの団結のメッセージがこれほど強烈に試されることになるとは予測できなかっただろう。
本格的に戦争が始まった時、すでにアメリカに移動していた彼らは、口々に戦争への思いを述べている。
サディク・ドゴシュ(Sadik Dogosh)は、イスラエルのラハト出身の20歳で、俳優経験のあるパレスチナ系ベドウィン・ムスリム。
オハド・アッティア(Ohad Attia)も22歳のユダヤ系イスラエル人。歌とギターを特技にしながらテルアビブで育った彼のスキルはグループでも見事に活きているという。
アッティアは「(攻撃が)始まった時、イスラエルに家族も友達もいるのに何もできないことが、本当につらかったよ」「でもこう考えたんだ。僕たちは、僕たちが助けになるって世界に示していく使命を持っているってね」と、デビュー前の無力感と、今後の活動への意欲を口にしている。
ナダヴ・フィリップス(Nadav Philips)はテルアビブ近郊で育った23歳のユダヤ系イスラエル人。ウエディング・シンガーとして活動してきた経歴がある。
フィリップスも「どれだけ悲痛な思いか、言葉では説明しようもないよ」「すぐに友達や家族のもとへ帰りたいとも思った。でも数日後、大いなる目的を与えてくれたこの活動を続けるほど、良い選択はないと気づいたんだ」と、使命感を持って活動に取り組んでいる。
ネタ・ローゼンブラット(Neta Rozenblat)は、22歳のユダヤ系イスラエル人。テルアビブで育ち、コンピューター科学を学んだ後、歌に目覚め、イスラエル版「Xファクター(2021)」に出演した経験がある。
ローゼンブラットは「スタジオ・セッションの期間は辛いことが多かった」「僕は友人が2人殺されたことを知った。ニヴ(・リン)も友人を殺されたと知った。多くのメンバーがスタジオ・セッションの期間にひどい知らせを受けた。いうまでもなく、今は戦争中だからね」と、たびたびの訃報を聞きながらの活動という辛い経験を振り返った。
アセール・ファラー(Aseel Farah)は22歳でハイファ出身のパレスチナ系クリスチャン。このグループのラッパーで、本人いわく内向的な性格だそうだ。
「僕たちは政治的にはなりたくないな」「ただ人道主義者でいたいんだ」と、ファラーは政治的に活動するのではなく、アーティストとして人道を説く道を進みたいようだ。
ニヴ・リン(Niv Lin)はイスラエル南部の砂漠街に生まれた22歳のユダヤ系イスラエル人。プロのバスケットボール選手からシンガーに転身し、ローゼンブラットと同じくイスラエル版「Xファクター(2021)」に出演した。
リンは「イスラエルにいる僕の友達が死んでいってる時に、パレスチナの友達とハグしてる。なんておかしな話だろう。これが僕たちのストーリーだよ」と彼らの数奇な人生を語った。
まだ彼らのデビューシングルの発売日は告知されていないが、パレスチナとイスラエルをまたぎ、“ひとつになって”という言葉をその名に冠したグループ「as1one」が、悲劇を終わらせる助けになることを願う。
フリーライター(tvgroove編集者兼ライター)。2019年に早稲田大学法学部を卒業。都庁職員として国際業務等を経験後、ライター業に転身。各種SNS(Instagram・X)においても映画に関する発信を行いながら、YouTubeチャンネル「見て聞く映画マガジンアルテミシネマ」にて映画情報・考察・レビュー動画などを配信したり、映画関連イベントの企画・運営も行っている。