イ・ビョンホン&パク・ソジュン共演の最新韓国映画『コンクリート・ユートピア』が1月5日(金)より日本公開。この記事では人間の本質に迫る今作をレビューする。
※今作は、災害で荒れ果てた土地を舞台に、生き残った人々のいざこざを描く作品です。そのような描写・表現を望まない方はご注意ください。
【動画】『コンクリート・ユートピア』予告編
『コンクリート・ユートピア』あらすじ
世界各地で起こった地盤隆起による大災害で一瞬にして壊滅したソウル。
唯一崩落を逃れたファングンアパートには、居住者以外の生存者たちが押し寄せていた。救助隊が現れる気配は一向になく、街中であらゆる犯罪が横行し、マンション内でも不法侵入や殺傷、放火が起こりはじめる。
危機感を抱いた住人たちは、生きるために主導者を決め、住人以外を遮断しマンション内を統制することに。臨時代表となったのは、902号室のヨンタク(イ・ビョンホン)。職業不明で頼りなかったその男は、危険を顧みず放火された一室の消火にあたった姿勢を買われたのだった。
安全で平和な“ユートピア”になるにつれ、権勢を振るうヨンタクの狂気が浮かび上がる。そんなヨンタクに防衛隊長として指名されたのは、602号室のミンソン(パク・ソジュン)だ。妻のミョンファ(パク・ボヨン)はヨンタクに心服するミンソンに不安を覚え、閉鎖的で異様な環境に安堵しながら暮らす住民たちを傍目でみながら生活をしていた。生存危機が続くなか、ヨンタクの支配力が強まったとき、予期せぬ争いが生じる。
そこで目にしたのは、その男の本当の姿だった…。(公式HPより)
他人事にできないテーマ
今作の上映直前に日本を大地震が襲うことになるとは誰も予想していなかっただろう。今もソーシャルメディア上では悲惨なニュースや、新年早々悲惨なニュースの多い現状にダメージを受けた人々の悲痛な声があふれており、「観る予定だった今作を観たくなくなってしまった」という映画ファンもいるかもしれない。
もちろんそのような方が無理に観る必要性は一切ない。ただ、まさにこういう非常時に関する「教訓」「啓蒙」「問題提起」として今作を捉えられる方には“今だからこそ観るべき映画”だともいえるだろう。
災害で秩序を失った人々が混沌としたコミュニティでぶつかり合う今作の様子は、「自分はこうならないようにしよう」「こうなる人々もいるかもしれないから気をつけよう」と思わされる側面も大いにあるからだ。
災害大国・日本においては特に、今作を“ただのフィクション”とは思えない。他人事でない、いつ自分がこうなってもおかしくない世界が今作では描かれているように感じる。
イ・ビョンホン&パク・ソジュンが豪華共演
住民臨時代表を演じたのは、韓国内外で活躍するスター俳優イ・ビョンホン(『HERO』『悪魔を見た』『非常宣言』)。善人も悪人もこなしてきた経験のある彼は、今作の“頼れるが、どこか掴み所のない闇を感じる”という独特のキャラクターを見事に演じている。
観客に一番近い視点で振り回される1人、ミンソンを演じるのは「梨泰院クラス」でおなじみ、最近は『マーベルズ』でハリウッドデビューも果たしたパク・ソジュン。純粋ゆえに振り回され、パートナーから心配されるほどに変貌していくミンソン役に、彼の華のあるビジュアルと対照的な素朴な演技が光っていた。
人間の本性は“善”か“悪”か
災害でほとんどの建物が壊れてしまい、外部とも連絡が取れない、外部に生存者がいるのかもわからない極限状態。法秩序も機能しないこの状態で、マンションの人々は“他所者”を“ゴキブリ”と呼んで迫害していく。
「まともじゃない」と観客視点ではそう感じるし、もちろん登場人物の中にはそれを問題視するキャラクターもいるが、果たして「まともじゃない」状況で「まとも」を貫ける人間は何割いるのだろうか。
法・規則があり、倫理道徳が「常識」として機能している社会では、人は「善人」「無害」でなければ立場を失う。しかし、すべてが破壊された環境においては、「武力」「多数派」こそがものを言う。周りの多数派が武力を振りかざして暴走し始めた時に、勇気を持ってそれに反対できる人間がどれほどいるだろうか。
人が生まれながらにして「善(性善説)」「悪(性悪説)」どちらかであるとは筆者は考えていないが、人もただの生物であって「恐怖」の前には弱いとは思っている。
身勝手な人間ほど声が大きく、周囲を威圧しようとするのは世の常。「恐怖」が原因で「1人の悪」に同調するものが現れれば、「悪」は2人になる。「2人の悪」は「1人の善」を恐怖で従え、3人にすることも容易くなる。よって極限状態において「悪」は増えやすいのではないか。
今作はそうして身勝手な暴走を誰も止められなくなっていく様子を見事に表している。
「信頼」と「盲信」
極限状態において、人々の協力は不可欠だ。協力して何かを行うためには、やはり「信頼」は必要になってくる。しかし「信頼」と「盲信」は違う。ある程度「信じて頼りあう」ことはしながらも、自我を捨て、判断を他人に任せては良からぬ事態に発展しかねない。
真実を自分の目で見極め、正しさを自分の頭で判断することの難しさと重要さ。それが今作が描いた「極限コミュニティ」の姿だと感じる。極限状態においては判断力が鈍り、恐怖も感じやすくなって当然。しかしそこでなんとか一歩踏ん張り、秩序を保つ力こそが、この災害大国においては特に必要な能力だろう。
今観たくない人には絶対におすすめできないが、今だからこそ観るべき人にはぜひ観ていただきたい、そんな、アカデミー国際長編映画賞候補作の韓国代表映画『コンクリート・ユートピア』は1月5日(金)より日本公開。
フリーライター(tvgroove編集者兼ライター)。2019年に早稲田大学法学部を卒業。都庁職員として国際業務等を経験後、ライター業に転身。各種SNS(Instagram・X)においても映画に関する発信を行いながら、YouTubeチャンネル「見て聞く映画マガジンアルテミシネマ」にて映画情報・考察・レビュー動画などを配信したり、映画関連イベントの企画・運営も行っている。