アリアナ・グランデ(Ariana Grande)最新シングル「yes, and?」のミュージック・ビデオが公開。彼女がこの楽曲、ミュージック・ビデオに込めた思い・意味を考察してみる。
【動画】アリアナ・グランデ「yes, and?」ミュージック・ビデオ
まず歌詞は以下のとおり。繰り返し部分は省略しつつ、日本語に意訳してみた。
アリアナ・グランデ「yes, and?」歌詞意訳
In case you haven’t noticed
Well, everybody’s tired
And healin’ from somebody
Or somethin’ we don’t see just right
気づいてない場合のために言っておくけど、まあみんな疲れてるのよ。
そしてちゃんと見えていない誰か、または何かに癒しを求めてる。
(※1)Boy, come on, put your lipstick on (No one can tell you nothin’)
Come on and walk this way through the fire (Don’t care what’s on their mind)
And if you find yourself in a dark situation
Just turn your light on and be like
さあ、リップスティックをとって(誰も文句は言えないよ)
さあ、燃え上がるこの道を行こう(彼らの考えなんて気にせずにね)
もし自分が暗がりにいると感じるなら、自分の光を灯して、そしてこうする
(※2)”Yes, and?”
Say that shit with your chest, and
Be your own fuckin’ best friend
Say that shit with your chest
Keep moving like, “What’s next?”
“Yes, and?”
「そうだけど、何か?」って
胸を張ってそう言って、自分自身が自分の最高の親友でいよう。
胸を張ってそう言って、「次はどうなる?」って進み続けるの。
「そうだけど、何か?」
Now, I’m so done with caring
What you think, no, I won’t hide
Underneath your own projections
Or change my most authentic life
もう私、どう思われるかを気にするのはやめたよ。
自分が投影する影に隠れることも、一番私らしいホンモノの人生を変えることもしない。
(※1繰り返し)
(※2繰り返し)
My tongue is sacred, I speak upon what I like
Protected, sexy, discerning with my time (My time)
Your energy is yours and mine is mine
What’s mine is mine
私の舌は神聖なの。私は自分の好きなことを話すよ。
守られ、セクシーで、自分の時間をハッキリ大切にする。
あなたのエネルギーはあなたのもので、私のエネルギーは私のもの。
私のものは私のもの。
My face is sitting, I don’t need no disguise
Don’t comment on my body, do not reply
Your business is yours and mine is mine
Why do you care so much whose **** I ride?
Why?
“Yes, and?”
私の顔は気に入っている、変装の必要はない。
私の体にコメントしないで、返事はしない。
あなたの問題はあなたのもので、私の問題は私のもの。
私が誰の***に乗っているかなんて、なぜ気にするの?なぜ?
「そうだけど、何か?」
(※2繰り返し)
(※2繰り返し)
外野が口を出すことへの不快感と、自立
簡単な第一印象は「もう放っておいて。私は私、あなたはあなた」と言った形だろうか。そう言ってしまえば、人を突っぱねるような、排除的なニュアンスを含んだ歌曲とも受け取れる。そして、実際そういった面もあるだろう。
6thアルバム「Positions」以来、映画版「ウィキッド」の撮影や他アーティストとのコラボを除けばあまり精力的な音楽活動をしていなかったアリアナには、以前に比べて大きな外見の変化があったため、ソーシャルメディアを中心に「痩せすぎ」などといった外見に関するコメントを多く目にした。
アリアナはそれに対して“自分の身体は問題ないし、これでいいと思っている。放っておいてほしい”というスタンスを貫いており、今回の歌詞でも“見た目に対してとやかく言うな”“外野が私に対してつべこべ言うな”という強い姿勢を感じる部分がある(特に終盤)。
“余計なお世話”を断ち切り、「自分自身が最高の親友」だと自立する、力強く排他的な姿勢が印象的だ。
「あなた自身を大切に」という激励
たしかにこの曲は他人を寄せ付けない、どこか冷たい強さのような部分がある。しかしこの曲から感じるのは、ただ“外野は黙っていろ”という攻撃だけではない。
アリアナの問題はアリアナだけの問題、他人にとやかく言われる筋合いはないとし、「自分を最優先させる」という姿勢は、この曲を聴くすべての人に“同じ強さ”を分け与えてくれる。
自分のなりたい自分になれていない人、他人に敷かれたレールを仕方なく歩んでいる人、他人に外見や価値観を責められて自信を失っている人…そんな全員に向けて“他人の言い分なんか気にする必要はない” “あなたにはあなた自身という味方がいる”と伝えてくれる、冷淡に見えて情熱的、厳しいようで優しい、そんなメッセージ性こそがこの曲の真髄ではないだろうか。
ミュージック・ビデオの表現について
ミュージック・ビデオ冒頭では、「アリアナのポニーテールがもう少し高かった時が好きだ」「アリアナが幸せかどうかなんか知るか。ハッピーよりアートがほしいんだ」「昔のアリが好きだったわ」などと好き勝手に好みを発言したり、「インターネットに書いてあったなら真実だろう」とウワサを語り合ったりしながら批評家たちが入ってくる。まさしく“余計なお世話”な人々だ。
入っていく人々の小難しい顔とは裏腹、部屋から出てくる人々はにこやかで楽しそうだ。
謎めいた石像が砕けて曲が始まると、歌うアリアナとダンサーたちは時にそろい、時にバラバラなフォーメーションダンスを披露。衣装もそれぞれ異なる。歌詞の通り、皆が「我が道」を行っているようだ。
それに対して批評家たちはどうだろうか。皆同じようなスーツにネクタイを締め、メガネやサングラスをかけているなど、遊び心もなく単調な雰囲気だ。
そこに、アリアナが“火をつける”。音楽に徐々にのめり込んでいく批評家たちはついに外界と遮断され、温度が上がっていく部屋でネクタイをゆるめ始める。ちょうどアリアナが「あなたの問題はあなたのもので、私の問題は私のもの」といったリリックを歌うあたりで、批評家たちも個人個人のスタイルで楽しみだす。
最後は「皆が自分自身を見つけたなら、この曲の役目は終わり」とでも言うように、アリアナは目を隠した石像に戻っている。目を隠しているのは、「自分以外の問題は関係ないし、他人の目は気にしない」との意思表示だろうか。
入ってくる時とは逆に、自分たちが「楽しそうな側」として仏頂面の集団とすれ違う批評家たち。「いくら人々に気付きを与えても問題児が多すぎてキリがない」という皮肉にも取れるかもしれないが、「次々に入ってくる人々、全員がこのメッセージを受け止めてくれたら」という願いとも解釈できる演出に感じた。
“自分自身”を大切に歌う「yes, and?」で幕を開けたアリアナ・グランデ7枚目のアルバムへの道。淡々としていながら力強い表題曲を得た今回のアルバムにも、大きな期待ができそうだ。
フリーライター(tvgroove編集者兼ライター)。2019年に早稲田大学法学部を卒業。都庁職員として国際業務等を経験後、ライター業に転身。各種SNS(Instagram・X)においても映画に関する発信を行いながら、YouTubeチャンネル「見て聞く映画マガジンアルテミシネマ」にて映画情報・考察・レビュー動画などを配信したり、映画関連イベントの企画・運営も行っている。