アリアナ・グランデが3月8日に7枚目のアルバムとなる「Eternal Sunshine(エターナル・サンシャイン)」をリリースすることが発表され、人気映画『エターナル・サンシャイン』が改めて人気再燃中。今回はこの映画がどのような作品なのか、簡単に魅力と作風、メッセージ性を紹介したい。
アリアナ・グランデの元恋人・故マック・ミラーのお気に入りでもあったというこの映画が、7枚目のアルバム「Eternal Sunshine」にどのように影響を与えるのか、映画を振り返りながら考えていく。
※この記事には映画『エターナル・サンシャイン』のネタバレを一部含みます。
映画『エターナル・サンシャイン』あらすじ
今作は簡単にいうと恋愛と運命と記憶の物語だ。主人公ジョエル(ジム・キャリー)は元恋人と別れてひとりさまよっていた時、ある女性に出会う。彼女は青い髪でオレンジのパーカーというハデな出で立ちで飾らない性格の女性クレメンタイン(ケイト・ウィンスレット)。当初は我が道を行く彼女のマシンガントークや破天荒な行動に圧倒されるジョエルだが、そのまま恋愛関係に。ふたりの幸せな日々が始まった。
しかし時は経ち、一緒に暮らすようになったふたりが口論になった際、クレメンタインは怒って出て行ってしまう。一方的に別れを告げられて破局した状態のジョエルはその後クレメンタインに再会するが、なんとクレメンタインはジョエルのことをまったく覚えていないのだ。
その後、クレメンタインは自ら志願の上、ある組織の施術によってジョエルに関する記憶を失ったことが判明。そして、悲しみとやるせなさと怒りで打ちひしがれるジョエルもまた、同じ方法で彼女を忘れることを決意する。しかし、記憶を忘れるプロセスの中でこれまでのクレメンタインとの記憶-やり直したい記憶・楽しかった記憶など大量の記憶-をたどるうちに、彼はその“思い出”の大切さ、そして自分が取り返しのつかないことに承諾してしまったことに気づくのだ…。
「君の人生から彼女を消す。朝目覚めた時に君を待っているのは新しい人生だ」
冒頭、ジョエルは砂浜を歩きながら「人々は砂浜が好きだ。ただの小石の集まりなのに」と独白する。どうでもいい小石が集まった砂浜のように、知らない人々が集まった世界。自分のことを“どうでもいい”と思わないでいてくれる他人がどれだけいるだろうか。
今作では、施術する側の人々(マーク・ラファロ、イライジャ・ウッド、キルスティン・ダンスト、トム・ウィルキンソンら豪華キャストが演じた)にとって、赤の他人であるジョエルの記憶は“どうでもいい”ことが強調されている。重大な施術をしているジョエルの近くで飲んで踊って、自分の恋バナをして…と好き放題だ。
結局のところ、記憶も思い出も、そして人生も、自分のものでしかない。自分が手放そうとしてしまえば、あとから後悔しても他人が手を差し伸べてくれることは滅多にない。自分しか持っていない“思い出”を大切にできるのは自分だけなのだ。(それを示すように、今作には他の登場人物にも記憶と恋愛に関するエピソードが含まれており、その物語が主人公の物語と絡むことはない)
大切な人と「共有」する記憶
しかし、記憶・思い出を“自分だけのもの”から一歩外に出す方法がある。この映画で大きく描かれる方法はふたつだ。
ひとつ目の方法は「一緒に過ごす」こと。他人と一緒に時を過ごすことで共通した“思い出”を持つことができる。恋愛に限らずだが、今作のジョエルとクレメンタインが氷の上で星を眺めた夜のピクニックのように、一緒に過ごした記憶はひとりのものではなく、ふたりのものになる。そんな、ひとりのものではなくなった貴重な記憶が両方の頭から消えていくなんて、あまりにも悲しい。
ふたつ目の方法は「おしゃべり」。クレメンタインはとてもおしゃべりで、幼少期の思い出や自分の考えなど、なんでもジョエルに語り尽くす。これについてクレメンタインは“自分の話を恋人と共有したい”と言語化している。彼女は記憶・思い出をふたりのものにしようとしていた。しかしジョエルは「興味がない」と返して彼女を失望させてしまう。
思い込みが強いのが悪い癖、などとジョエルの欠点も知って笑ってくれたクレメンタイン。衝動的なところが好き、とクレメンタインのクセの強い部分も愛していたジョエル。理解し合っていたふたりが一緒に過ごし、たくさん話をして、共有した“ふたりの物語”。ジョエルが“共有した記憶”の大切さに気づくのは、記憶を奪われ始めてからだ。
“Eternal Sunshine of the Spotless Mind”
ちなみに、この映画の元のタイトルは「Eternal Sunshine」の2単語では終わらない。「Eternal Sunshine of the Spotless Mind」だ(そのためアリアナ・グランデは映画タイトルの一部をアルバム名に引用したのだが、日本では映画名とアルバム名がイコールになっている)。
「Eternal Sunshine of the Spotless Mind」という言葉は、作中でも引用される詩人アレキサンダー・ポープの言葉「幸せは無垢の心に宿る。忘却は許すこと。太陽の光に導かれ、陰りなき祈りは運命を動かす」の一部。この言葉がコンセプトになっているこの映画では、お互いを忘れ合ったふたりが再会する運命をたどる。
共に過ごした日々を忘れたとしても、忘れる最中に祈ったその思いは運命を動かした。後悔しながら記憶を失っていく主人公を冷たく突き放しながらも、運命の相手との恋愛を描くロマンチックな部分は非常に温かく、その温かさが多くの人の心に沁みるのだろう。
故マック・ミラーのお気に入り映画
今作『エターナル・サンシャイン』は、アリアナ・グランデの元恋人として有名な故マック・ミラーのお気に入りの映画だったという。
アリアナにはもちろん、誰にも消されていない、誰にも干渉できないアリアナとミラーだけの記憶・思い出が残っているだろう。ミラーが愛したこの映画をテーマにアリアナが作り上げるアルバムが何を歌うのか、想像だけで切なさと期待が同時に押し寄せる。
ミュージック・ビデオのオマージュに期待!
今作における“記憶の中の旅”は夢の中にいるような状況のため、何が起きるかわからない。4歳の頃の記憶に戻ったジョエル(ジム・キャリー)が、ただ“身体が小さいジム・キャリー”として存在したり、屋内の記憶と雨の記憶が重なって部屋の中に雨が降り出したり…そんな独創的で、どこか美しいシーンが多いのも人気の理由のひとつだろう。
「thank u, next」のミュージック・ビデオでも複数の映画のオマージュを組み合わせてみせた映画好きのアリアナ・グランデ。もしアルバムと同名の楽曲「Eternal Sunshine」が存在するなら、そのミュージック・ビデオはこの映画のオマージュになるのではないかと勝手に期待してしまう。
今作はバレンタイン映画でもある。もしかしたら、「Eternal Sunshine」という曲がバレンタインの時期に発表されたりするのかもしれない。今後の展開が楽しみだ。
アリアナ・グランデ7枚目のアルバム「Eternal Sunshine(エターナル・サンシャイン)」は3月8日(金)リリース。
フリーライター(tvgroove編集者兼ライター)。2019年に早稲田大学法学部を卒業。都庁職員として国際業務等を経験後、ライター業に転身。各種SNS(Instagram・X)においても映画に関する発信を行いながら、YouTubeチャンネル「見て聞く映画マガジンアルテミシネマ」にて映画情報・考察・レビュー動画などを配信したり、映画関連イベントの企画・運営も行っている。