時に、機械じかけの人形(アニマトロニクス)にちょっとした狂気を感じたり、なんともいえない不快感を覚えることはないだろうか。2月9日(金)日本公開となるブラムハウス最新ホラー映画『ファイブ・ナイツ・アット・フレディーズ』(映画フナフ、映画FNAF)はそんなアニマトロニクスの恐怖を存分に感じられる1作だ。
【動画】『ファイブ・ナイツ・アット・フレディーズ』予告編
筆者は根っからのディズニー・ファンである。しかし、小さい頃から東京ディズニーランドに行くと、お化け屋敷「ホーンテッド・マンション」よりも「イッツ・ア・スモール・ワールド」や(今はなき)「ミッキーマウス・レビュー」の方が不気味に感じた。
特に、(好きな方には申し訳ないが)「イッツ・ア・スモール・ワールド」にある、“首を笑顔で揺らし続けるヤギの人形”を見ると、いまだになんともいえない不気味さを感じるのだ。
“快活”と“無機物”の矛盾
それがなぜかを明確に言語化することは難しい。もしかしたら、さも楽しげに単調な動きを繰り返す人形たちが持つ、“生気を感じそうで感じられない”という矛盾を脳が受け入れにくいのかもしれない。(その点、「ホーンテッド・マンション」の幽霊人形などは“最初から生気がなさそう”であって、そこに矛盾はない。)
ちなみに筆者は、ホラー映画は大の得意。しかし動物の剥製(はくせい)は大の苦手だ。それには明確な理由がある。“残ってはいけないものが残っている(腐敗して自然に還るはずの遺骸が、人間のエゴによって残ってしまっている)”という状況が非常に不快で、かつその矛盾が受け入れ難いのだ。“快活なアニマトロニクス”が抱える矛盾は、どこかその感覚に似ているようにも思える。“快活そう”という情報と“生気はない”という情報を同時に与えられ、いわば“認識のバグ”が起きるのだ。
「そんなわけがない」二重に起こる“認識のバグ”
“快活なアニマトロニクス”の時点で一度“認識のバグ”が起きる。しかし、今作『ファイブ・ナイツ・アット・フレディーズ』は当然それだけでは終わらない。“快活なアニマトロニクスが襲ってくる”のだ。“活き活きとしているけど生きていないはずのアニマトロニクスが生きているように見える”ということになる。矛盾に矛盾が重なる。脳は大パニックだ。
二重に起きる“認識のバグ”。このレビューを書いていてようやくあの感覚を言語化することができたが、映画を観ている間は“なかなか味わえない複雑な不快感”でしかなく、何がこうも魅力的でオリジナリティのある恐怖を生み出しているのだろう、と考えさせられた。その得体の知れなさが、今作序中盤の大きな魅力になっている。
この映画には、第二段階・第三段階がある
なお、ネタバレは避けるが、この映画にはさらなるステップがある。先ほどの“そんなわけない”という恐怖が第一段階。その単純さで終わらず、次の第二段階には“そういうことか”という受容。そこでは感情移入や、没入体験を与えてくれる。そして改めて第三段階。そこで再び恐怖・スリルを味わわせてくれる。スリルは着実に味わわせつつ、感情を置いてけぼりにしない。その緩急のメリハリが今作の観やすさとキャッチーさを生んでいるのだろう。
そうでなくとも、今作は感情移入・没入感にこだわっているように感じる。主演はジョシュ・ハッチャーソン(『ハンガーゲーム』ピータ役)。彼の人間味あふれる雰囲気は、今作の親しみやすさに一役買っている。製作のジェイソン・ブラムは、ゲームの再現だけでなく、観客が楽しめる物語づくりを目指したという。世界中でヒットした理由もそこにありそうだ。(事実、この映画を楽しんだ筆者も原作ゲームは未経験。)
ゲーム原作者の協力と、個性的なキャラクターたち
ゲームを知らない人でも楽しめる一方で、ゲームファンも置いてはいかない。ジェイソン・ブラムはそこのバランスに非常にこだわっている。製作にはゲーム原作者スコット・カーソンも参加し、その世界観づくりに貢献した。
アニマトロニクス(マスコット)たちも、不気味ながら個性的で愛おしさも感じる。シルクハットに蝶ネクタイがトレードマークのフレディ。ギターを持ったウサギのボニー。ヒヨコのようなチカと、小さくても恐ろしいMr.カップケーキ。骨格が剥き出しの海賊ギツネであるフォクシー。それぞれ世界観をともにしながら、一度見たら忘れない個性がそれぞれにあって魅力的だ。
独特の不快感と解放感、前のめりに没入させる設定と物語、飽きさせない展開、象徴的なキャラクター、そして原作ゲームへのリスペクトと愛。そのすべてを詰め込んだ映画『ファイブ・ナイツ・アット・フレディーズ』は2月9日(金)から公開。このスリルとユーモアを、ぜひ映画館で。
『ファイブ・ナイツ・アット・フレディーズ』作品情報
『ファイブ・ナイツ・アット・フレディーズ』
製作:ジェイソン・ブラム、スコット・カーソン
監督:エマ・タミ
脚本:スコット・カーソン and セス・カデバック & エマ・タミ
原案:ゲーム「Five Nights at Freddy’s」シリーズ/スコット・カーソン
公開日:2024年2月9日(金)全国公開/2023年10月27日(金)US公開 配給:東宝東和
公式HP:https://fnaf-movie.jp/
公式Instagram:https://www.instagram.com/universal_eiga/
フリーライター(tvgroove編集者兼ライター)。2019年に早稲田大学法学部を卒業。都庁職員として国際業務等を経験後、ライター業に転身。各種SNS(Instagram・X)においても映画に関する発信を行いながら、YouTubeチャンネル「見て聞く映画マガジンアルテミシネマ」にて映画情報・考察・レビュー動画などを配信したり、映画関連イベントの企画・運営も行っている。