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【レビュー/映画『ボーはおそれている』】アスター×ホアキン×A24=狂気の3乗! しかし“狂っている”だけでない、唯一無二の“優しい”側面もある

『ボーはおそれている』は狂気的に見えて、実は人に寄り添ってくれる映画? REVIEW
『ボーはおそれている』は狂気的に見えて、実は人に寄り添ってくれる映画?

女性が生きづらい世の中。世間には不平等があふれ、性犯罪も絶えない。是正しなければならない問題は山積みだ。しかしここでひとつ考えたい。不幸な女性が多い世の中に、幸せな男性があふれているといえるだろうか。2月16日(金)公開の最新映画『ボーはおそれている』は、この時代に見過ごされがちな“男性の不幸”を意地悪なシュール・コメディに昇華してみせる怪作だ。

『ボーはおそれている』あらすじ

日常のささいなことでも不安になる怖がりの男ボー。彼はある日、さっきまで電話で話してた母が突然、怪死したことを知る。母のもとへ駆けつけようとアパートの玄関を出ると、そこはもう“いつもの日常”ではない。
これは現実か?それとも妄想、悪夢なのか?次々に奇妙で予想外の出来事が起こる里帰りの道のりは、いつしかボーと世界を徹底的にのみこむ壮大な物語へと変貌していく。(公式HPのあらすじを一部編集)

アリ・アスター×ホアキン・フェニックス×A24=“最狂”

まずは監督について紹介したい。『ボーはおそれている』の監督はアリ・アスター。ホラー映画ファンにはおなじみの名前だろう。彼は過去に1作目『ヘレディタリー 継承』、2作目『ミッドサマー』という2本の衝撃作を手がけ、両方の作品で世界中を震え上がらせた奇才。2本とも芯のあるドラマ性と、狂気的な側面を両立させた映画だ。


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1作目でトニ・コレット、2作目でフローレンス・ピューの最高の演技を引き出した彼が今回主演に抜てきしたのは、『ジョーカー』でアカデミー主演男優賞を獲得したことでも知られるホアキン・フェニックスだ。『ジョーカー』のホアキンといえば、狂気的な演技だろう。

そして今作を手がけた映画会社はA24。アスター監督の過去2作でもタッグを組んだA24は、これまでに『ウィッチ』『ライトハウス』『CLIMAX』『セイント・モード 狂信』といった狂気的な映画たちを世に送り出している。

つまり、アリ・アスター×ホアキン・フェニックス×A24=狂気の3乗。“最狂”なのだ。

狂気の描き方

“最狂”が生まれる方程式は前述のとおり。では『ボーはおそれている』はどう“狂って”いるのか。

まず、とにかくホアキン・フェニックスの怪演が印象的だ。そして周囲の環境や、出会う人々もめちゃくちゃだ。序盤、ただコンビニに水を買いに行くだけでも、とんでもなくカオスなのだ。

さらには公開済の場面写真のとおり、途中ではアニメーションパートまで登場する。こちらは『オオカミの家』監督コンビとの共同作業で手がけたそうだ。

さらに狂っているポイントはいくらでもあるのだが、これから劇場公開される作品であるため、ぜひそこはご自身でご確認いただきたい。

声に出して読みたい、“ボー・イズ・アフレイド”

小汚い風貌で事件を目撃したら犯人だと疑われる。風呂で不審者に襲われて裸で逃げ出したら、今度は自分が不審者扱いされる。不幸続きの中年男性ボー。『ボーはおそれている』は、そんな彼のルーツと人生を辿る、シュールでイジワルなアリ・アスター流コメディだ。

そんな今作の原題は「Beau is Afraid(ボー・イズ・アフレイド)」。主人公ボー(Beau)は、様々なことをおそれている。しかし、何の意味もなく英語作品で「Beau(ボー)」というフランス語のような人名にすることがあるだろうか。

そこで、読み方をそのままスペルを変えてみる。「Boy’s Afraid(ボーイズ・アフレイド)」。つまり、「少年たちはおそれている」。今作は、若き男性たちの恐怖の具現化ではないか。現在、あまりに「男性はケダモノ」といった表現を目にする機会が多い。SNS投稿、スピーチ、小説、歌、絵…あげればキリがないが、世では男性の加害性が大きく取り上げられることが増えた。

これからを生きる男性達は恐れているのではないか。“もう何をやっても、どんな状況でも、男性が悪者扱いされるのではないか”と。

“男性の不幸”に寄り添う貴重な物語

もちろん、性犯罪が多く起きている事実は大問題だ。女性の被害を減らすための注意喚起・問題提起は多いに越したことはない。

しかし、世には一定数“不幸な男性”がいることも忘れてはならない。(女性側の故意または勘違いによる)痴漢冤罪で人生が壊れた男性。“騒いだもん勝ち”で都合のいい女性に不利な状況を作られた男性。ハニー・トラップで大金を失った男性もいるだろう。

ハニー・トラップ(故意に恋愛感情を持たせてだます行為)の被害者に、「女性に誘惑される浅はかさが悪い」という声もあるかもしれない。しかしそれは、性犯罪被害者の女性に「怪しまずホテルについて行ったのが悪い」というような“セカンド・レイプ”的な話題のすり替え。大前提としてだます方が悪いのが当然だ。

この世には救わなければならない女性や、是正しなければならない男女の不平等が多くある。しかし、不幸な女性が多いからといって、不幸な男性を見過ごしていいとは思えない。「キモいおじさん」が一定数いるからといって、「おじさん全員」を「キモい」と言ってはただの誹謗中傷だろう。しかしそのような論調がソーシャルメディアにも散見されるのが現状。“男性に生まれたというだけで逃れられない攻撃”。男性には男性なりに、苦しい現状がこの世にはあろう。

今作は意地の悪い作風ではある。だが、この時代に見過ごされがちな“男性の不幸”に寄り添うという点では稀有(けう)で、とても貴重な作品だと感じるのだ。

『ボーはおそれている』は2月16日(金)公開

アリ・アスター監督、ホアキン・フェニックス主演。そこにA24の協力が加わった狂気的な作品ながら、哀愁漂う中年男性の不幸を見事に描ききり、“笑ってはいけない笑い”を作り出すブラックコメディ映画『ボーはおそれている』は、2月16日(金)日本公開

ついに公開となるこの注目作を、ぜひお見逃しなく。

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