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J. K. ローリング、「ハリー・ポッター」ダニエル・ラドクリフ&エマ・ワトソンを「許せない」と発言-以前より続くトランスジェンダーの権利をめぐる論争に、再び動き【改めて議論を整理】

J.K.ローリング Photo: Anthony Harvey/Shutterstock FILMS/TV SERIES
J.K.ローリング Photo: Anthony Harvey/Shutterstock

J. K. ローリングが、ダニエル・ラドクリフエマ・ワトソンらを「許せない」と発言。

ハリー・ポッター」シリーズの原作者であるJ. K. ローリングが、映画版のハリー・ポッター役で知られる俳優ダニエル・ラドクリフ、ハーマイオニー役で知られるエマ・ワトソンのことを「許せない」と発言した。これは同シリーズとは関係なく、以前から物議を醸している、ジェンダー・マイノリティの権利に関しての意見のすれ違いから来た対立だ。

最新のジェンダーケアに関するBBCの報告内容(2024年4月)

水曜日、BBCがNHS(※1)に委託されたジェンダーケアに関する4年間の調査を報告した(リンクは英語版)。この報告書では、ジェンダーに関する医療サービスが「非常に弱い」根拠に基づいて行われており、医療専門家の手で子どもたちが「失望させられてきた」とされている。

小児科医のヒラリー・キャス医師は、「ジェンダー関連の苦悩に対する介入(思春期ブロッカー(※2)など)による長期的な結果については、まだ良質な情報が存在しない」と記している。続けてキャス医師は、「若者に潜在的に人生を変えるような措置を施しておいて、大人になった彼らに何が起きるかを知らないという状況は異常である」と批判した。

つまりジェンダーケアに関する措置は新技術も多いためまだ情報となる前例が少なく、医師たちも措置だけ行ってその後の様子まで追いきれていないといった現状があることが窺える。

※1:NHS=英国の国民保健サービス。
※2:思春期ブロッカー=本人の合意のもと、第二次性徴を遅らせる薬。

J. K. ローリングがBBCの報告に反応(2024年4月)

これに反応したのがローリング。ここ数年間、ローリングは、トランスジェンダーの権利に関する過激な発言のために多くの批判を浴びている。そして今回も彼女は、前述の報告書を受けて一連のコメントをX(旧Twitter)に投稿した。

「このスキャンダルの結果は数十年にわたって明らかになっていくよ。あなたたちはそれを応援した。あなたたちは研究を妨害し、歪曲しようとさえした。あなたたちは反論する人々を迫害し、業界から締め出そうとした。青少年が実験台にされ、不妊にされ、痛みに苦しんでいるんだよ」と、ローリングは性転換手術を行ったことを後悔する青少年らに共感し、「涙が出た」とも述べた。

「キャスの報告は画期的な瞬間かもしれない。でも、性転換手術を受け直した人々にとっては遅すぎるものだよ。今日は勝利の日ではなく、悲劇が白日の下にさらされた日。私が怒っているように見えるとしたら、本気で私が怒っているからだよ。今朝キャス(の報告)を読んでから、私は一日中、最大限に怒っているの。子どもたちは取り返しのつかない損害を被った。数千人が共犯者だよ。医師だけじゃない。代弁者気取りのセレブ、疑問も持たずに報道するメディア、そして冷酷な企業もね」。

ローリングは青少年が性転換手術を受けたことによる今後の影響を危惧。性転換を助長したセレブやメディア、企業を批判している。

ラドクリフらを「許せない」ローリングの持論

そんな折、ローリングのフォロワーのひとりが、彼女に関する投稿をした。その投稿は「ハリー・ポッター」のスターであるダニエル・ラドクリフとエマ・ワトソンが「知識を持って(ローリングに)公的に謝罪して、(ローリングが)彼らを許す」ことに期待する旨の発言だ。2020年、ラドクリフとワトソンは、トランスジェンダーの権利を支持する見解を公に表明し、ローリングと真っ向から反するスタンスを示している(後述)。

そんな“和解”を期待するファンの声すら、ローリングは素気なくはねつけた。「残念だけど、許せないね」。ローリングはそう答えると、続けて「女性の権利を侵すような運動に親しくしたセレブや、未成年者の性転換を助長するために自身のプラットフォームを利用したセレブは、(私に謝罪するのではなく)トラウマに苦しみながら再度性転換を行った人や、ひとつの性別のための空間を必要としているか弱い女性たちに対しての謝罪をとっておくべきよ」と、ローリングは彼女への謝罪ではなく、“性転換”が行われることによる影響で困っている人々に謝罪すべきだと考えているようだ。

J. K. ローリングに対するダニエル・ラドクリフの反論(2020年6月)

2020年、ダニエル・ラドクリフはトランスジェンダーの権利を否定する発言をしたローリングに対する反論を投稿。「トランスジェンダーの女性は、女性だよ。これに反対するような発言は、全てのトランスジェンダーの人々から尊厳とアイデンティティーを奪う行為であり、我々よりもはるかに専門的な知識を持つLGBTQの医療機関が発信するアドバイスを否定するということだ」「トランスジェンダーやXジェンダーと呼ばれる人達にさらなる支援をしなければならないことは明らか」との発言を残した。


上記発言の詳細は当時の記事へ


J. K. ローリングに対するエマ・ワトソンの反論(2020年6月)

一方、ワトソンは当時「トランスジェンダーの人々は、彼らがそうであると言っている通りの人であり、絶えず疑問視されたり、または何者かであるか言われることなどはなく彼らの人生を生きる権利があるの」とトランスジェンダーの人々を尊重するツイートを行った。


上記発言の詳細は当時の記事へ


ラドクリフとワトソンは(『ファンタスティック・ビースト』のエディ・レッドメインも)、あくまでトランスジェンダーを含むLGBTQ+の人々が「それぞれの思うように生きる権利」を強調している。

改めて議論を整理すると?

ここで一度双方の意見を簡単に整理しておきたい。

J. K. ローリングやヒラリー・キャス医師が懸念しているのは、<性転換手術という取り返しのつかない決断を、未熟な青少年のうちに行って大丈夫なのか?あとになって後悔する可能性はないのか?>ということ。そして<“長期的な影響が明らかな前例がまだない”という点で“実験的”ともいえる施術を青少年に施して、責任は取れるのか?>ということだ。

それに対して2020年にローリングに反論したダニエル・ラドクリフ、エマ・ワトソンらが強調しているのは<LGBTQ+の人々のありのままの心、在り方をただ受け入れるべき>ということ。

性転換を後悔して再性転換手術を受ける人々もいる以上、「誰も後悔しない」と言うことはできない。大きな手術を行うとなれば、子どもだけでなく家族も重たい覚悟は必要であり、「心配するな」というのは難しい。しかし、“結果として後悔しない人々”からすれば「後悔するかも」と言われることすらそもそもアイデンティティの否定につながるため、外野が簡単に発言していいものでもない。

「自分の身体だから(最終的に後悔しようと)自由だし、自己判断・自己責任」というのが通常だが、ではその「判断」の能力は何歳からつくのかという話になり、さらにジェンダー論も絡むため、そこに関してやはり<まだ世の共通認識が形成しきれていない>というのが現状だろう。

改めて大きく取り上げられたローリングの発言に、ラドクリフらは何らか反応を示すのか。動向をチェックしておきたい。

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