クリストファー・ノーラン監督最新作『オッペンハイマー』が、3月29日(金)より全国公開、IMAX®、Dolby Cinema®、35 mmフィルムで同時公開中。この度、筆者は今作の驚愕の企画「3フォーマット制覇バスツアー」に参加してきた。
今回は筆者(ヨダセア)の参加レポートに合わせて、参加者アンケートからの声もいくつかピックアップし、3フォーマットの違いやイベントの感想をお伝えしていこうと思う。
【イベント概要】『オッペンハイマー』公開記念 3フォーマット制覇バスツアー
■日 時:4月13日(土)
■鑑賞スケジュール
9:00 丸の内ピカデリーに集合
9:30 Dolby Cinema®版 (丸の内ピカデリー)
14:15 35 mm版 (109シネマズプレミアム新宿)
19:00 IMAX®版 (グランドシネマサンシャイン池袋)
3フォーマット異なる魅力で飽きさせない
同じ映画、しかも3時間近い映画を1日で3回観ると聞けば、多くの人は驚愕するだろう。もちろん疲れなかったかといえば嘘になる。集中力や目よりも、個人的には映画館に9時間近く座り続けた腰・背中に疲労を感じた。
しかし、それでも『オッペンハイマー』に飽きることは一切なかった。もちろん内容に飽きることもない。さすがはクリストファー・ノーラン監督、さすがはアカデミー作品賞受賞映画だ。台詞、演技、撮影や小道具など、観るごとに毎回新たな発見があり、何度観ても新鮮な気持ちで楽しめる。そして何より、今回の企画の趣旨である「3フォーマット」があまりに効果的に作品に作用し、3回の映像体験がまったく異なるものになっていたのだ。
Dolby Cinema版(丸の内ピカデリー)
公式サイトでも「映像と音響のパワフルな技術」に「卓越したシアターデザイン」が組み合わさると説明されるDolby Cinema。
映像面での武器は「本物の黒」。普段我々が映画館で観ている「黒」のシーンは、厳密には「暗いグレー」であることを、Dolby Cinemaでは改めて認識させられる。Dolby Cinemaで「黒」が映ると、映画館内は文字通り“真っ暗闇”になるのだ。逆に画面が真っ白になると、目を細めてしまうくらいの眩しさが生じる。
その色のコントラストの振り幅が映像を精細に映し出すため、今作ではオッペンハイマーの心象風景や爆発実験のシーン、そしてモノクロ映像のシーンなどでそのコントラストが最大限活きることとなる。
さらに音響面でも「精細さ」が特徴で、縦横無尽に音が駆け回るスピーカー配置によって、映画を空間的に楽しめるため、頭を割るような人々の喧騒や、全方位から身体を震わせる衝撃音など、作品そのままの空気をこまかに感じられた。
アンケートでも「映像が限りなくクリーン」「全音域が体に直接刺さるバキバキのハイレゾ感」「音圧・身体に伝わる振動が最も感じられた」と、映像面・音響面双方の精細さを称賛する声が見られた。
35 mmフィルム版(109シネマズプレミアム新宿)
フィルムで撮った映画をフィルムで流す上映に浸ること。それだけで映画ファンにとっては特別嬉しい映画体験になるだろう。
そこにあるのは他には代えられない“生”感。「カメラの前で息づいた演技がそのままスクリーンに投影されている」。そう実感するフィルム上映は、名優揃いの伝記物語を扱う今作にはぴったり。
他の2フォーマットに比べて爆発実験のシーンや心象風景のシーンでの迫力はかなり劣る分、白黒パートや会話パートにはこのフォーマットにしか出せないノスタルジックな空気感がある。「本当に第二次世界大戦当時にとったドキュメンタリー映像なのではないか」というような気分、往年の名作をリバイバル上映で観ているような気分で作品に浸ることができた。
アンケートでも「一番『映画』を観ている感覚が強かった」「まるで別世界のようで不思議」「じっくり眺めることにより、目に溶け込んでいく」と、フィルム上映の独特さが印象に残った人々の感想が目立った。
さらに109シネマズプレミアム新宿では、坂本龍一が残した音響を楽しむことができる。音楽も非常に素直な響きで耳に沁みた。
IMAXレーザー版(グランドシネマサンシャイン池袋)
「大迫力」を味わうなら、やはり大画面・大音量のIMAX版だろう。このフォーマットでは、圧巻の没入体験が待っている。効果音も音楽も、轟音で全身を文字通り震わせる。
さらに今作では場面によってノーラン監督が意図した画角が変化する。「迫力」だけでなく、巨大な画面に映し出されたキリアン・マーフィやロバート・ダウニー・Jrの表情をじっくり観察しながら演技を楽しめたり、広大な荒野といった光景を“体感”した気分になれるのもIMAXならではだ。
アンケートでも「スクリーンの縦幅目一杯に炎の奔流が映し出されるシーンは圧巻」「人物の表情がパンっと映し出されるだけでも説得力が増す」「ロスアラモスの風景に体を包まれる」と、その大画面ならではの体験を絶賛する声が上がった。
なお、1.43:1の上下ノーカット上映ができるフルサイズシアターは、日本では今回の<グランドシネマサンシャイン池袋>と、<109シネマズ大阪エキスポシティ>の2箇所のみであるため、IMAXレーザー版をフルで楽しむならこれらの映画館に足を運びたいところだ。
それぞれの良さがあり、「これが正解」と選べない!
3フォーマットそれぞれのどこが“すごい”か、ひとことずつで表すなら、Dolby Cinemaは「精細度がすごい」。35mmフィルム版は「“生もの感”がすごい」。IMAXレーザー版は「迫力がすごい」。もっと簡単にいえば、クッキリ楽しむならDolby Cinema、しっとり楽しむなら35mm、ドカンと楽しむならIMAXレーザーだ。
そして『オッペンハイマー』は「精細度」「生もの感」「迫力」のすべてが活きる映画だ。ゆえに「どのバージョンがこの映画に向いている」と簡単に決められない。そしてだからこそ、今回3フォーマットそれぞれの良さを味わえるツアーは非常に充実したものとなったし、まだ今作を観ていない映画ファンにはぜひ「どの要素を強調して観たいか」で観るバージョンを検討してみていただきたい。
お弁当も2食付!
さらにこのバスツアーでは、上映の間の移動2回で、2食分のお弁当まで提供された。
109シネマズプレミアムで映画を観ると4,000円、池袋でIMAX上映を観ると2,700円、Dolby Cinema上映は2,600円と、本来は上映料金(通常料金)だけで9,000円を超えるはずで、そこにパンフレットや2食分のお弁当、そしてバスでの送迎がついているにもかかわらず9,900円で楽しめたこのバスツアーは、率直にいって破格の「お得」さで充実したイベントだったのだ。
参加者アンケートでも「貴重な経験でした。個人ではハードルが高いので助かりました」「それぞれの(上映の)順番と時間がスムーズでストレスなく鑑賞できた」とこの貴重なイベントに満足の声が多数。「無事腰が爆発しました」と9時間近い鑑賞での疲労を口にしながらもイベントに感謝する声も上がっていた。
今後『オッペンハイマー』ほどそれぞれのフォーマットが活きる作品がいつ作られるかはわからないが、一映画ファンとしてはまたこういった面白いイベントが行われることを楽しみにしたい。
クリストファー・ノーラン監督最新作『オッペンハイマー』は、全国で大ヒット上映中。(IMAX®劇場全国50スクリーン、Dolby Cinema®全国10スクリーン、35mmフィルム版109シネマズプレミアム新宿にて上映中。35mmフィルム版 八丁座(広島)にて4月19日(金)より上映。
『オッペンハイマー』作品情報
監督・脚本・製作:クリストファー・ノーラン
製作:エマ・トーマス、チャールズ・ローヴェン
出演:キリアン・マーフィー、エミリー・ブラント、マット・デイモン、ロバート・ダウニー・Jr.、フローレンス・ピュー、ジョシュ・ハートネット、ケイシー・アフレック、ラミ・マレック、ケネス・ブラナー
原作:カイ・バード、マーティン・J・シャーウィン 「オッペンハイマー」(2006年ピュリッツァー賞受賞/ハヤカワ文庫)
2023年/アメリカ
配給:ビターズ・エンド ユニバーサル映画 R15
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公式サイト
フリーライター(tvgroove編集者兼ライター)。2019年に早稲田大学法学部を卒業。都庁職員として国際業務等を経験後、ライター業に転身。各種SNS(Instagram・X)においても映画に関する発信を行いながら、YouTubeチャンネル「見て聞く映画マガジンアルテミシネマ」にて映画情報・考察・レビュー動画などを配信したり、映画関連イベントの企画・運営も行っている。