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【映画レビュー『ザ・ウォッチャーズ』】森の閉所の<鳥カゴ>で観察される人間たちー皮肉な構図で不安と恐怖を煽る“シャマラン節”で描く、人間の二面性

©2024 WARNER BROS. ENT. ALL RIGHTS RESERVED REVIEW
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ほかの生き物を狭い空間に閉じ込め、支配・観察する動物、人間。もし我々人間が、狭い部屋に閉じ込められ、<観察される側>になったとして、文句を言える立場にあるだろうか…?M・ナイト・シャマラン(『シックス・センス』『オールド』監督)が製作総指揮、その娘イシャナ・ナイト・シャマランが監督を務める最新映画『ザ・ウォッチャーズ』が6月21日(金)に日本公開となる。

映画『ザ・ウォッチャーズ』レビュー

【予告編】『ザ・ウォッチャーズ』

『ザ・ウォッチャーズ』あらすじ

地図にない森、ガラス貼りの部屋、見知らぬ3人ー28歳の孤独なアーティスト ミナは、贈り物を届けるだけのはずだったが、そこに閉じ込められ“謎の何か”に毎晩監視されているー“監視者”は何者なのか?そして何故…?

©2024 WARNER BROS. ENT. ALL RIGHTS RESERVED

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簡易レビュー(要約)

『ザ・ウォッチャーズ』は、他の動物に対する倫理観がなかなかアップデートされない人間という生き物を、逆の立場において風刺する耳の痛いシチュエーション・ホラー。
<森の閉所>で先の読めない恐怖を届けた作風はまさにシャマラン・ファミリーらしい。
人間の醜さも美しさも描く今作において非常に重要な<多面性>を表した主人公ミナ。様々な表情でミナを演じきったダコタ・ファニングの配役もすばらしかった。

『ザ・ウォッチャーズ』レビュー本文

罪悪感もなく行われる不条理な支配

動物園の動物がこちらを向かないからといって檻を叩く人間がいる。勝手に閉じ込めておいて、脱走した途端に動物を撃ち殺す人間がいる。人種差別や性差別を問題視し、<人間対人間>における倫理観のアップデートが問われてきた現代においてもまだ、動物園やペット飼育といった<人間対ほかの動物>における人間の身勝手な振る舞いに異論を唱える声はそこまで多くない。ソーシャルメディアで「ペットショップビジネスの裏側」が一時的に大炎上しようと、特段社会的に大きな変化は起きていないように見受けられる。

では、『ザ・ウォッチャーズ』で逆の立場を体験してみよう。自由の効かない空間に閉じ込められ、誰だかわからない存在に毎晩監視され、外に出れば命の危険を感じさせられ、静かな睡眠すら許されない。我々は主人公ミナに感情移入して不安や恐怖に襲われるが、この扱いこそ、普段の我々が当然顔で行っていることではないか。そんなミナが、カゴに入れた鳥(通称:ダーウィン)を持ち歩いているのも皮肉な構図だ。

人間がほかの生き物に不条理に扱われたり、閉じ込められて観察される側になったりといったコンセプトは、『ファンタスティック・プラネット』や『ビバリウム』などを思い出すが、今作もまた、普段の人間の行いに向き合わされる印象的な1作であった。

©2024 WARNER BROS. ENT. ALL RIGHTS RESERVED

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シャマランワールド全開!何もわからない恐怖

今回製作総指揮のM・ナイト・シャマランの過去の監督作品を振り返ると、彼はこれまでにも特定の空間に人間を閉じ込めたり(『スプリット』『オールド』など)、不気味な森を抜けさせたり(『ヴィレッジ』など)といったシチュエーションを通して、観客の不安や恐怖を煽っている。

その娘であるイシャナがメガホンを取った『ザ・ウォッチャーズ』においても、ダーク・ファンタジーと現実世界が交差する<森の閉所>を物語の舞台としてセッティングし、得体の知れない恐怖と皮肉めいたメッセージを届けるじっとり陰湿な作風。まさにシャマラン・ファミリーらしさ全開といえる世界観づくりだ。

ここがどこかわからない。相手が誰なのかわからない。何のためにこうなったのかわからない。いつ何が起きるかわからない。ホラー映画の恐怖は、「わからない」にあることが多い。今作も上記すべての「わからない」が併存する状態から始まる王道ホラー作品で、「何もわからない」という本質的な恐怖を煽ってくるのだ。

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ダコタ・ファニングが演じきる「人間」の生き様

主演としてミナ役を演じるのは、ダコタ・ファニング(『500ページの夢の束』『イコライザー THE FINAL』)。

物憂げにタバコを吹かし、自分以外の誰かになりきったりしながら現実を偽り続けるミナは、15年前に母を亡くした事実を引きずり続けている。ミナは決して品行方正な人間ではないが、どこか心に秘めた責任感・正義感も度々見せており、良心と腹黒さ、正しさと反骨精神を持ち合わせた、非常に“人間的”なキャラクターだ。

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今作は前述のとおり、<エゴにまみれた人間の罪深さ>を風刺している側面を感じられる映画。ただ、同時に<愛にあふれる人間の寛容さ>も示す部分があり、人間の二面性をわかりやすく描いている。

他者との違いによって苦しむ者の痛みにそっと寄り添うようなメッセージを読み取れるパートがあったりと、ただ“不快な作品を作って終わり”にはしない、製作側のスタンスが垣間見えるのだ。

醜いところもあれば、美しいところもあるのが人間のリアル。そんな人間の二面性を描く今作において、多面性を持つミナの人物像は非常に重要といえる。愛情深い表情と、物憂げで冷淡な表情の両方が似合うダコタ・ファニングは、今作の主演に最適な俳優だったといえる。

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王道な演出で恐怖と不安を煽りながら人間の所業を風刺し、しかし攻撃的なだけでなく人間の良さも認める真摯なホラー作品『ザ・ウォッチャーズ』は6月21日(金)日本公開。

『ザ・ウォッチャーズ』作品情報

<STORY>
地図にない森、ガラス貼りの部屋、見知らぬ 3 人ー28歳の孤独なアーティスト ミナは、贈り物を届けるだけのはずだったが、そこに閉じ込められ“謎の何か”に毎晩監視されているー“監視者”は何者なのか?そして何故…?

監督:イシャナ・ナイト・シャマラン
製作:M・ナイト・シャマラン、アシュウィン・ラジャン、ニミット・マンカド
製作総指揮:ジョー・ホームウッド
脚本:イシャナ・ナイト・シャマラン
出演:ダコタ・ファニング、ジョージナ・キャンベル、オルウェン・フエレ、アリスター・ブラマー、オリバー・フィネガン
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公式サイト
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#映画ザウォッチャーズ

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