『キャットウーマン』で酷評を浴びたハル・ベリーが、20年越しの思いを打ち明けた。
ハル・ベリーは最近、映画『キャットウーマン』(’04)の20周年を記念してエンターテインメント・ウィークリー誌のインタビューに応じ、この映画に対する批判が自分ひとりに集中していることが不快であったと認めた。『キャットウーマン』は興行的に失敗し、ベリーはキャットウーマン役の演技でラジー賞(※)を受賞した。彼女はその授賞式に自らのオスカー像(アカデミー賞トロフィー)を手に登場し、最低演技賞のトロフィーを受け取ったことで話題になった。
※その年の“最低映画作品”や“最低の演技”を発表するゴールデンラズベリー賞の通称。
インタビューでベリーは「私はそれが“ハル・ベリーの失敗”であるかのように感じたけど、私がひとりで作ったわけではないでしょ」「これまでずっと、ひとりきりで背負ってきたの」と、映画の失敗という重荷を自分ひとりの肩に背負わされていたように感じていたと告白した。
【動画】『キャットウーマン』予告編(英語)
ハル・ベリーが脚本に感じていた不安
2003年7月23日に米劇場公開されたピトフ監督作『キャットウーマン』は否定的な評価を下され、批評家たちは同作を最悪のコミック映画のひとつと語った。ピトフが監督し、ベリーが同作で演じたペイシェンス・フィリップスは、しがない化粧品会社の従業員であったが、死んでキャットウーマンとして生まれ変わる女性という役だ。
ベリーは今作をとおした「キャットウーマン」というキャラクターの完全な再定義には興味を持っていたが、「命に危険を及ぼす化粧品の生産ラインをキャットウーマンが捜査する」という話には刺激不足を感じたようだ。
彼女は「キャットウーマンが女性たちをフェイスクリームから救うというアイデアは少しヤワだと思ったよ」「他のスーパーヒーローたちはみんな、顔のヒビ割れから女性を救うのではなく、世界を救っている。当時の私は常にソフトなスーパーヒーローものは困難だと感じていたけど、当時の私のキャリアでは、今のような影響力も立ち向かう自信もなかったから、そのまま従ったの」と、脚本の刺激不足を指摘する力と自信がなかったことを告白した。
とはいえ彼女も「製作中はすべて順調だった」「すばらしい撮影だったよ」と満足していたことを強調している。「最高の時間を過ごしたよ。多くの面で、精神的にも肉体的にも猫を体現するために一生懸命働いた。それがうまくいかなかったとは決して思わなかったな。ただ、ストーリーの危険度がそれほど高くないので、他の映画ほど刺激的に感じないかもしれないと思っていたの」と、あくまで懸念点は小規模な脚本だったようだ。
批判を受けたキャットウーマンのコスチュームについて
『キャットウーマン』への批判は、作品が公開される前から始まっていた。キャットウーマンのコスチュームを着たベリーの撮影中の写真がリークされ、コミックファンたちはスーツがコミックに忠実でないことを非難したのだ。ベリーが着た衣装は露出度が高く、ティム・バートン監督の『バットマン リターンズ』でミシェル・ファイファーが着用したようなキャットウーマン従来のイメージとは異なっていた。
プロデューサーのデニス・ディ・ノヴィは同誌に対してこのスーツを「他の映画で人々が慣れているものとは大きく異なった」と説明している。「キャットウーマンのスーツは、定義上、全身が覆われているんだ。でももっとロックンロールで露出度が高いのがクールだと考えたんだ。ハルはジェームズ・ボンド映画でビキニを着ていたことも有名だったし、僕ら自身が気に入っていたんだよ?人々はそれに過剰に反応したけど、非常にばかげているよ。有名なコリーン・アトウッドの助けを得て我々はあの衣装を完成させたんだ。ハル(・ベリー)の意見も多く取り入れられている。僕は今でもあれがクールで、現代的だと思っているよ」と、否定意見に真っ向から対峙し、衣装をクールであると強調した。
さらにベリーも、「ファンはスーツに対して怒っていたね。あれはこれまでと異なるものだったけど、私たちの気持ちとしては、キャットウーマンを何度も作り直すのに、リスクを取ってでも新しいものを作らないなら、やる意義がないと思っていたんだよ。私バージョンのキャットウーマン、私の体、私らしさ、そして私の感性に適しているところに(スーツの)美しさを求めたの」と、スーツが理想的であったことを説明している。
否定的な意見に対する赤裸々な思い
反発されたことについては当然「嫌だった」と明言するベリー。しかし彼女は「私はひとりの黒人女性として、否定的な意見を背負い、戦い、ひとりで逆流を泳ぐことに慣れているよ。ステレオタイプに逆らい、何もないところから道を作り出すことに慣れているの」と、否定意見への耐性があることを説明している。
「黒人女性として人生をかけて戦ってきたから、反発のせいで私が脱線することはなかったよ。ちょっとした映画の悪評?それは不快ではあったけど、それが私の世界を止めたり、私がやりたいことをやめさせたりすることはなかったよ」と、否定意見で止まることのない強さを語ったベリー。
彼女は「全部が私に向けられたのは嫌だったし、いまだに私の失敗だと言われるのも嫌だよ」と今でも傷つくことは認めながらも、「それも背負っていけると思ってる。あれから20年経ってもキャリアが続いていることは確かだし、あれも私の物語の一部だよ。それでいいの。他の失敗や成功も背負ってきたよ。人々には意見があり、時にはそれが他の意見よりも大きく聞こえることもある。それでも前進し続けるだけだよ」とあくまで前向きな姿勢であることを強調した。
フリーライター(tvgroove編集者兼ライター)。2019年に早稲田大学法学部を卒業。都庁職員として国際業務等を経験後、ライター業に転身。各種SNS(Instagram・X)においても映画に関する発信を行いながら、YouTubeチャンネル「見て聞く映画マガジンアルテミシネマ」にて映画情報・考察・レビュー動画などを配信したり、映画関連イベントの企画・運営も行っている。