マーベルに、新たな風が吹いた。「デッドプール」シリーズ、「X-MEN」「ウルヴァリン」シリーズ、そして「マーベル・シネマティック・ユニバース」(MCU)…それらすべてのシリーズ最新作といえる『デッドプール&ウルヴァリン』が、7月24日(金)世界最速にて日本公開となった。
映画レビュー『デッドプール&ウルヴァリン』
【予告編】『デッドプール&ウルヴァリン』
『デッドプール&ウルヴァリン』あらすじ
不治の病を治療するために受けた人体実験で、自らの容姿と引き換えに不死身の肉体を手に入れた元傭兵のウェイド・ウィルソン(ライアン・レイノルズ)。自分のことを“俺ちゃん”と呼び、戦う理由は超個人的。映画の世界を飛び超えて観客にむかって話しかけるなど、なんでもアリの“破天荒なクソ無責任ヒーロー”デッドプールとして活躍する彼は、二本の日本刀と二丁拳銃を使いこなす過激でアクロバティックな戦闘スタイル。そんな彼が大切なファミリーのために世界の命運をかけたある壮大なミッションに挑むことに!?
デッドプールが助けを求めたのは、予測不可能なこのミッションのカギを握るウルヴァリン(ヒュー・ジャックマン)。ウルヴァリンといえば、デッドプールが“爪野郎”と呼び、これまで何度もいじり倒してきた人気キャラクターで、“キレるとヤバい、最恐アウトロー”。驚異的な治癒能力と不死身の肉体を持つウルヴァリンは、これまで、獣のような闘争本能と人間としての優しい心の間で葛藤しながらも、世界平和のため、すべてを斬り裂く超金属の爪を武器に戦ってきたが、彼には戦いから遠ざかっていた“ある理由”があった…。今回は、毒舌&テキトーで下ネタ連発なのに、なぜか憎めないデッドプールとタッグを組み、世界の命運を賭け暴れまわることに…!
レビュー本文
自由に吹きすさぶ、新たな風
今回も“俺ちゃん”ことデッドプールはやりたい放題の言いたい放題。ディズニーによる20世紀FOX買収ネタに飽き足らず、もはやスタジオの枠も飛び出して散々ジョークをまくしたてる。これぞデッドプールだ。ディズニー傘下に入ろうと、彼の勢いは衰えない。いや、それどころか新たなオモチャを得て勢いが増しているようにすら感じた。彼の自由は確実に、MCUに新たな風を吹かせた。
『LOGAN ローガン』で終わったはずのウルヴァリンに、新たな物語を用意したのも、ファンの不安と期待が入り混じるところであろうが、そこもクリアしている。デッドプールとのかけ合い(親友であるライアン・レイノルズとヒュー・ジャックマンのかけ合い)は新たに撮る価値が間違いなくあったし、コミックやアニメのウルヴァリンを愛するファンへの思いがけないプレゼントも多い。彼が復活したことで得られた喜びは、『LOGAN ローガン』で終わらなかったことの複雑な感情を大きく上回った。
今後のMCUへの期待が膨らんだ
『アベンジャーズ/エンドゲーム』以降、どんどんそれぞれが一人歩きしていくようにも見えるMCU作品が、今後どうクロスオーバーし、我々を盛り上げてくれるのかはここ数年の懸念点だった。そこまで後ろ向きな気持ちで観ていたわけではないが、前向きに信じられるヴィジョンを提供されている感覚もなく、どこかフワフワした惰性でシリーズを追っている感覚があったことは否めない。
しかし、今作で、“すべてがひとつになるかもしれない”という感覚を得た。ドラマシリーズ「ロキ」の中でしか存在していなかったTVAが明確に現実世界とつながる感覚にさせられたのも大きいし、何よりこのミュータントふたりが明確に「新しい風」を吹かせてくれて、今後の新たな可能性がついに前向きなヴィジョンとして目の前に現れた気がしたのだ。
もちろん、これは長年マーベル映画やMCUを追ってきたファンとしての意見であり、今から新規のファンが参入できるのかという不安は完全に解消されたわけではない。ただ、今作が散々暴れ回ったおかげで、何か吹っ切れた転換点が生まれ、今後の作品それぞれがまた輝くような期待すら持たされた。
そして、今作の本質、もっとも感動させられた部分は、ネタバレなしには語れないため、ここからは【ネタバレ注意】の上で語り終えたいと思う。
以下、軽度のネタバレを含みます。
「なんて愛とディス、リスペクトとブラックジョークにあふれた映画だろう」というのが、今作を観ながら感じた一番強い思いだ。今作ほどに、すべてのアメコミ映画を平等に称えんとする映画はこれまでにないように思う。“デッドプールにしかできないこと”を、今作は見事に成し遂げてみせた。
冒頭の『LOGAN ローガン』冒とくダンスアクションに始まり、あのキャラに悲惨な死に方を用意したり、あの人たちの名前を出したり、すべてが映画の、シリーズの常識を超えており、“第4の壁”を超えられるメタな存在であるデッドプールだからこそ成立するやりたい放題が詰まっている。
過去に、“なかったことにされた映画”“(意識的に)忘れ去られた映画”“黒歴史と呼ばれた映画”はいくらでもある。シリーズ物の中で失敗作と呼ばれた映画や、実写化したらあまりに批判を浴びた映画などは、そのような扱いを受けてきた。
しかし、今作は違う。リスペクトしたり、逆にネタにしたり、テキトーに扱ったりしながらも、“すべての映画を思い出させる映画”だ。誰かに駄作と言われようが、興行的に大失敗しようが、誰かの情熱と愛を注がれたことは変わらない、たくさんの映画たち。それらすべてに目配せし、すべてをからかいながら抱き寄せる懐の深さは、デッドプールにしかないだろう。
20世紀FOXに別れを告げ、ディズニー率いるマーベル・シネマティック・ユニバースにミュータントたちや「ファンタスティック・フォー」などが合流するこの時代の節目にしかできない、過去作たちへの讃歌。どんなにコメディタッチにしていようと、この深い愛とリスペクトには、映画ファンとして温かい涙を禁じ得なかった。
マーベル愛、映画愛にあふれた最新作『デッドプール&ウルヴァリン』は、7月24日(水)より世界最速公開中。
作品情報
タイトル:『デッドプール&ウルヴァリン』
監督:ショーン・レヴィ(『フリー・ガイ』 『ナイト・ミュージアム』)
キャスト:ライアン・レイノルズ、ヒュー・ジャックマン
日本版声優:加瀬康之、山路和弘、佐倉綾音、置鮎龍太郎、林真里花、三上哲、一柳みる、忽那汐里、影平隆一、嶋村侑
原題:『DEADPOOL & WOLVERINE』
日本公開日:2024年7月24日(世界最速公開)
(c) 2024 20th Century Studios / (c) and ™ 2024 MARVEL.
フリーライター(tvgroove編集者兼ライター)。2019年に早稲田大学法学部を卒業。都庁職員として国際業務等を経験後、ライター業に転身。各種SNS(Instagram・X)においても映画に関する発信を行いながら、YouTubeチャンネル「見て聞く映画マガジンアルテミシネマ」にて映画情報・考察・レビュー動画などを配信したり、映画関連イベントの企画・運営も行っている。