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【映画レビュー『映画検閲』】表現の抑圧と感情の抑圧の果てに待ち受ける狂気・・・現実と幻想の境界線を揺らがせる映像表現が、観客の脳内をもかき乱す

© Censor Productions Ltd/ The British Film Institute/ Channel Four Television Corporation/ Ffilm Cymru Wales 2020, All Rights Reserved. REVIEW
© Censor Productions Ltd/ The British Film Institute/ Channel Four Television Corporation/ Ffilm Cymru Wales 2020, All Rights Reserved.

『パンズ・ラビリンス』や『トータル・リコール』など、現実と幻想の境目があいまいになる映画というのは、いつも独特の魅力を持っている。9月6日(金)から全国公開となる『映画検閲』もまた、そういった作品のひとつだ。

【予告編】『映画検閲』

『映画検閲』あらすじ

1980年代、サッチャー政権下のイギリス。暴力シーンや性描写を売りにした過激な映画<ビデオ・ナスティ>の事前検閲を行うイーニッドは、その容赦ない冷徹な審査ゆえに“リトル・ミス・パーフェクト”と呼ばれていた。
イーニッドがいつも通り作品をチェックしていると、とあるホラー映画の出演者が、幼い頃に行方不明になった妹のニーナに似ていることに気付き、次第に虚構と現実の狭間へと引きずり込まれていく…。

妹の不可解な失踪と未だ向き合えていないイーニッドは、真相につながるかもしれない不気味なホラー映画と、謎めいた映画監督の背後にある真実を解き明かすことを決意する。その記憶は創られたものなのか…?狂気に苛まれ自制を失うイーニッドに待ち受ける現実とは…。

レビュー本文

狂気を取り締まる人間が、狂気に駆られるというコンセプト

今作を見ながら脳裏によぎったのは、“ミイラ取りがミイラになる”という言葉。映画の内容を監視し、一定の基準をもって(クレイジーな)表現を抑圧する検閲係の主人公が、自らクレイジーになっていくコンセプトは独特で惹かれるものがある。

失踪した妹の記憶という心の闇と、映画検閲で目にしすぎた表現の狂気、何をしても社会に敵対しているような状態にある主人公のもろい心理状態に、かき混ぜられたそれらの闇がつけ込んでいく。

© Censor Productions Ltd/ The British Film Institute/ Channel Four Television Corporation/ Ffilm Cymru Wales 2020, All Rights Reserved.

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抑えるべきか、解放すべきか…過剰な規制・抑圧の是非

犯罪や社会問題と、ポップカルチャー・芸術作品における表現の因果関係は、よく問題として取りざたされるが、結局のところ、“抑圧されすぎると人が狂うのか、規制がないと人が狂うのか”という疑問に明確な答えはなく、逆に“両方正しい”、“どちらにせよ個人差である”という部分はやはり大きく感じる。

今作においてもその答えが描かれているわけではなく、規制するために狂気的な表現を浴びすぎて主人公が狂ってしまったようにも解釈できるし、逆に表現と同じくらい自身の記憶や感情を抑圧しすぎて、気づけば芯の部分がおかしくなっていたというようにも受け取れる。

解釈はいくらでもしようがあるが、過剰な規制や、しょせん人間が引いたに過ぎない“正しさ”の線引きといった“検閲”をめぐる疑問・課題を考えながら、ホラー/スリラー演出を楽しめる映画として仕上がっていることは間違いない。

© Censor Productions Ltd/ The British Film Institute/ Channel Four Television Corporation/ Ffilm Cymru Wales 2020, All Rights Reserved.

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どこまでが現実なのかわからない、混沌の映像表現

ある特的の対象を観察し過ぎると何が正しかったのかわからなくなってくる、俗にいう“ゲシュタルト崩壊”のようなものが誘発されるように感じる今作、特に印象的なのは、現実的な景色にはそぐわない、異様に赤い照明と、時代背景も映した粗く淡いVHSクオリティの画質だ。

価値観が歪み、思い込みにすがり、目の前に広がる光景が現実なのか想像なのか映画なのかもわからなくなっていく主人公の戸惑いは観客にもシンクロし、映像内において現実と虚構の境界線は溶けてなくなってしまう。

検閲のしすぎと思い込みによって、現実の光景に赤いフィルターがかかっているのか、観ている映画の中に入り込んでしまった感覚になっているのか、それとも見えているすべては妄想なのか…戸惑っているうちにもう次の戸惑いが生み出され続け、中盤以降は常に頭の中をグチャグチャにかき回されるような感覚に陥るのだ。

© Censor Productions Ltd/ The British Film Institute/ Channel Four Television Corporation/ Ffilm Cymru Wales 2020, All Rights Reserved.

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結局何が正しいのか。そもそも正しさ・誤りなど存在するのか。主人公は何が原因で、何を行ってしまっているのか。疑問や苦悩にとってつけたような簡単な回答を用意せず、あえて混沌としたまま作品に落とし込んだ今作の余韻は、観終わってからも思考と精神にじわりと残る。

『映画検閲』は9月6日(金)より新宿シネマカリテほかにて日本公開。

『映画検閲』作品情報

© Censor Productions Ltd/ The British Film Institute/ Channel Four Television Corporation/ Ffilm Cymru Wales 2020, All Rights Reserved.

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タイトル:『映画検閲』
原題:CENSOR
監督:プラノ・ベイリー=ボンド
脚本:プラノ・ベイリー=ボンド、アンソニー・フレッチャー
出演:ニアフ・アルガー、ニコラス・バーンズ、ヴィンセント・フランクリン、マイケル・スマイリー
2021年|イギリス|英語|84分|カラー|1:2.39|5.1ch|R15+|字幕翻訳:小河恵理
配給:オソレゾーン
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