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【映画レビュー『シビル・ウォー アメリカ最後の日』】生と死と狂気とジャーナリズムの奔流を浴びる、あまりに残酷であまりに美しい傑作-A24はまさに“鬼に金棒”状態

(C)2023 Miller Avenue Rights LLC; IPR.VC Fund II KY. All Rights Reserved. REVIEW
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A24 × アレックス・ガーランド監督による最新作にして大注目作である映画『シビル・ウォー アメリカ最後の日』が10月4日(金)から日本でも公開。今作は生死、狂気、国の分断、ジャーナリズムを見事な臨場感で描く衝撃作だ。

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『シビル・ウォー アメリカ最後の日』イヤホン推奨の立体音響予告

『シビル・ウォー アメリカ最後の日』概要・あらすじ

「お前は、どの種類のアメリカ人だ?」

映画の舞台は、連邦政府から19もの州が離脱したアメリカ。テキサスとカリフォルニアの同盟からなる“西部勢力”と政府軍の間で内戦が勃発し、各地で激しい武力衝突が繰り広げられていた。「国民の皆さん、我々は歴史的勝利に近づいている——」。就任 “3期目”に突入した権威主義的な大統領はテレビ演説で力強く訴えるが、ワシントンD.C.の陥落は目前に迫っていた。

ニューヨークに滞在していた4人のジャーナリストは、14ヶ月一度も取材を受けていないという大統領に単独インタビューを行うため、ホワイトハウスへと向かう。だが戦場と化した旅路を行く中で、内戦の恐怖と狂気に呑み込まれていく…。

レビュー本文

生と死とジャーナリズムの狂気

今作はジャーナリストたちを主人公として描く作品。一般大衆が目撃し得ない“真実”を記録し、世に伝えるために非日常に身を置くことを生業とする彼らの姿を通じて、ジャーナリズムの必要性、危険性、覚悟、狂気を描き出す傑作だ。

時に生死の淵をさまよい、死を目の前にする経験をした人間が改めて生を実感したり、人生の転機を迎えたりすることがあるが、まさに生と死は裏表。一般社会に生きる多くの人間が体感しない、自らの死の危険や同胞の死を肌で感じ、生を確かめながら狂気に飲まれていく彼らジャーナリストの物語を、我々も今作によって体感することができる。

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中心でそれを描くのは、現実に揉まれ達観したような表情がよく似合うベテランジャーナリスト役のキルスティン・ダンストと、フレッシュながら狂気に飲まれていく新人ジャーナリストを見事に演じたケイリー・スピーニー。このふたりの化学反応も見事だった。スピーニーは今年の日本公開作品だけでも『プリシラ』『エイリアン:ロムルス』、そして今作と注目作が連続しており、今非常に勢いのある俳優だ。

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分断のリアルを浴びる狂気と恐怖の“IMAX映え”映画

この物語はフィクションであるが、ジャーナリズムを描くテーマ性や、「もしアメリカがこうなったら?」を体感させようとする作風からその撮影や語り口は非常にドキュメンタリー的で“リアル”なパートが多い。『アナイアレイション -全滅領域-』(17年)や『MEN 同じ顔の男たち』(22年)では複雑な演出を使ってテーマを仄めかすような形を取ってきたアレックス・ガーランド監督としては、かなりダイレクトな作風の映画といえよう。

政治的思想や軍事行動によって分断されたひとつの国。「自国にいながら、自分の身にいつ何が起こるかわからない」という恐怖は、日本では(最近少々物騒とはいえ)なかなか感じないもので、このダイレクトな作風で身をもって体験させられるこの映画には、全身の筋肉がこわばるようなシーンもあった。

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現実の光景を“真実”らしく見せながら、可能な限り美しく切り取った撮影は圧巻だが、“リアル”を感じさせるのは映像だけではない。今作のような状況に身を置かれた際に、どのような音が、どのような音量で耳に飛び込んでくるのか。それをリアルに体験させる音響も特徴だ。突然鳴り響く銃声は爆音で耳に飛び込み、その衝撃には思わず身体が反応する。映像と音響によるこの“臨場感”は今作の大きな魅力となっている。

だからこそ今作は映画館の大音量・大画面で観てこそ真価が発揮される作品であるし、さらにIMAXやDolbyCinemaといった映像・音響を楽しめるフォーマットが用意されている意義も強く感じる。

“鬼に金棒”状態で走り続ける映画会社A24

この傑作を実現させたのが、またしても注目の映画会社A24。米アカデミー賞で作品賞を受賞した『ムーンライト』『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』をはじめ、『ザ・ホエール』『aftersun アフターサン』『関心領域』『パスト ライブス/再会』などなど、ジャンルも幅広くそれぞれが賞レースに絡む名作を世に送り出し続け、A24はインディペンデント系映画会社ながら今や映画業界の最前線に上り詰めた。

大量の車やヘリコプター、爆薬を使用したこれだけ大規模でハイクオリティな作風を実現させながら、それでもなお社会に斜めから切り込む独創的な“A24節”を貫く今のA24はまさに“鬼に金棒”状態。今作に続き、その資金と信念を持ってどのような作品を我々に見せてくれるのか、今後のA24の動向にも注目し続けたい。

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A24が送り出す、臨場感に満ちた最新作『シビル・ウォー アメリカ最後の日』は、10月4日(金)より日本公開。

『シビル・ウォー アメリカ最後の日』作品情報

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監督/脚本:アレックス・ガーランド
キャスト:キルステン・ダンスト、ワグネル・モウラ、スティーヴン・マッキンリー・ヘンダーソン、ケイリー・スピーニー
原題:CIVIL WAR|2024年|アメリカ・イギリス映画|109分|PG12
(C)2023 Miller Avenue Rights LLC; IPR.VC Fund II KY. All Rights Reserved.
IMAX(R)is a registered trademark of IMAX Corporation.
配給:ハピネットファントム・スタジオ
公式サイト:https://happinet-phantom.com/a24/civilwar/
X:@civilwar_jp

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