『グラディエーターII 英雄を呼ぶ声』のプロデューサー、マイケル・プルスにインタビュー!
『グラディエーターII 英雄を呼ぶ声』が11月15日(金)全国公開。今作が東京国際映画祭の「センターピース作品」として先行上映されたことを受け、キャスト&プロデューサー陣が来日した。今回tvgrooveでも複数の取材を実施。この記事ではプロデューサーのひとりとして長年リドリー・スコット監督を支えてきた、マイケル・プルス(Michael Pruss)氏(※)とのインタビューを扱う。
※名前については本人に発音していただいたところ、「プラス」「プラース」の方が近い印象であった。
- マイケル・プルス インタビュー
- 日本人女性と2年前に結婚式!
- 監督や、キャスティングについて
- リドリー・スコット監督とは最近『ナポレオン』や『エイリアン:ロムルス』でも一緒に仕事をしていますね。あなたから見たリドリーはどのような監督ですか。
- 前作で印象的だったラッセル・クロウやホアキン・フェニックスのキャラクターがいない状態で始まる続編ですが、制作の最初の段階で今作の一番の魅力はどのようなところにしようと考えたのでしょうか。
- これまでのポール・メスカルは、「ノーマル・ピープル」や『aftersun/アフターサン』など、比較的繊細でもろい人間を演じることが多かった印象なのですが、彼を英雄的なグラディエーター役に起用しようと考えたのはなぜでしょうか。
- ほかにもデンゼル・ワシントン、コニー・ニールセン、ペドロ・パスカル、双子の皇帝たちなど、すばらしい俳優・キャラクターがそろいましたが、キャスティングについてはどのような思い出がありますか。
- プロデューサーとして多岐にわたった仕事
- 熱いバトルシーンを振り返って
マイケル・プルス インタビュー
日本人女性と2年前に結婚式!
日本に来ていただき、ありがとうございます。日本に来るのは何回目でしょうか。
マイケル・プルス(以下、プルス):えっと、何回かな…たぶん25回以上は来てるよ!だって僕の妻は神奈川県出身の日本人だからね!そういうわけで僕は何度も日本には来ているし、それ以外にも、何度か日本で映画を作る機会もあったんだ。ニコラス・ホルトとクリステン・スチュワートが主演したA24の『ロスト・エモーション』(原題:Equals)や、アリシア・ヴィキャンデルが主演のNetflix映画『アースクエイクバード』などの撮影で日本を訪れたよ。
2作とも拝見しました!では、何度も来ている日本で特にプルスさんの思い出に残っていることは何でしょうか。
プルス:2年前に結婚式を日本の湯島天神で挙げたんだよ!日本での思い出はたくさんあるけど、一番の思い出はやっぱりこの結婚式だね!(と幸せそうな結婚写真をスマートフォンで見せてくれた。)
プルス:北海道も大好き。何度か札幌で良い時間を過ごしたよ。もちろん東京も、あと南日本も好きだよ!福岡とか、鹿児島とかね。広島では平和記念資料館を訪れて、とても心が揺さぶられたな…。全然詳しいわけじゃないんだけど、日本の建築物も好きなんだ。来るたびに新しい発見をさせられ、すばらしいパワーを感じさせられる日本の文化やお国柄が大好きだよ。日本の映画は僕の人生に大きな影響を与えているし、日本に来ると他の国では感じられない「帰ってきた」みたいな感覚を得られるんだ。いつか永住パスポートを獲得したいけど、難しそうかな(笑)
プルスさん、鹿児島県に行ったことがない私よりも日本各地をご存知かも知れませんね…(笑) さて、『グラディエーター』は映画史に残るレジェンド映画のひとつですね。そんな映画の待望の続編に関わることになった気分はいかがでしたか。
プルス:とんでもない栄誉だよ。リドリー・スコットとは10年以上一緒に仕事をしてきて良い仲間になれたけど、今作はこれまででも最大級の作品かつ最も挑戦的な作品であり、25年くらい前にリドリーが作り上げた世界、古代ローマやコロセウムに立ち返るすばらしい機会でもあった。ダグラス・ウィック、ルーシー・フィッシャーやプロデューシングチームの面々とともに、壮大で歴史を感じさせる偉大なる1作目にリスペクトを払いながら、2024年ならではの作品を完成させられたことを誇りに思う。
監督や、キャスティングについて
リドリー・スコット監督とは最近『ナポレオン』や『エイリアン:ロムルス』でも一緒に仕事をしていますね。あなたから見たリドリーはどのような監督ですか。
プルス:彼はただただ、“ザ・ベスト”だよ。彼の手腕はすばらしい知恵・経験・芸術センスに裏づけられている。映画監督になる前に、3000本以上ものCMを手がけてきた人だから、彼はカメラを使いこなしたり、興味深い撮影構図を考えたりするためのテクニックや知識がずば抜けているし、洞察力にも長けているんだ。正直、映画作りはまっすぐな一本道を進むような簡単な作業ではないけど、プロデューサーとして偉大な監督リドリー・スコットとすばらしい関係を築けて、率直な意見を交換し合いながら作品に携われていることは僕にとって何にも勝る特権だよ。
前作で印象的だったラッセル・クロウやホアキン・フェニックスのキャラクターがいない状態で始まる続編ですが、制作の最初の段階で今作の一番の魅力はどのようなところにしようと考えたのでしょうか。
プルス:いい質問だね!前作でマキシマス(クロウ)とコモドゥス(フェニックス)が命を落とし、ローマは新たな時代に突入した。続編をどう作っていくか話し合う中で、僕らはローマの崩壊した秩序を描き出す方針を気に入ったんだ。今作のローマは前作に比べても本当にめちゃくちゃで、政治も権力も腐敗しきっているよね。そんななか、マキシマスの息子であるルシアスを物語の中心に据えた物語がいいと思った。
プルス:ルシアスはルッシラによって隔離され、見知らぬ世界でアイデンティティを探すことになる。本当に悲劇的な始まり方だよね。1作目ではマキシマスが最初から軍隊の実力者として知られていたから比較的ストレートな物語だったと思うけど、ルシアスは母から切り離され、妻を失い、また慣れ親しんだ居場所を失い、父も亡くなっている中で、自分のアイデンティティを見失いそうになりながら復讐に燃えることになるんだ。政治腐敗や権力と戦いながら、主人公のアイデンティティをより流動的に描く作品になったと思う。1作目にも魅了されたけど、今回はより広がりのある物語を目指したよ。
これまでのポール・メスカルは、「ノーマル・ピープル」や『aftersun/アフターサン』など、比較的繊細でもろい人間を演じることが多かった印象なのですが、彼を英雄的なグラディエーター役に起用しようと考えたのはなぜでしょうか。
プルス:キャスティングは最も苦労した部分のひとつだよ。偉大なるラッセル・クロウから主人公を受け継ぐというすごい期待に応えなきゃならないからね。まずリドリーが「ノーマル・ピープル」を見て、僕やプロデューサーたち、ケイト・ローズ・ジェームズ(キャスティング・ディレクター)と話したんだ。肉体面の力強さは後からどうとでもなるものだけど、繊細でもろい感情の表現については教えて簡単に身に付くものではないよね。その点ポールは『aftersun/アフターサン』『異人たち』の繊細な演技を見てもわかるとおり、すばらしい技術を備えた俳優だよ。彼なら弱くて脆い人間性も、力強い怒りも、カリスマ性も勇敢さも表現してくれると思った。顔立ちだってローマ人顔で役にぴったりだしね。柔軟性と剛健さを兼ね備えた表現力を持つポールだからこそ、ルシアス役に適役だったんだ。
ほかにもデンゼル・ワシントン、コニー・ニールセン、ペドロ・パスカル、双子の皇帝たちなど、すばらしい俳優・キャラクターがそろいましたが、キャスティングについてはどのような思い出がありますか。
プルス:ひとりひとりの配役にたくさんの思い出があるけど、まず言えるのは、我々は幸せなことに、すばらしいチームになれたということ。(リドリー・スコット監督の過去作である)『アメリカン・ギャングスター』のデンゼル・ワシントン、1作目から続投してくれたコニー・ニールセン、それにペドロ・パスカルといったレジェンドたちもいれば、ドラマシリーズで頭角を表したジョセフ・クイン&フレッド・ヘッキンジャーという有望な若手俳優たちもいて…セットではなんだか家族みたいな気分で幸せだったよ。
プルス:もうひとつシェアしたい記憶があるよ。撮影終盤のある日のこと、空っぽのコロシアムをコニー・ニールセンと一緒に歩いたんだ。1作目でもルッシラ役として出演していたコニーと、続編を撮影するためにコロセウムを歩く日が来るなんて誰も予想できないよね。コニーは歩きながら、1作目のすばらしい思い出を語ってくれたよ。彼女も「25年ぶりにコロセウムに戻るなんて…」と話していたな。リドリーはいまだにトップクラスの監督として続編を手がけ、撮影のジョン・マシソンも、美術担当のアーサー・マックスも、衣装デザイナーのジャンティ・イェーツも一緒に戻ってこれた。そんな感慨に浸りながら歩いていたら、コロセウムの向こうで太陽が沈み始めたんだ。空っぽのコロセウムと沈む夕日。想像できる?人生でも最大級に感動的で、圧倒的な絶景だったよ。あの瞬間の一部になれたなんて幸運だ。
プロデューサーとして多岐にわたった仕事
想像するだけでも感動的です…。そんな名だたるスタッフと同じく、今作には複数のプロデューサーがかかわっていますね。プルスさん自身が特にこだわった思い入れのある部分はどういったところでしょうか。
プルス:うん、1作目からプロデューサーを務めるダグ(ダグラス)・ウィックに加え、僕とルーシー・フィッシャーも今作では加わったけど、チームはこんな偉大な作品の続編にあたたかく歓迎してくれて本当に嬉しかったよ。プロデューサーの仕事に明確な定義はないから、僕ら3人は映画に関するさまざまなことをたくさん話し合った。どのように映画づくりをやり遂げるか、すべてを管理しなければならないんだ。
プルス:でも中でも特に思い入れが強いところを語るなら、脚本部門かな。すばらしい仕事だったよ。リドリー、ダグ、ルーシー、脚本家のデヴィッド・スカルパと一緒に部屋に座り、コーヒーやレッドブルを飲みまくりながら、「ああでもないこうでもない」ってずっと話し合ったんだ。頭を抱えて「全然先に進めないぞチクショー!」なんて嘆いたこともあったよ(笑)。でもそうして完成させたストーリーはまさにファンタスティックなものだった。もちろんキャスティング・ディレクターのケイト・ローズ・ジェームズにも感謝しなきゃね。
プルス:たくさんの試練もあったし苦渋の決断だってした。「果たしてこれは正しい決断か?」って迷ったりもしたよ。プロデューサーの仕事はそんなことばかりで複雑だ。でも出来上がったセットをリドリーと歩いて、「すごいや、ローマの市街地がそっくりそのまま再現されているじゃないか」なんて感動した瞬間は忘れない。プロデューサーとしては予算の問題だって悩みの種だけど、リドリーのイマジネーションが具現化された巨大なセットを見て、「これで世界中の人々を楽しませるんだ」って実感したあの気持ちが、プロデューサー業の醍醐味だと思うよ。もちろん『ナポレオン』だって大興奮したけど、今回はよりいっそう「次元が違うぞ」って思ったね。
今作では音楽も非常に重要な役割を果たしていましたね。前作の音楽の雰囲気を継承しながらも独自性も感じ、前作のテーマメロディはここぞという時にしか使わないところにこだわりを感じましたし、前作のメロディの使い方には鳥肌が立ちました。音楽についてはいかがですか。
プルス:いまや僕の良き友人となったハリー・グレッグソン=ウィリアムズは、世界最高の作曲家のひとりだよ。1作目の(ハンス・ジマーによる)アイコニックな音楽の後という責任重大な仕事を引き受けた彼は、膨大なタスクをこなしてくれた。1作目の偉大な音楽を無視することはもちろんできないけど、その一方で僕らは、ハリー自身のアイデンティティもしっかり感じさせてほしいと望んだんだ。結果的に、彼の音楽はどれもリスペクトにあふれ、美しく、それでいてハリー自身の音もしっかり息づいていた。すばらしい作曲家だよ。
熱いバトルシーンを振り返って
動物が出てきたり、船が出てきたりと、バトルシーンも盛りだくさんですね。プルスさんにとって特に思い出深いバトルシーンはどこですか。
プルス:模擬海戦だね。コロセウムで船が戦うシーンなんて、まさにスペクタクルだよ!僕らはこれまで誰も見たことのないような光景を作ることができたと誇りに思っている。驚きのスケールだけど、あれも歴史に基づいて描写しているんだ。実際にコロセウムではああいう試合が行われていたんだよ。その再現のために僕らは車輪のついた巨大な船を作って、効果的にVFXも加えて…さらにあのシーンではエキストラたちの活躍も、撮影も、すべてが飛び抜けていた。あのシーンを成し遂げられる映画監督はリドリー・スコットだけだと思うよ!観客のみんなが圧倒されるのが楽しみだ。
最後にこの映画を観る日本のオーディエンスに一言メッセージをお願いします!
プルス:日本の皆さん、今回もあたたかく迎え入れてくれてありがとう。ここ日本・東京で君たちに『グラディエーターII 英雄を呼ぶ声』を披露できることを誇りに思うよ。僕らが楽しく愛を込めて作った今作を、みんなも楽しみ、気に入ってくれると嬉しいな。リドリー・スコットらしさにあふれた今作を作れたのは、応援してくれる皆さんのおかげだよ。またすぐに日本に来られるといいな!
プルス:“(日本語で)ありがとうございます!”
(以上/インタビュアー:ヨダセア)
『グラディエーターII 英雄を呼ぶ声』は11月15日(金)全国公開。
フリーライター(tvgroove編集者兼ライター)。2019年に早稲田大学法学部を卒業。都庁職員として国際業務等を経験後、ライター業に転身。各種SNS(Instagram・X)においても映画に関する発信を行いながら、YouTubeチャンネル「見て聞く映画マガジンアルテミシネマ」にて映画情報・考察・レビュー動画などを配信したり、映画関連イベントの企画・運営も行っている。