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【映画レビュー『ぼくとパパ、約束の週末』】自閉症の少年とその家族の苦悩と幸せを、綺麗事でない解像度で描くドラマ・・・“一見同じ”だからこそ生じる試練がリアル

©2023 WIEDEMANN & BERG FILM GMBH / SEVENPICTURES FILM GMBH Subsidized by German Films FILMS/TV SERIES
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映画『ぼくとパパ、約束の週末』が11月15日(金)公開。今作は自閉症と診断されている少年ジェイソンと、その家族の姿を赤裸々につづった感動作だ。

『ぼくとパパ、約束の週末』予告編

『ぼくとパパ、約束の週末』あらすじ

特別な感性を持つジェイソンは、幼い頃から自閉症と診断されていた。生活に独自のルーティンとルールがあり、それらが守られないとパニックを起こしてしまう。ある日、クラスメイトから好きなサッカーチームを聞かれたのに答えることができなかったジェイソンは、56チームぜんぶを自分の目で見て好きなチームを決めたいと家族の前で言い出す。

こうして、ドイツ中のスタジアムを巡る約束をしたパパとの週末の週末の旅が始まった。強いこだわりを持つジェイソンは、果たして推しチームを見つけることが出来るのか?

レビュー本文

理解が何より大切

他の人々と同等か、むしろそれ以上に頭の回転が速く、今作のジェイソンのように勉強や知識の記憶は得意なこともあるため、一見皆と同じように見えることも多いのが自閉症。彼らを一目見て“障がいに苦しんでいるかもしれない”と瞬時に想像を膨らませる人はそう多くはないだろう。

人々は、“少し異なる人間”を攻撃しがち。外見や言動に明らかな差があれば配慮もされやすいかもしれないが、“ほかの子どもと同じに見えるのにたまに違った言動をする”となると、途端に見下したりバカにしたりする対象としてみなしてしまう人間がいる。特に、まだまだ成長途中の子どもの中では、そういった人間が“変なヤツ”扱いされやすい傾向にもあろう。ジェイソンも“一見同じ”だからこそ、「なぜできないんだ」と強く当たられてしまう。

ジェイソンはすべてに白黒をつけたがるが、人間の個性も、人々の考えや価値観も、0か100かでは測れないことが多い。ジェイソンも言ってしまえば「比較的、ほかの人々と同じに見えやすいが、自閉症の性質は備えている」というグラデーションの中にいるように見受けられる。そのような部分にいて他の人の“当たり前”を強いられる人間の方が、重度の特徴を持つ人間より苦労する一面もあるのではないだろうか。

©2023 WIEDEMANN & BERG FILM GMBH / SEVENPICTURES FILM GMBH Subsidized by German Films

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「皆が優しく、他人に攻撃しない」という世界になるのは理想だし、それを口で言うのは簡単だが、さまざまな人間がいる世の中でそれが簡単に実現するものではないことは明らか。だからこそ、意地悪な人間、了見の狭い人間もいることを受け入れ、いかに攻撃が生まれないようにできるかを考えることも大切だ。そう考えると、“攻撃”の根底には“不理解”があることが多い。“わからない”から攻撃してくる層がいるということだ。

そういった層は、理解さえさせられれば攻撃を止めることもある。だからこそ、説明すること、理解してもらう機会を増やすこと、人の説明をしっかり受け止めることの重要性が今作でも描かれている。そして、この映画が撮られ、多くの人に観られることもまた、世の理解を助けることにつながるだろう。今作はそうして「みんな優しくなれ」と綺麗事を述べるのではなく、説明し、理解を得ることで関係を変えていこうとするリアルに即した考えを提示しているところがまたすばらしい。

解像度の高い人間描写

綺麗事でないといえば、今作は親の描写も非常に現実味を帯びている。常に無償の愛を与える存在などではなく、親もひとりの人間として息子の制御不能な行動に悩み、時に感情を爆発させてしまう。その上で、時折見せる子どもの笑顔や楽しそうな様子には自然と微笑みを浮かべ、親も愛情にあふれた視線でそれを見つめる。

ジェイソンも、両親も、すばらしい(が直接教育にかかわるわけではないからこそフラットで気楽に接することができる)祖父母も含め、それぞれの登場人物をアイコン化せず、それぞれの人物像を解像度高く描いたところにも今作のすばらしさはあるといえよう。

©2023 WIEDEMANN & BERG FILM GMBH / SEVENPICTURES FILM GMBH Subsidized by German Films

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サッカーファンの熱狂

サッカーの試合会場の盛り上がりの描き方も、今作の大きな魅力といえる。大きな音や人との接触が苦手なジェイソンにとっては苦難も多いが、熱気、興奮、音、混乱といった、その場でしか感じられないはずの要素を見事に映像に映し出し、スポーツ観戦でしか味わえないであろう唯一無二の空気を体感させてくれた。

筆者は小学生時代にくらいしかスポーツ観戦経験がなく、これまでも「遊びでプレーするならまだしも、観戦には興味がない」というスタンスで生きてきたのだが、それでも今作のサッカー観戦シーンの熱量、会場の一体感の描き方には魅了され、20年ぶりくらいに一度スポーツ観戦をしてみるのもいいかもしれないという気にすらさせられた。それくらいに今作の試合会場の描写は、現地の本物の楽しさを届けてくれた。

©2023 WIEDEMANN & BERG FILM GMBH / SEVENPICTURES FILM GMBH Subsidized by German Films

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自閉症の少年とその家族のリアルに寄り添い、周囲の理解を深めるのを助けながら、ひとつのヒューマンドラマとしてストーリー的にも心を動かす『ぼくとパパ、約束の週末』は11月15日(金)公開。

作品情報

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監督:マルク・ローテムント(『5パーセントの奇跡嘘から始まる素敵な人生』)
出演:フロリアン・ダーヴィト・フィッツ(『100日間のシンプルライフ』)、セシリオ・アンドレセン、アイリン・テゼル
2023年|ドイツ|ドイツ語|109分|スコープ|カラー|5.1ch|映倫G|原題:Wochenendrebellen|日本語字幕:吉川美奈子|字幕監修:山登敬之|後援:ドイツ連邦共和国大使館|配給:S・D・P
©2023 WIEDEMANN & BERG FILM GMBH / SEVENPICTURES FILM GMBH Subsidized by German Films
公式サイト:bokupapa-movie.com
X:@boku_and_papa
Instagram:@boku_and_papa

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