ブレイク・ライブリー主演最新作『ふたりで終わらせる/IT ENDS WITH US』が11月22日(金)より公開。今作は、いまだにネット上もにぎわせ続ける“家庭内暴力(DV)”について向き合った注目作だ。
『ふたりで終わらせる/IT ENDS WITH US』予告編
『ふたりで終わらせる/IT ENDS WITH US』あらすじ
取り返しのつかない15秒。その一瞬で、すべてが砕け散る。
理想のフラワーショップを開くという夢を実現すべく、ボストンにやってきた若き女性リリー(ブレイク・ライブリー)。そこでクールでセクシーな脳神経外科医ライル(ジャスティン・バルドーニ)と情熱的な恋に落ちる。
幸せで穏やかな日々を過ごす二人だったが、リリーを大切に想うライルの愛は、次第に望まぬ形で加速してゆく…。それは彼女が封じたかつての記憶を呼び覚ますものだった。自分の信じる未来を手にするため、リリーは過去の自分自身と向き合い、ある決意を胸にする…。
レビュー本文
拭い去れない恐怖の体感
「男女平等」が広く叫ばれるようになり、少しずつさまざまな分野で改善への歩みは進んでいるように見える現代だが、法律や制度をいくら整備しても“同じ”にはなり得ない、男女間の物理的な違いは存在する。その最たるものの一つが、筋力・体格差だ。もちろん小柄で力の弱い男性もいれば、大柄でパワフルな女性は存在するが、全体的に見れば“女性は筋力では男性に勝てない”というのは誰もが認めるところだろう。
しかし、残念ながら“勝てる勝負”を恥じらいもなく挑んで実力を行使する男性は一定数存在し、DV(家庭内暴力)被害者の声は絶えずどこかで上がっている。声が上がればまだ不幸中の幸い。中には声を上げることもできずにDVを受けるがままの状態にある女性もいることだろう。どれだけ慣れようが、諦めようが、痛み・恐怖は消えない。“勝てない相手に怯え、暴力を振るわれ続ける”ということを男性目線に置き換えて想像すれば、大きな猛獣に攻撃され続けるようなものかもしれない。
勝てない相手への恐怖は、時に身をこわばらせる。外からいくら「抵抗すればいい」「逃げればいい」と言おうが、当事者にとってそれは簡単なことではない。今作で生育環境にトラウマを植え付けられている主人公リリーがふとした瞬間に感じてしまう恐怖、男性が怒り、苛立つ様子を見て怯えてしまう感覚を映し出す描写は、そういった“本質的な恐怖”を観客に体感させるには十分な表現となっていた。
等身大の“ひとりの女性”
そんなリアルな恐怖、そしてそれ以外にも喜怒哀楽の感情を、印象的な演技で見せたのがブレイク・ライブリーだ。娘として、恋人・妻として、そして母として…ひとりの女性の生き方、人生を1本の作品として煮詰めて絞り出したような今作で、ライブリーはその等身大の“ひとりの女性”のあらゆる感覚と、強さ・弱さを体現してみせた。生き生きとした表情から、苦悩と葛藤に苛まれた曇った表情まで、さまざまなリリーの姿が印象に残った。
そしてその“ひとりの女性”の感情を今作に美しく乗せるのが、主題歌に選ばれたテイラー・スウィフトの楽曲「My Tears Ricochet」。愛し愛された人間に踏みにじられた女性の悲しみと怒りとやるせなさが込もったこの1曲は、まさに今作のテーマにマッチしていた。
ここで多くは語らないが、今作のタイトル『ふたりで終わらせる/IT ENDS WITH US』も覚えておくとかなり心に訴えるものがあるため、しっかりタイトルを把握して鑑賞することをオススメしたい。
“事実”の描き方にみるリアリティ
DVや性犯罪をめぐる論争に付き物なのが、「証拠は?」「被害妄想では?」「後からは何とでも言える」といった言葉たちだ。実際に一部“ハニートラップ”といえる事例が存在したり、“冤罪”で人生が狂う人間も存在することから、「証拠」を大切にするのは当然。そうでなければ“訴えたもん勝ち”で誰でも陥れられてしまう。とはいえ、フラットに考えるだけならまだしも、被害者である可能性も大いにある人物に対して、憶測で攻撃めいた視線・言葉を投げかけるのも、あまりに非道で残酷ではないだろうか。
今作では、“決定的な出来事”が起こるまでのしばらくの間、演出上、見せられている映像が実際にすべて起きたことなのか、リリーのトラウマによって強調されたイマジネーションが混ざったものなのかを100%は判断できない、つまり邪(よこしま)な目で見れば「リリーがトラウマで被害妄想の幻覚を見ているのではないか」と解釈できなくもない瞬間がいくつか存在する。「事実なのか?誇張なのか?」という疑問が一旦湧くところに、リアルがある。
それこそが、DV被害者が相手よりも自分を責めてしまったり、誰にも信じてもらえないのではないかと疑心暗鬼に陥ったり、自ら都合のいい記憶に書き換えてしまったりする、現実のDV問題を取り巻く葛藤・苦悩を形成している要素のひとつだろう。
ただ「DVの被害に遭いました。悪い男性を攻撃しましょう」とストレートかつシンプルな作風にするのではなく、複雑なリアルや、男性側の心の歪みを生んだ原因なども盛り込み、現実に向き合ったこと。それを監督兼出演の男性ジャスティン・バルドーニと、主演の女性ブレイク・ライブリーらが男女で作り上げたこと。ここに今作の価値・重要性がある。
女性に共感させるだけでなく、男性こそ観るべき作品として仕上がった『ふたりで終わらせる/IT ENDS WITH US』は11月22日(金)より全国の映画館で公開。今作を見て世の中の訴えや、訴えられてすらいない多くの可能性がどう見えてくるか、ぜひ多くの人々に感じていただきたい。
作品情報
タイトル:『ふたりで終わらせる/IT ENDS WITH US』
原題:IT ENDS WITH US
日本公開:11月22日(金)より全国の映画館で公開
US公開:2024年8月9日
監督:ジャスティン・バルドーニ(『ファイブ・フィート・アパート』)
キャスト:ブレイク・ライブリー、ジャスティン・バルドーニ、ジェニー・スレイト、ブランドン・スクレナー
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
フリーライター(tvgroove編集者兼ライター)。2019年に早稲田大学法学部を卒業。都庁職員として国際業務等を経験後、ライター業に転身。各種SNS(Instagram・X)においても映画に関する発信を行いながら、YouTubeチャンネル「見て聞く映画マガジンアルテミシネマ」にて映画情報・考察・レビュー動画などを配信したり、映画関連イベントの企画・運営も行っている。