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【映画レビュー『ホワイトバード はじまりのワンダー』】絶望の中にも輝く“親切心”という光-ヘイトが渦巻くこの時代に、必要とされているのはきっとこういう映画

© 2024 Lions Gate Films Inc. and Participant Media, LLC. All Rights Reserved. REVIEW
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映画『ホワイトバード はじまりのワンダー』が12月6日(金)公開。暗く辛い時代を描きながら、“親切心の尊さ”という普遍的なテーマを映し出す感動作だ。

『ホワイトバード はじまりのワンダー』予告編

『ホワイトバード はじまりのワンダー』あらすじ

いじめによって学校を退学処分になったジュリアンは、自分の居場所を見失っていた。そんな中、ジュリアンの祖母のサラがパリから訪ねて来る。あの経験で学んだことは、「人に意地悪もやさしくもしないただ普通に接することだ」と孫の口から聞いたサラは、「あなたのために話すべきね」と自らの少女時代を明かす。

時は1942年、ナチス占領下のフランスで、ユダヤ人であるサラと彼女の両親に危険が近づいていた。サラの学校にナチスが押し寄せ、ユダヤ人生徒を連行するが、サラは同じクラスのジュリアンに助けられ、彼の家の納屋に匿われることになる。クラスでいじめられていたジュリアンに何の関心も払わず、名前すら知らなかったサラを、ジュリアンと彼の両親は命がけで守ってくれる。日に日に二人の絆が深まる中、終戦が近いというニュースが流れるのだが…。

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レビュー本文

わかっていても難しいこと

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今作が訴えかけるのは、「人には親切に接しよう」という、当たり前にもかかわらず一番難しい教訓だ。優しさを忘れてしまいがちな人々。日々の悩みやストレスに心身が疲れ、気づけば「した方がいい」を「しなくてもいい」に解釈しがちになっていく。楽な方に流れがちで、「やらなければならないことさえやっていればいい」と思うのは決して“悪いこと”ではなく、“普通”だ。

しかし、今作はその“普通”から一歩踏み出してはどうだろうか、と問いかけてくる。“親切にする”には、ただ悪いことをせずに生きるだけでなく、わざわざ行動を起こさなければならない。

極限状態にも差す“親切”の光

普通に生きていて突然「普通じゃダメだ、善行を為せ」などと言われたとき、「自分や家族の人生で必死なんだ、なぜそんな説教をしてくるんだ」と眉をひそめてしまうのも“普通”の反応ではないかと思う。“親切”にはエネルギーが必要で、他人に割くエネルギーは意識しなければ確保しにくいものだから。しかし、今作のおばあちゃん(サラ)の話を聞いても「他人に親切にする必要などない」と言えるだろうか。

いつ自分が命を狙われるかわからないという極限状態においてさえ、赤の他人に120%の善意を注ぐ人間がいる。その無償の行いによって、幸せを感じられる人、ひいては命を救われる人もいる。その善意がなければこの世に存在しなかった人間がいて、その子、孫もいる。どこかで“親切”がなければ、自分や家族、友人がここにいなかったかもしれない。今作で語られるエピソードはそんなことを想像させてくれる。

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もっとも筆者も「もっと不幸な人がいる」と言われたからといって自分の幸せをそこまで切り崩せないし、切り崩す必要はないと思ってしまうタイプ、「飢餓に苦しんでいる人がいる」と言われてもたまに“自分へのご褒美”と贅沢な食事を楽しむことはやめられないタイプの人間なので、「極限状態でも他人のために行動できる人間がいる」と言われてすぐに他人にすべてを捧げようなどとは思えない。しかしそれでも、「なるべく目の前の不幸を見逃さないようにしよう」「小さな親切ならできるかな」などとは改めて思わされる。

それでいいのではないか。誰もが必死で生きているこの時代、他人のためにすベてを投げ出せる人間など一握りだ。それでも、今作を見て少しでも“親切”の尊さを実感した人、小さなことをしてみようと思った人が何千何万人といれば、それだけで世界は少しでも明るくなるかもしれない。そう思えるのだ。

残酷すぎず、誰でも観やすい感動作

今作はナチス映画・戦争映画として苦難を見せる作品としては、意外と“優しめ”の作品だ。もちろん苦しく辛いシーンはあるが、いわゆる“胸糞映画”といった作風ではなく、救いや楽しみ、(もはや奇跡めいた)勧善懲悪的な要素もところどころ存在する。

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これは、筆者のような「刺してくる映画にはとことん刺されたい」派の観客からすれば、どこか“甘い”“ご都合主義”のように感じる部分かもしれない。しかし、今作が伝えたいこと-親切心を思い出させたいというメッセージ-を考えれば、それで正解なのだと感じる。あまりに重苦しい映画は、観る層を選ぶ。今作のように誰もに観てほしい作品には、ある程度の救いは必要だろう。「ヘイトが渦巻くこの時代に必要とされているのはきっとこういう映画だ」と確信させる1本だった。(文:ヨダセア)

映画『ホワイトバード はじまりのワンダー』は12月6日(金)よりTOHOシネマズ シャンテ他にて全国ロードショー。

『ホワイトバード はじまりのワンダー』作品情報

タイトル:『ホワイトバード はじまりのワンダー』
原題:『White Bird』
監督:マーク・フォースター(『ネバーランド』『オットーという男』)
脚本:マーク・ボムバック、R.J.パラシオ
出演:アリエラ・グレイザー、オーランド・シュワート、ブライス・ガイザー、ジリアン・アンダーソン、ヘレン・ミレン
2024年|アメリカ|英語・仏語|121分|カラー|スコープ|5.1ch|字幕翻訳:稲田嵯裕里|映倫区分:G
配給:キノフィルムズ
© 2024 Lions Gate Films Inc. and Participant Media, LLC. All Rights Reserved.
公式サイト:https://whitebird-movie.jp
X:@whitebird_movie

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