映画『クラブゼロ』のジェシカ・ハウスナー監督にインタビュー!
映画『クラブゼロ』が12月6日(金)より新宿武蔵野館ほかにて全国公開となる。極端な食事方法を推奨する狂信的な教師をミア・ワシコウスカ(『アリス・イン・ワンダーランド』)が演じた今作は、現代社会に感じるさまざまな危機感が強まるような強烈な1作だ。今回tvgrooveでは『クラブゼロ』を手がけたジェシカ・ハウスナー監督に独占インタビューを実施、今作へのこだわりや、現代を生きる若者たち、そしてそれを見守る大人たちについて考えることを語ってもらった。(取材・文:ヨダセア)
- 【予告編】『クラブゼロ』
- 『クラブゼロ』あらすじ
- 『クラブゼロ』ジェシカ・ハウスナー監督 インタビュー
- ミア・ワシコウスカのファンだったハウスナー監督
- 現代社会を生きる大人と子どもの姿
- この映画では、親と子ども、教師と生徒といった、大人と子どもの関係が描かれましたね。今作にはどのようなメッセージを込めましたか。
- 今作において、個性的かつリアルな学生たちというキャラクターは非常に重要なポジションにいますね。今作における若手俳優たちの印象はいかがでしたか。
- 人は他人の評価を気にしたり、自分に自信がなくなっていたりする時、他人の強い言葉や信念に揺さぶられがちです。今作はカルトに傾倒する人々の繊細さや、カルトにハマるきっかけを描いている側面もあると思いますが、そういった部分についてお話いただけますか。
- 日本では激しいルッキズムや、誰でもソーシャルメディアでは顔写真を加工して美しくできるようになったことなどを背景とする過剰な美容整形や拒食症といった問題はたびたび話題に上がります。これはあなたの国オーストリアでも同じシチュエーションといえますか。
- 美術や音楽、撮影へのこだわり「我々は支配されている」
- 作品情報
【予告編】『クラブゼロ』
『クラブゼロ』あらすじ
名門校に赴任してきた栄養学の教師、ノヴァク。彼女は「意識的な食事/conscious eating」という、「少食は健康的であり、社会の束縛から自分を解放することができる」という食事法を生徒たちに教える。無垢な生徒たちは彼女の教えにのめり込んでいき、事態は次第にエスカレート。両親たちが異変に気づきはじめた頃には時すでに遅く、遂に生徒たちはノヴァクとともに【クラブゼロ】と呼ばれる謎のクラブに参加することになる-。生徒たちが最後に選択する、究極の健康法とは?そしてノヴァクの目的とは?
『クラブゼロ』ジェシカ・ハウスナー監督 インタビュー
ミア・ワシコウスカのファンだったハウスナー監督
非常に興味深く、印象に残る映画でした。あなたがこの映画『クラブゼロ』を作ろうと思ったきっかけは何だったのでしょうか。
ジェシカ・ハウスナー(以下、ハウスナー):最初に、生徒たちを操作する教師の映画を撮ろうというコンセプトが浮かびました。狂気的で急進的な側面がどんどん極端になっていって悲劇を生む…そんなアイデアを膨らませていったのです。
ミア・ワシコウスカを主演に選んだ決め手は何ですか。
ハウスナー:まず私はミアの大ファンだったので、これまでも彼女の俳優としてのキャリアを追ってきました。そして彼女はミス・ノヴァク役にぴったりだと思っていました。一見すると純粋無垢で無害に見える一方で、実はとても強いエネルギーにあふれていて、狂気的で手のつけられない部分を持っている、そんな矛盾したキャラクターの極端な側面を、彼女なら演じられると思ったのです。
ミアにはどのような演技を求めたのでしょうか。
ハウスナー:ミス・ノヴァクにはカルト集団のリーダーのような側面があるので、私たちはカルト集団のリーダーに関して入念なリサーチを行いました。結果、私たちはミス・ノヴァクを真に“信じる者”だと定義づけたのです。彼女をサイコパスのキャラクターとして強調するようなことはしたくありませんでした。彼女は自分がまっすぐに信じた真実を、そのまま生徒たちに伝えようとしていて、心から“いいこと”をしているつもりです。なので、ミアにはよく「支配的に演じすぎないで」「オープンな心で、正直に語る人でいて」と伝えていました。
現代社会を生きる大人と子どもの姿
この映画では、親と子ども、教師と生徒といった、大人と子どもの関係が描かれましたね。今作にはどのようなメッセージを込めましたか。
ハウスナー:今作には特にメッセージを込めるつもりではありませんでした(笑)私たちフィルムメーカーは、ただある観察、あるショーをリリースするだけです。特に私の映画に関しては、いつもどのように見るかを観客に委ねています。観客それぞれが考えることは違うはずですから、私たちが先にジャッジを下すことはしません。「どのようなメッセージを込めたか」という質問に答えるなら、「あなたの頭の中で自由に考えて、信じて、解釈してみてね」というのが回答になるかもしれません。
今作において、個性的かつリアルな学生たちというキャラクターは非常に重要なポジションにいますね。今作における若手俳優たちの印象はいかがでしたか。
ハウスナー:私は初めて演技する俳優と仕事をするのが大好きなんです。これまでの映画でも頻繁に、初演技の俳優を起用してきました。これまでは大人でしたけどね。今作についてはキャスティングに数ヶ月かけて、若手俳優に知識・技術を身につけてもらいながら、彼らとの関係を築き上げていきました。リハーサルなどを通して、キャラクターとともに彼らの演技の技術も磨き上げていったのです。いざ撮影しようという時には、彼らは立派なプロフェッショナルになっていましたよ。
人は他人の評価を気にしたり、自分に自信がなくなっていたりする時、他人の強い言葉や信念に揺さぶられがちです。今作はカルトに傾倒する人々の繊細さや、カルトにハマるきっかけを描いている側面もあると思いますが、そういった部分についてお話いただけますか。
ハウスナー:今作を素敵に解釈してくれましたね。思うに、孤独な人は支配的な人の影響を受けやすいと思います。しかし、その“孤独”というのも無限にあるパレットに乗った一色に過ぎません。孤独でなくても支配される人は支配されますから、孤独だと操られるという単純な話ではありません。
ハウスナー:今作でも描いたとおり、若者は常に何か特別なものを求めていて、何かにかかわりたいと熱望している傾向にあります。私はそれがネガティブなことだとは思いません。人生に何かを熱望する力が、世界に貢献する何かを生み出すこともありますよね。しかしその若者特有の理想主義がミス・ノヴァクに結びついたことで、今作では悲劇が生まれていくわけです。何が原因かって?ひとつではありません。いくらでも理由は探せますよね。ただひとつ言えるのは、大人と子どもの関係は非常に重要だということ。大人の役割は子どもにしっかり気を配り適切なケアを施して有害なものから守れる状態にしておくことです。
日本では激しいルッキズムや、誰でもソーシャルメディアでは顔写真を加工して美しくできるようになったことなどを背景とする過剰な美容整形や拒食症といった問題はたびたび話題に上がります。これはあなたの国オーストリアでも同じシチュエーションといえますか。
ハウスナー:はい、そう思います。若者がソーシャルメディアやニセ情報から影響を受けやすいことを示した調査もあります。いわゆる“古典的な情報ソース”-新聞やテレビの報道などから情報を得る人々に比べて、ソーシャルメディアから情報を得る人々はニセ情報に強い影響をより受けやすいとされているのです。ソーシャルメディアでは、すでに誰かの意見が乗って複雑化されたダイジェストのニュースを受け取ることが多いですよね。それが真実か虚偽か、正しいか誤りかも分かりづらいのです。この状況がどうしたら解決するかは私にもわかりませんが、重要な課題であり、興味深い問題です。
美術や音楽、撮影へのこだわり「我々は支配されている」
映画に登場する家々の、非常に洗練されたインテリアも印象的でした。撮影セットやプロダクションデザインについて、あなたはどのようなところにこだわりましたか。
ハウスナー:美術や衣装は私の映画をどこか人工的なスタイルにしてくれます。映画を作るとき、私がまずプロトタイプやアーキタイプを考えて、どのように物語を見せたいかというシステムを作り、チームが向かうべき傾向を示します。デザイナーはそれを具現化して、明瞭にしてくれます。そうして特徴的なファッションにユーモアや皮肉を託して、誇張しているのです。
音楽も非常に特徴的でした。音楽についてのこだわりを教えてください。
ハウスナー:今作で私は初めて作曲家マーカス・ビンダーと仕事をしました。総合的なミュージシャンで、シンガーでもある彼ですが、特に彼の造詣が深いのはドラムスです。今作のスコアでもドラムスが大きな役割を担っています。キャラクターのセリフの途中でも印象的な飛び込み方をしてくるので、ぜひドラムスの活躍には注目してみてください。
ハウスナー:すべての編集過程においても音楽は重要です。音楽は映像にリズムを与えるので、音楽をこのように使う映画はある意味どれもミュージック・フィルム(音楽映画)だとさえいえますよね。
ラストシーンはなんとなく「最後の晩餐」のように見えたのですが、絵画的なカットを意識しているのでしょうか。ラストカットに込めた思いを語っていただけますか。
ハウスナー:構図を「最後の晩餐」に似せただけでなく、終盤には「きよしこの夜」(Silent Night, Holy Night)を想起させるメロディーも流しています。この曲はクリスマス・ソングというイメージがありますが、そもそも“キリスト教の歌”ですよね。今作では我々の人生を形成する考え方・価値観が、宗教やイデオロギーに支配されていることを示したつもりです。キリスト教に限らず、ほかの宗教や急進的な思想もそうですが、一定の思想・イデオロギーに私たちは操られているのです。
最後にこの映画を観る日本のオーディエンスに一言メッセージをお願いします!
ハウスナー:この世界全体に普遍的といえる作品なので、日本の皆さんも自分ごととして考えることができると思います。大事なことなのでもう一度言いますが、この映画に正解はありません。みなさんに解釈・考えは委ねています。自由に思いをはせてください!
(インタビュー以上/取材・文:ヨダセア)
『クラブゼロ』は12月6日(金)より新宿武蔵野館ほかにて全国公開。
作品情報
タイトル:『クラブゼロ』
日本公開:12月6日(金)より新宿武蔵野館ほかにて全国公開
出演:ミア・ワシコウスカ
脚本・監督:ジェシカ・ハウスナー
撮影:マルティン・ゲシュラハト
2023年|オーストリア・イギリス・ドイツ・フランス・デンマーク・カタール|5.1ch|アメリカンビスタ|英語|110分|原題:CLUB ZERO|字幕翻訳:髙橋彩|配給:クロックワークス
©︎COOP99, CLUB ZERO LTD., ESSENTIAL FILMS, PARISIENNE DE PRODUCTION, PALOMA PRODUCTIONS, BRITISH BROADCASTING CORPORATION, ARTE FRANCE CINÉMA 2023
公式サイト
公式X:@clubzeromovie
フリーライター(tvgroove編集者兼ライター)。2019年に早稲田大学法学部を卒業。都庁職員として国際業務等を経験後、ライター業に転身。各種SNS(Instagram・X)においても映画に関する発信を行いながら、YouTubeチャンネル「見て聞く映画マガジンアルテミシネマ」にて映画情報・考察・レビュー動画などを配信したり、映画関連イベントの企画・運営も行っている。