世界が彼女を賞賛し続ける中、ニコール・キッドマンはある言葉を聞くたびに違和感を覚えていた。その言葉とは――?
数々の名作に出演し、演技派女優として確固たる地位を築いてきたニコール・キッドマン。彼女はスクリーンの中でも外でも、圧倒的な存在感を放ち続けている。しかし、世間が彼女に対して抱くイメージには、ある”誤解”があるという。
その”誤解”は、ハリウッドにおける「女性が完璧であることを求められるプレッシャー」と深く結びついているという。常に非の打ちどころのない存在であることを期待され、少しのミスも許されない世界。そんな中で、キッドマンはどう生き抜いてきたのか? そして、なぜ彼女はその褒め言葉を嫌うのか?
「あなたはスーパーマンみたい」
『TIME』誌の「今年の女性13人」の一人に選ばれたキッドマンは、インタビューである褒め言葉をよく言われるが、実はそれを「嫌いだ」と明かした。
「皆が『あなたはスーパーマン(超人)みたい』と言うんです。」
「でも、それが大嫌いなんです。」
一見、最高の褒め言葉のように思えるこの言葉だが、キッドマンにとっては違った意味を持つようだ。彼女がこの表現を嫌う理由は、ハリウッドにおける「常に完璧であることを求められるプレッシャー」にある。
ハリウッドにおける「完璧」のプレッシャー
キッドマンは、ハリウッドで女性監督や女優、プロデューサーがあらゆる作品において「完璧」を求められる現状について問題提起した。
映画業界では、特に女性に対する評価基準が男性よりも厳しく、「小さなミスも許されない」という風潮が根強い。例えば、男性監督の作品が批評家から酷評を受けても、次のチャンスを得られることが多い。一方、女性監督が失敗すると「女性監督はリスクが高い」と判断され、次の仕事に影響が出ることがある。
また、女優に対しても同じようなプレッシャーがある。若々しさを維持すること、ルックスに対する厳しい評価、演技力だけでなくプライベートの行動までも完璧であることが求められる。特に年齢を重ねた女優は、「美しくあるべき」「若さを保つべき」という社会的圧力を強く感じることが多い。
19人の女性監督と仕事
こうした現状に対し、キッドマンは具体的な行動を起こすことが必要だと考えた。2017年の#MeToo運動が最高潮に達した際、彼女は「18か月ごとに女性監督と仕事をする」と誓ったのだ。
この約束は単なる目標ではなく、映画業界のジェンダーバランスを改善するための行動でもあった。
「変えることはできる。」
「でも、それを変えられるのは、実際に女性監督の映画に出演することだけだ。」
彼女の取り組みは形だけのものではなく、実際のキャリアの中で着実に成果を上げている。キッドマンはすでに19人の女性監督と仕事をし、プロデューサーや俳優として積極的に女性映画人を支援してきた。
最新作『Babygirl』と監督との特別な絆
こうした取り組みの一環として、キッドマンは最新作であるエロティック・スリラー『Babygirl』で、オランダ出身の作家兼女優ハリナ・レインとタッグを組んだ。
レインは、キッドマンとの特別な関係について語り、「スピリチュアルな体験だった」と振り返っている。
「私は、誰かとこれほど早くつながりを感じたことはありませんでした。」
「私たちは、人生や仕事に対する姿勢が似ているんです。どちらも強いコントロールを求め、徹底的に準備をするタイプです。」
キッドマンが「完璧を求められるプレッシャー」に苦しみながらも、自らのキャリアを築いてきたことを考えれば、同じくこだわりの強い監督とのコラボレーションは必然だったのかもしれない。
アカデミー賞で無視された『Babygirl』 ― ハリウッドの評価基準の不公平さ
『Babygirl』はヴェネツィア映画祭で6分間のスタンディングオベーションを受け、キッドマンは最優秀女優賞(ヴォルピ杯)を獲得した。しかし、アカデミー賞では無視され、ノミネートすらされなかった。
ハリウッドでは、アカデミー賞のノミネート基準が不透明であることが度々問題視されている。女性監督の作品や、女性がメインの映画はしばしば過小評価される傾向があり、受賞歴が豊富なキッドマンですら、公正な評価を得られていない可能性があるのだ。
このような現象もまた、ハリウッドが女性に対して「完璧であること」を求めすぎる一例といえるのかもしれない。
「完璧な女性像」からの脱却
ハリウッドでは、女性は美しく、完璧な妻や理想の母であることを求められることが多い。スクリーンの中でも外でも、女優たちは「非の打ちどころのない存在」であることを期待され、少しでもそのイメージから外れると批判の対象になる。しかし、ニコール・キッドマンはそんなステレオタイプに挑戦し、自らのキャリアを通じてその枠組みを壊そうとしている。
最近のキッドマンは、「崩壊しつつある母親像」の役柄が増えているとされるが、彼女自身はさらにリアルで人間味のある役を演じたいと考えている。
「私は、完全に崩れ落ちたような役を演じることにすごく前向きです。」
「どこにあるの? 私にその役をくれない?」
ハリウッドにおいて、女優は長年にわたり「完璧な女性像」を押し付けられてきた。だが、キッドマンはその常識を覆し、「人間的な弱さや欠点を持つ女性」の役をもっと演じたいと語る。これは、彼女が「スーパーマン」と呼ばれることを嫌う理由とも通じる。
彼女は、ただ強く美しい存在として称賛されるのではなく、よりリアルな人間としての側面をスクリーンで表現したいのだ。「常に完璧であることを期待されるのではなく、ありのままの人間らしさを演じたい」――それが、キッドマンの目指す新たなステージである。
ニコール・キッドマンのこうした挑戦は、ハリウッドの「女性に対する固定観念」を変えていく大きな力となるかもしれない。彼女の次の挑戦に注目したい。

映画・海外ドラマ関連を中心に、洋楽や海外セレブ情報も発信。カルチャーとファンの距離を縮める、カルチャーをもっと楽しめるコンテンツをお届け!
☆X(旧Twitter)で最新情報を発信中!今すぐフォロー!