今年も4月7日~5月26日の8週間に渡り、「キリング・イヴ」シーズン2が放送されました。昨年と同様、シーズン2の第一話放送後、数時間のうちにシーズン3更新の発表があったので、シーズン2を心行くまで楽しむことが出来ました。但し、8話と言うのは、余りにも短か過ぎて、ドラマシリーズを観た充実感がないのが心残りです。
プレスツアー前に送られて来たプレスリリースで、シーズン2の最大の不安材料が発表されました。「キリング・イヴ」のクリエイターであり、制作総指揮を担当していたフィービー・ウォラー=ブリッジが、旧友エメラルド・フェネルにバトンタッチしたと言うのです。制作総指揮者の交代は、政権が変わるのと同様、過去の例を見る限り、成功した例を思い出せないほどの凶報です。怖々観たシーズン2第一話と二話は、会話も雰囲気も番組のカラーも全く同一で、発表がなければ政権交代には全く気が付かなかったと思うほどです。ヴィラネルのブラックユーモアに益々磨きがかかり、吹き出してしまうシーンがシーズン2より多かったと思います。しかも、何度観ても笑えてしまうのです。
本年2月9日のTCAプレスツアーのパネルインタビューで、イヴ役のサンドラ・オーが、「フィービーとエメラルドは長い付き合いで、センスも感性も同じなの。似た者同士の友達って言うか. . .だからカラーが変わるなんて心配はご無用!」と断言しました。フェネルはシーズン1には関与はしていなかったものの、シーズン2の構想を練る段階で既に関わっていたため、老若男女に好評のBBC Americaのヒット作を維持どころか、ブラックユーモア度をレベルアップし、更に面白くすることに成功した珍しいケースだと言えます。
シーズン2トレーラー
「キリング・イヴ」シーズン1は、日本ではWOWOWで放送したので、ご覧になった読者も多いかと思います。未だご覧になっていない方は、2018年4月19日「ブランド嗜好のおしゃれな殺し屋とスパイになりたい冴えないMI5保安局員の一騎打ち。スパイスリラー『Killing Eve』はサイコバス対心理分析プロの心理戦を美しい映像とブラックユーモアで描く」をご一読ください。注:ここから先は、シーズン1と2のネタバレがあります。
シーズン2第一話は、イヴ(サンドラ・オー)が、パリのアジトに追い詰めたヴィラネル(ジョディー・カマー)を刺した直後から始まります。追う者と追われる側でありながら、強く惹かれ合う摩訶不思議な関係を維持して来た二人の仲に、取り返しのつかない亀裂が!イヴの裏切りが許せないヴィラネルは、トンズラを決め込みます。ヴィラネルの行方を突きとめる間も無く、ロンドンに召還されたイヴは、上司キャロリン(フィオーナ・ショウ)に、英国軍情報部第6課(MI6)の秘密諜報員に引き抜かれ、引き続きヴィラネル逮捕に専念するよう命じられます。しかし、暗殺請負人コンスタンティン(キム・ボドニア)を亡くし、浪人になってしまったヴィラネルを追うのは、イヴだけではありません。
シーズン2前半は、腹部に受けた刺し傷を癒そうにも、何もかもパリに残して逃亡生活を続ける羽目に陥ったヴィラネルの混沌たる世界を描きます。暗殺計画を練り、刺客とバレないよう架空のキャラになりきって、綿密に実行に移すのが常です。秩序を大切にする仕切りたがり屋ヴィラネルには、最悪の状態です。何も自分でコントロールできない、無秩序の世界にしばらく身を委ねなければならないヴィラネルの不平不満は半端ではありません。そして、思い通りに事が運ばなくなると、いつもの悪い癖が出て. . .ヴィラネルは、イヴに「私はここよ!」と暗号を送り続けているのです。
がさつ、ダサい、冴えないイヴは、犯罪心理分析に長け、平穏無事な結婚生活を棒に振って、一生に一度あるか無いかの好機を逃してなるものか!とヴィラネルに積極的に接近しました。イヴの怖いもの見たさは、異常なまでの執着心と化し、穏やかな生活を取り戻そうと躍起になる夫ニコ(オーウェン・マックドネル)は、イヴに愛想を尽かして、遂に家を出てしまいます。最早元の鞘に収まることは不可能?かと思いきや、イヴの心中を察したヴィラネルが余計なお節介を. . .
シーズン2後半には、イヴがヴィラネルの手を借りて、情報を操作して世界を牛耳ろうとするテクノロジーオタクのアーロン・ピール(ヘンリー・ロイド・ヒューズ)から情報を入手するために、ローマに出向きます。仕切りたがり屋と言う点で、アーロンとヴィラネルは似たり寄ったりですが、アーロンの正体を垣間見たヴィラネルは周囲の忠告を無視して、又々. . .
ヴィラネルは、イヴが自分と同様の人間になりたいと願っているものと思い込み、同時にイヴの好奇心や執着心は愛情であると誤解しています。第7話とフィナーレ回は、ローマを舞台に血生臭い抗争が繰り広げられ、イヴもヴィラネルも夫々の上司にまんまと罠に嵌められて、二進も三進も行かない窮地に追い込まれてしまいます。ヴィラネルは蓄えが十分にあるので、アラスカで暮らそうと提案しますが、イヴの答えは?そして、ヴィラネルは如何なる行動に出るのでしょうか?
シーズン2は、いたちごっこを続けるイヴとヴィラネルの摩訶不思議な関係が如何に展開して行くかに焦点が当てられています。心を許したイヴに刺されたヴィラネルの傷心は、怒りにはなりません。イヴが追跡の対象を存在感の薄い刺客「ゴースト」に移し、自分は最早イヴの注目の的ではないと悟ったヴィラネルは、危険を承知でイヴに近付いて、気を引こうとします。目立っては仕事にならない刺客としては、常に世界の中心でなければ気が済まないのは、仇ではないでしょうか?
シーズン2では、背後で糸を引いている「ザ・12(トゥエルブ)」の正体は明らかにされませんでした。但し、この謎の組織が如何に誰によって立ち上げられたかは、是非小出しにして欲しいと思います。と言うのも、2019年1月2日にリニューアルされた本サイトでご紹介した「今春の秀作SFスリラー『カウンターパート』シーズン2、早くも12月9日放送開始」の大失敗を目の当たりにしたばかりだからです。シーズン1は、性格が両極端の二役(ハワード・アルファとハワード・プライム)を好演するJK・シモンズに惹かれて観たスリラーでした。クリエイターのジャスティン・マークスは、「シーズン2は、夫々の世界でシモンズが演じる’アルファ’と’プライム’がどのような変化を遂げて行くのかに焦点を当てる」と約束したにも関わらず、蓋を開けてみたら、1987年東ドイツの科学者の実験が失敗して、分岐を続けてきた並行次元のことばかりで、シモンズを見かけることは稀になってしまいました。主要キャラにスポットライトを当てず、ドラマの背景を浮き出しにすることに専念したためです。視聴率の低迷の謎は、そのあたりにあると思うのです。尻切れトンボ感は否めず、気の抜けた炭酸飲料のような’完’を迎えました。
「キリング・イヴ」シーズン3が、「カウンターパート」の二の舞となりませんように。
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◇Meg Mimura: ハリウッドを拠点に活動するテレビ評論家。Television Critics Association (TCA)会員として年2回開催される新番組内覧会に参加する唯一の日本人。Academy of Television Arts & Sciences (ATAS)会員でもある。アメリカ在住20余年。