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「デスパレートな妻たち」のクリエイターが放つ「Why Women Kill」極彩色、笑えて、泣けて結婚の弱点/難点を突く? 実は女性に自分探しの旅を促すブラックユーモア劇

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8月1日CBSの日に実施された「Why Women Kill」のパネルインタビュー。左からマーク・チェリー、ルーシー・リュー、ジャック・ダヴェンポート、ジニファー・グッドウィン、サム・イェーガー、カービー・ハウェル=バプティスト、リード・スコット。

地上波局の秋の新作が9月23日からデビューしていますが、悲しいことに特記に値する作品がないので、今回から既に放送/配信が開始され、現在進行中の新/継続番組をご紹介します。

先ず、8月15日から放送開始され、現在進行中のCBS All Accessの新オリジナル「Why Women Kill」をご紹介しましょう。ABCが今世紀初頭に持っていた三種の神器「LOST」(2004~10年)「デスパレートな妻たち」(2004~12年)「グレイズ・アナトミー 恋の解剖学」(2005~現在進行中)のうち、「デスパ」を世に送り出して一世を風靡したマーク・チェリーが創作しました。2013~15年にLifetime局で放送された「デビアスなメイドたち」以来のチェリーの新作です。

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8月1日に開催されたプレスツアーCBSの日に、「Why Women Kill」の新作発表会が実施されました。パネルインタビューに参加したのは、クリエイターのチェリー以下、キャスト6人。創作の動機について、「夫の浮気に気付いた1960年代の主婦が、夫に隠れて愛人と仲良くなって行くうちに、図らずも自分探しの旅に出ると言う筋を長年温めて来た」とチェリーが語りました。但し、主人公は60年代の専業主婦に、80年代のキャリアウーマンと現代の政治活動家/弁護士を加え、パサデナにある同じ豪邸に住んでいることを接点としています。どのキャラも、夫の浮気あるいは裏切りを体験し、結婚丸が座礁に乗り上げる所から始まります。そして、タイトルから明らかなように、シーズン1最終回では、必ずしも夫ではなく、3キャラの軌道を回る誰かがキャラの手に掛かる結末が待ち受けています。更にチェリーは、「意外な所で、キャラ三人が繋がっていると言う仕掛けを思いついたので、お楽しみに!」と約束しました。

左からベス・アン(ジニファー・グッドウィン)、シモーヌ(ルーシー・リュー)、テイラー(カービー・ハウェル=バプティスト)。「マッドマン」の衣装を手掛けて名を馳せたジェイニー・ブライアントが時代を見事に表現。(c) Matthias Clamer/CBS 2019

 

ベス・アン(ジニファー・グッドウィン)は、男女の役割が明確だった1960年代の典型的専業主婦です。宇宙航空エンジニアの夫ロブ(サム・イェーガー)は、開口一番「世話好きな女ってセクシーだ!」と言います。高校で巡り会い、ゴールインした訳ですが、要はロブは体の良いメイド/母親を、ベス・アンは大黒柱/保護者を獲得したということです。パサデナの豪邸に引っ越して来た若夫婦は、何不自由なく、幸せに暮らしているように見えますが. . . お向かいの主婦シーラ(アリシア・コッポラ)は、ロブの亭主関白に甘んじるベス・アンが気掛かりで仕方がありません。ロブの浮気が発覚すると、ここぞとばかりに、相手のウエイトレスに三下り半を突き付けろ!と勧めますが、ベス・アンの何事も丸く納めたい性格が仇になり、エイプリール(セイディー・カルヴァノ)とすっかり仲良くなってしまう始末。夫の浮気など日常茶飯事。男尊女卑の社会では、「浮気は男の甲斐性」と裕福な男の勲章であるかのような言い訳がまかり通っていた時代のことです。夫が不倫に走ったには自分に落ち度があるに違いないと反省するどころか、ベス・アンはあの手この手でロブに尽くす始末です。何故、夫婦の絆が薄れ始めたのか、お互いの本音を口が裂けても打ち明けない、昔ながらの夫婦関係が見事に描かれています。

左から隣人レオ(アダム・フェラーラ)、背を向けているのは妻シーラ(アリシア・コッポラ)、中央ロブ(サム・イェーガー)、ベス・アン。横の物を縦にもしないロブの横暴振りに怒り心頭に発するシーラは、果たしてベス・アンを目覚めさせられるか?(c) Ali Goldstein/CBS 2019

 

 

[ベス・アンは、ダイナーでウエイトレスをするエイプリール(セイディー・カルヴァノ)に接近し、夫との関係を探り出そうと躍起になるが. . .ミイラ取りがミイラに。(c) Ali Goldstein/CBS 2019]

シモーヌ(ルーシー・リュー)は、80年代を代表するやり手女実業家のはしくれです。上流社会に取り入り、立身出世を狙う’にわか成金’で、素性がバレないように完璧なライフスタイルで世間体を維持しようと常に神経を尖らせています。三人目の夫カール(ジャック・ダヴェンポート)がゲイであると分かると、完璧な結婚生活のイメージを崩してはならないと、「空港の近くにある安アパートで細々と暮らせば良いわ!」と追い出しにかかります。何をするにも芝居掛かったこの夫婦は、富と完璧を絵に描いたような外見を取り繕うのに必死です。そして、シモーヌは娘の豪華絢爛な結婚式が終わったら、’人が羨むような離婚’(?)をしようと企んでいます。しかし、名目上の結婚は、シモーヌ、カール共に愛人が登場して、とんでもない茶番劇に展開して行きます。

 

シモーヌ(ルーシー・リュー)は世間体が何よりも大切。夫の裏切りを知って、隣家の未成年トミー(レオ・ハワード)が言い寄ると、最初は躊躇したものの、遂に若いツバメに昇格させてしまう。(c) Jessica Brooks/CBS 2019

 

テイラー(カービー・ハウェル=バプティスト)は、男女同権論を実行する女性の味方弁護士で、社会を変えてみせるぞ!とキャリアに打ちこんで来ました。夫イーライ(リード・スコット)は最近ヒット作のない、しがない脚本家で、敢えて主夫に甘んじています。テイラーが大黒柱なので、バイセクシュアルを理由に男女問わず外で愛人を作っても良いと言う「オープン・マリッジ」に同意せざるを得ません。しかし、テイラーが彼氏と仲違いしたジェイド(アレクザンドラ・ダダリオ)をパサデナの豪邸に招き入れて以来、異性愛のイーライ、バイセクシュアルのテイラーとジェイド三人の実に複雑な三角関係が始まります。妻の彼女であるジェイドは、バイセクシュアルとは言うものの、イーライの「理想の妻」像にぴったり。可憐で、料理から掃除、縫い物までこなしてしまう、まるで60年代の完璧な専業主婦なのです。ジェイドも優しいイーライに惹かれ、次のヒット作を書こうと焦るイーライのミューズとなり、恋心に変わって行くのでした。しかし、ジェイドには暗い過去が. . .

 

プレスツアーに登場した(左)カービー・ハウェル=バプティストは、現代の戦士テイラーを、リード・スコットは妻に頭が上がらない主夫イーライを演じる。(c) Francis Specker/CBS 2019

 

女が独りで生きて行く術がなかったつい最近までは、結婚は終身雇用同様の社会的/経済的サバイバル手段だったと言っても過言ではありません。財閥や貴族の一人娘なら婿をとるなどして「家」を守る使命は女性にかかりますが、経済力の後ろ盾がなければ、結婚して夫に守ってもらうしか手がありません。一家の大黒柱と家族を守るため、女はあらゆる努力を払ってきました。つまり、自分は優先順位の最下位に置き、我が身を犠牲にして家族第一で生きてきました。

夫の浮気を大目に見るのも、良妻賢母の条件の一つだった時代もあったのです。経済力がない、働いた経験もない専業主婦は、離婚すれば翌日から路頭に迷うことは目に見えているので、恐怖がコルク栓の役目となった時代は、つい半世紀前まで延々と続いてきました。元々チェリーが描こうとしていたベス・アンの世界は、日本ではつい最近まで現実でしたし、米国でさえ#MeTooやTime’s Up運動が始まった2017年まで水面下で男尊女卑や職権濫用がまかり通っていました。

本作では、ベス・アン、シモーヌ、テイラーの三人の女性の結婚観の変遷が語られていますが、終身雇用的サバイバル手段だった伝統的な結婚観と比べると、シモーヌもテイラーも、夫に扶養してもらわなくても十分に独立独歩生きていける女性なので、結婚を飽くまでも人生のアクセサリーのように扱っているのを観ると、必需性と言う観点から比較することは無意味のような気がします。妻とか母と言う言葉でしか自己表現が出来ないベス・アンは、自分探しの旅に出て、一体私の人生は何の為なのか?私は誰?何をしたいの?と自問する絶好のチャンスです。人間、壁にぶち当たって行き先を塞がれない限り、居眠り状態(=惰性や習慣)で生きているものです。シモーヌとテイラーは、結婚と言う名の体制自体を問うべきではないでしょうか?独り立ちできるようになった女にとって、結婚はプラスなのか?マイナスなのか?を真剣に問うべきではありませんか?

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