1月13日、Showtime局のプレスツアー日に発表された吉報は、「ビリオンズ」シーズン5にジュリアナ・マルグリーズが登場することです。マルグリーズは、「グッドワイフ」終了後、2018年には異色ドラマ「ダイエットランド」*で、アリシア・フローリックの正反対と言える見かけ倒し、情け容赦の無い毒舌家のナルシスト、キティー・モンゴメリーを演じました。この嫌な女が今後どのように変わるかを見届けようと楽しみにしていたので、「ダイエットランド」が尻切れトンボになってしまったのは残念で仕方ありません。マルグリーズは、2019年にナショナルジオグラフィック局のミニ・シリーズ「ホット・ゾーン」で、獣医病理学博士ナンシー・ジャックス米陸軍中佐を演じました。陸軍感染医学研究所でエボラ出血熱ウィルスに果敢に立ち向かう、アリシアとは異種の英雄でした。
「ビリオンズ」は2016年放送開始以来、毎年必見ドラマの1本として楽しんで来ました。日本でもNetflixで配信されているので、ご覧になった方も多いかと思います。リーマンショク以来、持つ者(1%)と持たざる者(99%)の間に存在する溝が広がり、世界を動かしているのは「1%の1%」と言われた頃に登場しました。チャック・ローズ検事(ポール・ジアマッティ)が代表する歴代の資産家(オールド・マネー)対、ヘッジファンドでぼろ儲けするボビー・’アックス’[=首切り斧と言う意味のボビーの渾名]・アクセルロッド(ダミアン・ルイス)が代表する成金(ニュー・マネー)の一騎打ちを描いたドラマです。
「財力で何を買収できるか?どこまで奔放な生き方ができるか?」対「権力で阿漕な輩をどこまで引きずり下ろせるか?」が、目前で繰り広げられ、どちらに肩入れすることなく楽しめるのがユニークな点でした。しかし、シーズンを重ねる毎に、役職(=権力)を維持するチャックも、裏では汚い手を駆使して更にのし上がろうと画策していることが露見、私生活の嗜好がバレてスキャンダルにもなり失脚寸前にもなりました。結局、権力を渇望する傲慢、卑劣、尊大な嫌な輩二人は、同じ穴のムジナです。
2019年6月に終了したシーズン4では、あれだけお互いを蹴落とそうと躍起になっていたチャックとアックスも、強敵が登場すると掌を返すように共謀しました。最終シーズンでは、巡り巡って原点に戻り、チャックとアックスの一騎打ちとなりますが、お互いの「手」を熟知してしまったので、死闘が繰り広げられる事は間違いありません。共倒れの可能性も無きにしも非ずです。
「ビリオンズ」クリエイターのブライアン・コッペルマンとデビッド・ラヴィーンは「マルグリーズはどんなセリフを書いても、まるで頭の中に詰まっている知識や感情を自分の言葉のように表現できる、自然体の俳優。キャストに加えたいと兼ねてから狙っていた」と賞賛しています。2016年来の経っての願いが叶って、漸く出演してもらえるマルグリーズのために書いた役は、アイヴィーリーグ大学社会学教授/ベストセラー著者キャサリン・ブライアントです。
「ER」では医学用語を、「グッドワイフ」では法律用語を駆使したマルグリーズですが、「『ビリオンズ』では金融用語を覚えなくても良いから楽ちん!」と言います。トレーラーからだけではどのような役柄なのかは全く不明ですが、これまでチャックがひた隠しにして来た欠点を敢えて曝け出す事に手を貸すライフコーチ的役割ではないかと. . .「チャックを非難したり、破廉恥な言動にひるんだりしないから、何もかも曝け出して成長できるのでは?」とマルグリーズは公表しています。アックスにパフォーマンス・コーチであるウェンディがついているのですから、チャック陣営でキャサリンが同様の役目を果たしてもおかしくないと、私は読んでいます。
シーズン1のフィナーレでチャックの妻/アックスのパフォーマンス・コーチであるウェンディ(マギー・シフ)、アックスの妻ララ(マリン・アッカーマン)、チャックの部下ケイト・サッカー検事補(コンドラ・ラシャード)の台頭が仄めかされてはいたものの、結局はどの女性もチャックやアックスのレベルにはのし上がることができません。
唯一、私利私欲のないインターンとして登場したものの、アックス・キャピタルのCIOに昇格、その後独立してアックスの強敵となった故に陥れられた天才テイラー・メイソン(エイジア・ケイト・ディロン)のみが、チャック側について協力するのか?あるいはアックスの単なるスパイなのかが、最終シーズンの焦点となりそうです。マルグリーズのファンとしては、キャサリンの影響でチャックの言動がどのように変わるかを見届ける方が、チャックとアックスのどちらに軍配が上がるかよりも楽しみです。
米国では5月3日、日本では5月8日に放送開始です。お楽しみに。
*「ダイエットランド」の内容は、2018年7月16日掲載「第一印象は、『何、これ!』#MeToo運動を過激に描写する異色作『Dietland』. . . .」を参照してください。
「ダイエットランド」が生まれた日本から絶対に見えない意味深な背景については、2018年7月20日掲載「『マッドメン』が謳歌した男の横暴振りに辟易した現代女性を描く『Dietland』. . . .」を参照してください。
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◇Meg Mimura: ハリウッドを拠点に活動するテレビ評論家。Television Critics Association (TCA)会員として年2回開催される新番組内覧会に参加する唯一の日本人。Academy of Television Arts & Sciences (ATAS)会員でもある。アメリカ在住20余年。