1月14日のアマゾンの新作発表パネルインタビュー(「Making the Cut」「ホームカミング2」「Hunters」)が始まる前に、アマゾン・スタジオの今後の作品について発表がありました。
配信日は未定ですが、今夏撮影開始と発表があったのは、リチャード・マッデンとプリヤンカー・チョープラー・ジョナス主演のスパイシリーズ「Citadel」です。マッデンは、2018年Netflixの政治スリラー「ボディーガードー守るべきものー」での活躍が目覚ましく、第76回ゴールデングローブ賞ドラマシリーズ部門の男優賞を受賞し、次期作品が期待されていました。一方、「グレイズ・アナトミー」X「HOMELAND/ホームランド」と言う触れ込みで、2015年秋ABCに登場した「クワンティコ/FBIアカデミーの真実」(2015~18年)で主人公アレックス・パリッシュを演じたチョープラーも、政治スリラー/スパイスリラーやアクションもので活躍した経歴を買われての抜擢です。チョープラーは2018年に画面で観納めして以来のドラマなので、とても楽しみです。
先ず、マスターシリーズとして「Citadel」を制作・配信し、同ドラマに登場するキャラ達が住む異国の日常生活をスピンオフシリーズとして制作すると言います。アマゾンは「マルチシリーズ」なる新ジャンルと称していますが、要は映画「アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー」と「アベンジャーズ/エンドゲーム」を監督したルッソ兄弟の「マーベル・シネマティック・ユニバース」コンセプトをそのままドラマシリーズの世界に持ち込もうと言うものです。「Citadel」は米国を拠点にした「主星」で、キャラが生活するインド、イタリアを舞台にした世界を描く派生シリーズを「伴星」として制作して、「Citadel」ユニバースを構築する予定。スケールの大きさには圧倒されますが、既にアマゾンには「CIA分析官 ジャック・ライアン」や「トレッドストーン」などのスパイシリーズのファン層が厚いので、そっくりそのまま「Citadel」ユニバースに移行しようと言う企画です。
「ボディーガード」は、ハラハラ度もストーリー展開のスピードも早く、僅か6話で複雑なドラマを語る秀作でした。一方、FBIアカデミーに集まって来た研修同期生が、仲間内に潜むテロリストを探し出すアレックスの苦難の旅を描いたドラマ「クワンティコ」は、全57話も制作した割には、問題の多い作品でした。まだ、5年程前ですが、当時は1シーズン22話が常識且つ伝統だったからです。「グレイズ・アナトミー」要素を前面に押し出したと言われれば、同期生間のくっ付いたり離れたりはありかなとは思いますが、
1)群像劇とは言え、キャラが多過ぎて収拾が付かなかった
2)過去と現在を交差する語り口が災いして、過去から現在に行き着いた経緯や過程が徐々に明かされると分かっていても、そこまで記憶を留めておく忍耐、気力、関心が早々に削がれてしまった
の2点が最大の問題だったと思います。しかも、アレックスの旅に同乗するのに疲れ果てた挙げ句の果てのオチが、まるで気が抜けた炭酸水のように味も素っ気もなく、乗り切った甲斐がなかった!とがっかりした方が多いのではないでしょうか?
シーズン2では、FBIを首になったアレックスがCIA諜報員養成機関に鞍替えして、再度研修生になります。シーズン前半はやはり過去と現在を交差する語り口で綴られ、後半になってやっと現在進行形になりましたが、時既に遅く、米国視聴者はシーズン1から半減。但し、海外ではチョープラーの人気と、これまでの局の投資分を取り戻す為にシーズン3を更新したものの、シーズン1の視聴率からは程遠く、急遽13話のみ制作・放送して、シリーズ完となりました。私は、どんな終わり方をしたのかさえ覚えていません。有終の美を飾っていないことは確かです。
チョープラーとの初対面は、2015年8月4日の「クワンティコ」番宣ビデオインタビューでした。流石、2000年のミス・ワールドに選ばれただけあって、眩いばかりの美しさに、思わず息を呑んでタジタジとなってしまいました。ところが、絶世の美女でありながら、気さくでお茶目!「4時間しか寝てないから、ドレスだけでも明るくしようと思った」とフクシャピンクを選んだ訳を打ち明けたり、「そんな太い声では婿取りは無理って、よく母に注意されたわ」と、アジア人女性に珍しい太くて落ち着いた声の’苦い体験談’を打ち明けてくれました。「絶世の美女にも悩み(?)があるんだ!」と親近感を感じ、お友達になりたい!と思ってしまうほどでした。
憧れの米テレビシリーズに初出演することが何よりも嬉しそうで、アジア人女優が初めて米ドラマの主人公に抜擢されたと言う史実を重荷に感じている様子はありませんでした。多様性を重視したABCの配役が痛くお気に入りのようで、「逞しくてセクシーなジェイソン・ボーンの女版を観て欲しい!」と声を大にしていました。過去にボクサーや刑事役もこなしているので、体を鍛えることには何の抵抗もないようです。但し、待ち時間なしで、「1日15時間以上働くテレビ業界には、まだ慣れない」と最後に一言。
「クワンティコ」終了後は、ニック・ジョナスとの結婚で世間を賑わせたチョープラーですが、さて、アマゾンの思惑通り「Citadel」ユニバースが成功を収めるでしょうか?チョープラーのファンとしては、大いに楽しみです。
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◇Meg Mimura: ハリウッドを拠点に活動するテレビ評論家。Television Critics Association (TCA)会員として年2回開催される新番組内覧会に参加する唯一の日本人。Academy of Television Arts & Sciences (ATAS)会員でもある。アメリカ在住20余年。