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[ネタバレ]「グッド・ファイト4」は、トランプの悪政が法曹界に残した爪痕を描く 召喚状を無視するなど朝飯前!特権階級が牛耳る無法国家になり下がった米国の惨憺たる現況

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これまでとは異なる「闘い」に挑む女性弁護士3人。御多分に洩れず、シーズン4は第7話配信を以って5月28日完となる。

※「グッド・ファイト4」についてのネタバレがあります。

2019年12月中旬から約8週間、トランプの弾劾公聴会および裁判が実施され、2020年2月5日に無罪評決で一件落着. . .と思っているのは、トランプ支持者と味方の振りをしておかないと我が身が危ない共和党員のみです。十分な証言も行われないまま、大統領が協力を一切拒否して弾劾裁判自体を骨抜きにする過程を、下院情報委員会の公聴会実況中継が見事に綴りました。米国建国史、三権分立の仕組みなど、これまで全く無関心だった米国の仕組みについて講義を聞いたようで、大いに勉強になりました。トランプ就任後3年弱、従来米国の規範として守られてきた制約を片っ端から無視、善良で正直な国民をカオスに突き落としました。しかし、無罪評決を手に入れた2月5日を境に、トランプの「買った国を煮て食おうが焼いて食おうがオレ様の勝手!」的行動・発言は止まる所を知りません。野放しにされた悪ガキが暴君に成長して、米国を買ったと思っているから始末が悪いのです。哀しいかな、米国は無法国家に豹変してしまいました。

皮肉なもので、天災は時を選んで来る訳ではありません。トランプや共和党員が一件落着と胸を撫で下ろした矢先、米国にも新型コロナウィルスが襲来。以来、混沌、混乱が続いて、今日に至りました。しかし、トランプは再選と裏切者処罰にしか興味がなく、コロナウィルス対策などもはや過去のことなのです。一国を指導する立場の人間が、国民の安全など眼中にないとは!?こんな暴君に来る日も来る日も振り回される悪夢のような毎日は、いつまで続くのでしょうか?

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毎年500本余りのドラマが制作される昨今と言えど、トランプに果敢に刃向かうドラマは「グッド・ファイト」以外にありません。「天と地がひっくり返った」シーズン1、トランプの悪政下、暗闇を手探りで右往左往する米国を描いた「魂の闇夜」シーズン2、「激動」のシーズン3と、2017年から3年に渡ってトランプを排除して、民主主義崩壊を阻止しようと努力するダイアン・ロックハート(クリスティーン・バランスキー)の葛藤が描かれました。トランプを引きずり下ろす為に、ダイアンがどこまで堕落できるか?の難問を提起したのがシーズン3でした。案の定、卑劣な手を使わないと決めたダイアンは、スワッティング*(SWATting)の憂き目に晒されます。秘密結社の’がせねた’で、ダイアンの自宅にSWAT特殊部隊が乱入しました。

*2018年から頻繁に発生するサイバー犯罪の一種で、がせねたで民家にSWAT特殊部隊を出動させる悪質な嫌がらせを指す新語。家宅捜査の様子をオンラインで目撃するスリルを味うのが目的だが、逮捕を拒否したため惨事に至ったことも多々ある。

カート・マクヴェイ(ゲーリー・コール)は共和党支持、ダイアン・ロックハート(クリスティーン・バランスキー)は民主党支持の珍しい夫婦。米国では、夫婦の間では政治を話題にしないことが不文律だ。

 

4月9日よりCBS All Accessで配信開始となった「グッド・ファイト4」は、既に配信済みの3シーズンとは打って変わって「無法国家と化した米国と法曹界の悲惨な現況に焦点を当てる」と、1月12日に開催されたTCAプレスツアーでクリエイターのキング夫妻が述べました。

大口クライアントを失ったレディック・ボウズマン・ロックハート法律事務所(RBL)は倒産を回避すべく、世界で7番目の多国籍STRローリー法律事務所の傘下に入りました。ガーゴイルのネオンサインがRBLパートナーのオフィスを照らし出す夜の繁華街風は、重厚な法律事務所とは正反対ですし、ペット犬が所構わず駆け回るハイテク会社風も、異様な雰囲気を醸し出します。雲の合間から下界を見下ろしあれこれと差配するのは、STRローリー社のパートナー弁護士/取締役ギャヴィン・ファース(ジョン・ラロケット)です。禅問答でRBLの弁護士を煙に巻き、悟りを開いた賢人を装ってはいますが、腹黒さが垣間見られます。

リズ・レディック(オードラ・マクドナルド)は、先シーズンダイアンに誘われて秘密結社に加担したが、今シーズンはSTRローリーに飲み込まれそうになり、父親から引き継いだ法律事務所の生き残りを賭けて闘う。

 

「グッド・ファイト4」第1話は、SWAT特殊部隊に家宅捜索を受けて9ヶ月後、オバマ政権下で正義を貫いた’理想に燃える’進歩派弁護士ダイアンが目にしたファンタジー/ホラーの世界を描きます。すっかり様変わりした職場に出勤してきたダイアンは、クリントン大統領の政策顧問との打合せ会議と聞き、耳を疑います。ダイアンが夢に描いた理想郷が実現した!と喜んだのも束の間、ヒラリー政権にもそれなりに問題が山積みと言う、大いに笑える展開です。ダイアンが弁護する羽目になったクライアントが判明すると、ファンタジーがホラーに急転します。ローナン・ファローの著作「Catch and Kill: Lies, Spies, and a Conspiracy to Protect Predators」を読んだ方には、殊更受ける逸話でしょう。木っ端微塵画像満載のオープニングにも意味深な仕掛けがありますので、お見逃しなく。

クライアントの都合に合わせて法律を捻じ曲げるのが得意なルイス・カニング(マイケル・J・フォックス)。堂々巡りの屁理屈と汚職がまかり通る前代未聞の法曹界に、果敢に立ち向かうダイアン。「堂々巡り」シーズンと呼ばれる所以だ。

 

第2話以降は、トランプが弾劾調査時に関連書類提出を拒否し、政策顧問やホワイトハウス高官が受け取った議会からの召喚状を無視しろと指示した事実に端を発して、トランプが身を以て証明した「制約を片っ端から無視すれば、怖いもの無し!」姿勢が、米国法曹界に残した爪痕を描きます。財力と権力があれば法曹界を裏で操作し、いかなる犯罪をも闇に葬り去ることができます。結局、正直者が馬鹿を見る無法国家になり下がってしまったと言う、情けない話が続きます。

シーズン4から連邦裁判所の判事になったジュリアス・ケイン(マイケル・ボートマン)は、トランプ支持者ではあるが、特権階級の魔の手が伸びて、判事の権限をことごとく侵害される。法廷侮辱罪など、もはや有名無実となってしまった!

 

ダイアンは、ファースから部下22人を与えられて、プロボノ部門を率いることになります。プロボノ(=公共善)は、弁護士事務所が無報酬で法律相談や弁護活動に従事することで、「グッドワイフ」時代から正義感の強いダイアンが得意としてきた分野です。最初の裁判は、立ち退き命令を受けたメキシコ料理店経営者対、土地収用権行使を申し立てるレアー・オーチャード不動産会社の訴訟。不動産会社CEOが召喚状を無視して出廷を拒否したことに始まり、申し立て番号や判決文がデータベースから忽然と消えたり、取り壊し差し止め判決を出したジュリアス・ケイン判事(マイケル・ボートマン)が不審な「覚え書き618号」にがんじがらめになる等、開いた口が塞がらない不可解且つ前代未聞の出来事が続きます。「連邦裁判所が法律を無視するようになったら、世も末!」と、ダイアンは怒り心頭に発します。

STRローリーのアソシエイト弁護士ケイレブ・ガーリン(ヒュー・ダンシー)が、RBLに潜入して機密情報を「上界」に流しているとみて、調査員メリッサ・ゴールド(サラ・スティール)が接近。

 

RBL法律事務所は倒産を避けて、STRローリーの傘下に入りましたが、共同経営とは名ばかり。出資率はRBL4対STRローリー6の割で、弁護相談・活動から人事異動、果ては差別用語の使用に至るまで、茶茶を入れて来る「上界」(RBL事務所より上の階をSTRローリーが占拠していることと、下界を見下ろす天国を司る神のような存在を示唆する言葉)に早々に辟易とし始めるエイドリアン・ボウズマン(デルロイ・リンド)、リズ、ダイアンのパートナーです。悪魔に魂を売ってしまったような、嫌な予感が. . .この得体の知れない多国籍企業は、「良き企業市民」の看板をRBLに背負わせる目的で、プロボノ部門をダイアンに任せ、ダイバーシティとインクルージョンを実証するために、多数の黒人弁護士を抱えるRBLを合併・吸収しました。

一方、STRローリーは特権階級の手先となって汚職や恐喝等の汚い手を駆使して、法曹界や政界を操作しては、私服を肥やす悪の元締めです。不可解な理由で敗訴の憂き目に遭い続けるダイアンは、弁護依頼人と被告が互角に戦えない状況が出来上がってしまい、いくら戦っても負け戦さでしかないと悟ります。要は、STRローリーの弁護士団に守られる特権階級(=金と人脈に物を言わせる1%の1%)は、米国の司法制度が金とコネで何とでも歪められると承知しており、今後「恥も外聞も無い、怖いもの無し!」で押し通せると判明したからです。

1月12日のTCAプレスツアーで、クリエイターのキング夫妻は、得体の知れない多国籍企業STRローリーについて「超購買力で、世界を買い漁り、全世界制覇を目論んでいる『アマゾン』のような存在と言えば、分かってもらえるでしょうか. . .?」と述べて、昨今あちこちで勃発しているアマゾン離れを示唆しました。アマゾンと言う言葉を聞いて、ぞっとしたのは、私だけではありません。1月10日、PBSフロントラインのドキュメンタリー「Amazon Empire: The Rise and Reign of Jeff Bezos」の制作発表のパネルインタビューが実施され、アマゾン帝国の法人税回避や違法すれすれの阿漕な商法で私服を肥やすジェフ・ベゾスや世界制覇の陰謀について話を聞いたばかりだったからです。後日、同ドキュメンタリーを視聴して、ベゾスの陰謀に加担したくないので、15年ほど疎遠にはなっていましたが、この際にアマゾンとは絶縁することにしました。

ルッカ・クィン(クッシュ・ジャンボ)は、今シーズンも離婚を専門とするが、STRローリーで離婚を扱うデビッド・リーと組む羽目に。コスメ成金のビアンカの子守役で弁護料を稼ぐことに後ろめたさを感じる、真面目なルッカも、富豪の’お友達’としての特権が形になって現れると. . .

 

5月20日にご報告した「グッドガールズ」同様、「グッドファイト」も10話制作を予定していたものの、コロナウィルスの感染阻止のため撮影が中断され、第7話を以ってシーズン4を終了せざるを得なくなりました。10話でも物足りないと言うのに. . .但し、「グッドガールズ3」の尻切れとんぼ感はなく、5月28日配信の第7話がジェフリー・エプスタインの収監先での怪死を捜査する面白い逸話だったので、満足感がありました。5月27日から世界配信されているNetflixのドキュメンタリー・シリーズ「ジェフリー・エプスタイン:権力と背徳の億万長者」を観て、背景や登場人物に熟知していると面白さが倍増すること間違いなしです。

又、5月14日に「グッドファイト」のシーズン5更新が発表されたので、シーズン4の残り3話+シーズン5の10話を期待したい所ですが. . .考えてみれば、シーズン5の配信は次期大統領就任後になると思われるので、シーズン4の残り3話は没になる可能性も高いでしょう。撮影は来年早々に再開される(?)としても、脚本は誰を大統領として書くのでしょう?全く予想がつきませんが、キング夫妻があっと言わせてくれることだけは確かです。トランプのいない、まともな社会に戻っていることを祈りつつ. . .

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