3月16日に外出禁止令が出て、数ヶ月はおとなしく自宅待機していたカリフォルニア住民も、夏突入を告げるメモリアル・デー(5月25日)の声を聞いた途端、まるでたがが外れたようにビーチや公園に繰り出し、ソーシャル・ディスタンシングなどどこ吹く風!と、社交にいそしみました。案の定、1~2週間後には、集団感染や入院患者数が急上昇。心無い人達のお陰で、元の木阿弥になり、感染収束と経済回復の両立を天秤にかけるどころの話ではなくなりました。その後、独立記念日(7月4日)、勤労感謝の日(9月7日)等祝日前には、州知事やLA市長などが活動制限を呼びかけましたが、自由は主張しても、公衆衛生や社会の安全を守る共生意識皆無の自己チューの国民性が災いして、嘗ての「平常時」に戻りたい!と息を潜めて生きている住民の努力は水の泡となりました。「マスクを装着しない権利」や「予防注射が完成しても受けない権利」(人口の4割近く)を主張するあり得な~い人達は、健康で安全に暮らしたいと願う良識人から隔離するしかないのでしょうか?こう言う輩が集える何でもありの「無法州」なるものを新たに作ってはどうでしょうか?日本で比較的早くある程度の感染収束が実現したのは、こう言う屁理屈をこねる輩が少ないからではと思うのですが、日本の現実を見ていないので、全くハズレ!かも知れません。今のところカリフォルニアの都市部では、屋外で食事ができるレストランが辛うじて営業許可された程度です。但し、ルール違反が発覚すると、すぐに営業停止となるのは、インフルエンザの季節が始まり、第二波、第三波の感染拡大を予測しているからです。折からの猛暑と州全域に及ぶ山火事にも手を焼いており、失業者や経済破綻などは後回しです。
パンデミックの影響は世界の隅々に、更に生活のあらゆる局面に及んでいます。自宅待機令が出たお陰で、エッセンシャルワーカー(生命維持や暮らしの必需品/サービスを提供する仕事に従事する人達)以外は、テレワークが日常となり、オンラインで会議ができることに端を発して、イベント、セミナー、ヨガ教室、遠隔医療も、何もかもバーチャルでこなせるようになりました。
キャンセルになった今夏のTCAプレスツアーも、7月28日~30日にはPBS(米国公共放送)、8月3日~11日にはケーブル局とビデオ配信会社(Netflix, Amazon, Hulu, Peacock)、9月9日FX局、9月10日Showtimeプレミア・ケーブル局がバーチャルに切り替えて、新番組を紹介しました。しかし、地元の大学や小中高等学校などが、遠隔教育を始めた8月3週目辺りから、ネット通信量が一気に増え、ロックダウン当初にはなかった超混雑が日に日に悪化しています。ネット配信が途切れたり、突如バッファリングが始まって、待てど暮らせど動画に戻れなかったりで、嘗ての平常時の週末に何度か体験した混雑ぶりとは比べものになりません。仕方がないので、最近は買い置きのDVDを観ています。
コロナ禍中、デジタルを駆使できる企業や団体のみが、「新しい生活様式」を先取りすることに成功しています。その最たる例がビデオ配信会社(=ストリーマー)で、これまで頑なに地上波局やケーブル局のみに固執していた55歳以上の高齢世代の週平均ストリーミング分数は、昨年第4四半期の19%から、20年第2四半期には26%と、5%増の370億分(こんな単位だと全く想像が付きませんが. . .)となりました。その分、これまで平均ストリーミング分数が最も高かった35~54歳グループは、19年第4四半期の30%から、27%に減少。これまでビデオ配信会社が地上波局を抹消するのは3~4年先と懸念されていましたが、コロナウィルスで加入者が配信会社に落とした金額は、2019年の7億7千万ドルから一挙に37%増の10億2千6百万ドルとなりました。テレビが、配信会社のビデオ映写機化してしまう日が倍速で到来するのは間違いありません。
テレビ業界のパラダイムシフトは、過去70年弱間に4回ありました。先ず、1988年の全米脚本家組合ストにより秋の新シーズンが始まらず、観るものがない!と1987年開局のFoxに逃げ込み、異色コメディ「Married… with Children」を発見、Foxが第4の地上波局として認められました。
次は、2001年の911同時多発テロ事件で、新シーズンに用意されていた新番組/継続番組が延期され、報道ニュースに辟易した視聴者が、オリジナルドラマを制作するようになったケーブル局(FX, USA, TNT等)に逃避しました。
更に、2007~08年にも全米脚本家組合ストが決行され、秋の新シーズンに穴を空けるよりはと、地上波局もケーブル局もリアリティー番組やニュースマガジン等、脚本不要の番組作りに走りました。お陰でドラマやコメディの数が激減し、毎年ドラマ、コメディ、リアリティーの3分野に分けて、新作本数を発表するようになりました。リアリティー・ブームが下火になった今でも、再放送できないと言う難点はあるものの、制作費や労力を抑えられることから、穴埋め以上の市民権を得ました。エミー賞にリアリティー・カテゴリーが登場したのは2003年とまだ新しい上、テレビアカデミーの専門職グループの1つ、ノンフィクション・グループは2010年に、ドキュメンタリーとリアリティーの2グループになったことも、需要を物語っています。今秋も、穴埋めとして使われるジャンルであることに間違いはありません。
コロナウィルスと言う名の「天災」は、我々が慣れ親しんできた従来の生活様式を根本から覆し、テレビ業界にもパラダイムシフトをもたらしました。コロナは最早「長期戦」ではなく、我々の「ニューノーマル」なのです。かつての「日常」には、もう二度と戻れません。
さて、日本からも問い合わせを受ける、2020~21年のシーズンの現況ですが、今秋新ドラマを発表するのはFox局のみと寂しい限りです。9月21日(エミー賞授賞式の翌日=伝統的に新シーズン開始日)から、キム・キャトラル主演のドラメディ「Filthy Rich」を、10月6日からAIが人類を抹消しようと試みるSFスリラー「NEXT」が始まります。ちなみに、CBSとABCは、リアリティー、クイズ番組、ライフスタイル番組で穴埋め作戦に出ます。
NBCの継続番組の新シーズン開始は、11月第2週目に集中。
11月10日 「36歳これから」シーズン4
11月11日「シカゴ・メッド6」「シカゴ・ファイア9」「シカゴ・PD8」
11月12日 「LAW & ORDER:性犯罪特捜班22」
11月13日 「THE BLACKLIST/ブラックリスト8」
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◇Meg Mimura: ハリウッドを拠点に活動するテレビ評論家。Television Critics Association (TCA)会員として年2回開催される新番組内覧会に参加する唯一の日本人。Academy of Television Arts & Sciences (ATAS)会員でもある。アメリカ在住20余年。