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Wokeなキャラにつき合い切れないロマコメファンにお薦め!「LOVE LIFE」は 飄飄としたダービーがたおやかなアラサーに成長する過程を描く

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アナ・ケンドリックが主演/制作を務めた「LOVE LIFE」は、HBO Maxオリジナル第一弾として好評を博した。シーズン2は、ヴィクトリア・ペドレッティ(「YOU~君がすべて~2」)の主演と発表されたが、放送日は不明。

「人種差別や社会問題に対して関心を持つこと、敏感でいること」をwokeと言います。特に、黒人が社会的不正、経済的不平等これまで米国社会が「臭い物には蓋」とひた隠しにして来た制度的人種差別(法律や社会構造レベルに組み込まれた差別)の存在を認め、抜本的改革を求める人権運動の基本です。言葉自体は1940年代に初めて使用されましたが、その後何度も浮上しては消えを繰り返して来ました。最近では、2018年に黒人を中心に使われて以来、今では人権運動の活動のみならず、CFなどにも気軽に使われるようになりました。最近の若い俳優が、「俳優/活動家」と名乗るのは、wokeな自分を主張している証拠です。

何故、wokeの説明から始めたかと言うと、ここ数年ヤングアダルト(YA)受けを狙うドラマやコメディの主人公キャラが「超woke」に描かれているからです。例えば、20代そこそこで市会議員に立候補したり、悪徳企業をソーシャルメディアで堂々と非難して名誉毀損で訴えられたり、旧世代から見ると突拍子もない行動に出るようになりました。

その好例が、日本でもHuluで配信されて好評を博している「NYガールズ・ダイアリー 大胆不敵な私たち」です。「スカーレット」誌で働く3人のミレニアル女子たちの公私を描くドラメディーは、米国では本年5月にシーズン4が終了したばかりです。シーズン1は、ライターのジェーン(ケイティ・スティーブンス)、スタイリスト志望のサットン(メーガン・ファヒー)、ソーシャルメディア・ディレクターに抜擢されたキャット(アイシャ・ディー)の仲良しトリオの紹介に始まり、公私とも3人が遭遇する仕事や恋の悩み、更に社会問題に果敢に挑戦する様子を描きました。真面目さの余りに融通性ゼロの潔癖ジェーンは、初っ端からゴツンゴツンとあちこちに突き当たります。キャットは、周囲の誰かがプレーキを踏んでくれるように祈ってしまうほど、走り出したら止まらない機関車並みです。会社役員リチャード(サム・ページ)にプロポーズされて、コネで出世したように見られるのが嫌で断ったサットンは、正に「現代女性の鑑!」です。

ところが、シーズン2は、ミレニアル女子たちが体験するLGBTQ、ボディーイメージ、水面下してまだまだ続く根強い男尊女卑や学歴社会、デジタル世界で生きる苦悩など、団塊世代には信じられないほどの問題に遭遇し(自分達で創り出している?と言う節も無きにしも非ずですが)、解決策を見出すのは「全て私の肩にかかっている!」の勢いで挑みます。しゃかりきに何もかも手に入れようとする青春時代であることは理解できるのですが、これでもか!これでもか!と津波の如く押し寄せる問題に、正直言って疲れ果てしまいます。

「NYガールズ・ダイアリー」のミレニアル女子トリオは、左からキャット(アイシャ・ディー)、ジェーン(ケイティ・スティーブンス)、サットン(メーガン・ファヒー)。裕福な家庭のひとりっ子キャットには、中西部の中流階級ジェーン、東部の労働階級で貧しく育ったサットンの悩みが理解できない。Courtesy of Freeform

 

尤も、このドラメディーはミレニアル女子たちが現実に遭遇するであろう数々の問題を提起し、SNSで拡散・共有するための器として制作されたものです。自己顕示欲が強い(=ナルシスト度が高い)同世代は、自信タップリで、変化を厭わないどころか伝統/慣習/しきたりに挑戦し、従来の方法を根底から覆して行きます。些細なことでもソーシャル・メディアで堂々と発表し、共感する人が集まって来ては、同感!人間の輪が世界中に広がって行くと言う仕組みが背景にある自信(過信ともとれる?)です。道理で、目上の意見を聞く耳持たない訳です。例えて言うなら、古い家を苦労して改築するより、思いがけない場所に好みの住処を見つけることにエネルギーを費やす開拓精神に燃えていると考えれば、ミレニアルの行動・態度に納得が行きます。シーズン1は比較的気軽に楽しめたミレニアル女子たちのドラメディーも、シーズンを重ねる毎に疲労度が倍増して行く訳です!

Wokeなキャラにつき合い切れない上、パンデミックの真っ最中と言うのに、シンドイ、暗い、こんなの観たら益々落ち込むでしょ!的ドラマしかなく、遂に観るものが完全に尽きてしまった7月。HBOプレミア局と比べると、大人の鑑賞に堪える作品が見当たらなかったものの、ま~これでも観るか?くらいの軽い気持ちで試してみたのが、HBO Maxのオリジナル作品第一弾「LOVE LIFE」でした。日本では10月15日から放送開始の「LOVE LIFE」は、9月21日にご紹介した「エミリー、パリへ行く」のようなウットリ、夢のようなロマコメではありませんが、想像していたよりも、現実的で奥の深いロマコメなのです。主人公キャラの気持ちをナレーターが解説してくれる、説明書付きの「LOVE LIFE」は、心理分析大好き人間には堪らないロマコメです。

 

「LOVE LIFE」は、ダービー・カーター(アナ・ケンドリック)がNYU卒業後、一人前の美術品キュレーターになり、結婚に至るまでを面白おかしく描きます。第1話は、2012年に美術館のガイドとして働くダービーが、カラオケでオーギー(ジン・ハ)に声を掛けられる所から始まります。出会いから1カ月後には、彼氏と彼女の仲になりますが、政治ジャーナリストのオーギーに降って湧いた出世のチャンスが待った!をかけます。将来を約束するほどの深い仲ではないので、7ヶ月の恋は自然消滅の憂き目に。もう二度と恋なんか. . .と嘆くダービーに、次々と訪れる出会いを、「ブラッドリー・フィールド」「マグナス・ランド」等、男性の名前をタイトルに綴ります。クリエイターのサム・ボイドは、第1話のオープニングに流れる、恋愛から結婚に至るデータ(平均7回の恋愛をして結婚にゴールイン、その内2回は本気の恋=辛い失恋、等)を元に、シーズン1の10話を構成したものと思われます。

第7話は「クローディア・ホフマン」と題して、母親とダービーの複雑な親娘関係を、第8話は「サラ・ヤン」で、親友サラとの友情を見事に描きます。ダービーが4歳の時に親が離婚し、進学のためにNYに出てくるまでは、二家庭をたらい回しにされました。第5話で、セラピーに通いだしたダービーは、親の離婚で傷つき、人との衝突を避け、弱い自分を彼氏にさらけ出せない人間になったと悟ります。何に執着するわけでもなく、飄飄と生きるダービーは、何となく恋と別れを繰り返しているうちに、たおやかに生きるアラサーに成長し、ようやく運命の赤い糸で結ばれた人に出会います。1年1話、しかも30分という時間制限があるため、さらっと流すしかない訳ですが、ボイドはダービーの気持ちをナレーターに託して、ストーリーを進めて行きます。ナレーターがウザい、不必要という意見もありますが、長い年月を10話で語ることは不可能ではないでしょうか?

ケンドリックの恋愛体験が「LOVE LIFE」に多々反映されているようですが、ケンドリックは制作陣としては残るものの、シーズン2は新キャストに総入れ替えして、撮影が再開される予定です。

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