去る10月2日に全世界同時デビューした、Netflixオリジナル「エミリー、パリへ行く」の更新発表がありました。11月11日、Netflixからテレビ評論家に送られて来たのは、通常のプレスリリースではなく、サヴォア・パリのシルヴィがギルバート・グループのマデリン・ウィーラー宛に出した駐在期間延長願いの正式書状とエミリーの写真でした。
「遺憾ながら、エミリーのパリ駐在期間延長をお願いいたします」で始まるシルヴィの正式書状は、皮肉たっぷり!「醜いアメリカ人」と見下げていた傍若無人で、高級ブランドのマーケティング経験ゼロのエミリーが、短期間に凝り固まった高級ブランドのクライアントの頑な心に風穴を開けるのを目にしたシルヴィの苦肉の策という訳です。「ヒョウタンから駒か、アメリカ商法の技かー私は前者だとは思いますがー短期間に成果をあげたと思います。長期の駐在となれば、クライアントとの関係を更に深めるでしょうし、フランス文化に馴染み、少しはまともにフランス語が喋れるようになるものと期待しています。」そして、極め付けは「但し、エミリーには延長願いは、ご内密に。」と締めくくられています。少しでも価値を認めたと知ると、エミリーが増長すると恐れているのでしょう。
一方、「エミリー、パリへ行く」シーズン1の配信と同時に、次々とフランス人から抗議ビデオが発表されました。最初に見つけたのは、このビデオです。「職場では喫煙できない」「不倫とか愛人とか、職場では考えられない」「フランス人は必ずお昼を食べる」など、微に入り細に入りアメリカ人の固定観念を指摘しています。
私は、映画「SAYURI」に異文化コンサルタントとして関与して、ハリウッドが異文化をどのように表現するかを、実際に目撃/体験したので、きっとフランス人から文句が出るだろうと思っていました。でも、どれ程フランス人が文句を言っても、制作投資額が一番高い人/組織の言い分、観点がまかり通るのがハリウッドです。アメリカ人の観点から描いたパリですから、生粋のパリジェンヌが固定観念だ!デタラメだ!と指摘しても、暖簾に腕押しです。「SAYURI」の苦い体験以来、ハリウッドが描く異文化社会は決して正確ではないと、話半分の冷めた目で観るようになり興醒めも良いところです。本作のクリエイター、ダーレン・スターも当然叩かれてはいますが、「ドキュメンタリーではない」「僕の見たパリ、僕の好きなパリを描いただけ」と大きなお世話と言わんばかりの言い訳です。
私は、フランスの事は何も知りませんが、ロマコメに飢えていたこともあり、映像の美しさにウットリしました。フランス人の指摘は当然だとは思いますが、とにかくこんなに綺麗で、オシャレで、楽しいロマコメが更新された事は、吉報!でしかありません。「エミリー、東京へ行く」ではないから、そんな無責任なことが言える?確かに. . .
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◇Meg Mimura: ハリウッドを拠点に活動するテレビ評論家。Television Critics Association (TCA)会員として年2回開催される新番組内覧会に参加する唯一の日本人。Academy of Television Arts & Sciences (ATAS)会員でもある。アメリカ在住20余年。