12月11日に発表した「益々猛威を振るうパンデミックに翻弄される米テレビ業界」は、コメディとドラメディーを取り上げましたが、今回はコロナ禍の犠牲となった完全に尻切れトンボのドラマ3本をご紹介します。「ニューノーマル」は既に始まっていますが、コロナウィルスと言う名の「天災」が残す爪痕は今後何年も尾を引くに違いありません。
「グッドガールズ:崖っぷちの女たち」
2020年5月20日「『グッドガールズ:崖っぷちの女たち3』蟻地獄から這い出せなくなった3人を観るのが辛い!?と言うより、一旦ヤクザな商売に手を染めると、決して堅気には戻れないと悟ると、もう勝手にして!と思うから不思議」でご紹介
米国内の放送日:NBC地上波局2018年2月26日~2020年5月3日
舞台は自動車の街デトロイト。働けど働けど我が暮らし楽にならずの労働階級(専業主婦、シングルマザー、ウエイトレス)の「良い子ちゃんトリオ」が、男に頼っていては埒が明かないと立ち上がるNBC初の過激なドラマ。高級住宅街で繰り広げられる裕福な家庭を守るのが「デスパレートな妻たち」なら、一攫千金を夢見て敢えて危ない橋を渡る労働階級を描くのが「Claws」(前回ご紹介したフロリダ・ノワール+ドラメディー)ですから、「グッドガールズ」は丁度中間辺りに位置すると言えます。但し、一難去ってまた一難の茶番劇が3作の共通点です。ドラメディーという触れ込みで始まりましたが、シーズン4はほとんどコメディの要素が消えてしまい、笑ってる場合か!と我が身をたしなめてしまうほどになったので、敢えてドラマ編にリストアップした次第です。「男に答えを出してもらおうと思うこと自体が問題!」と悟った悪ママトリオの堅い友情で、どう足掻いてもアリ地獄から履い出せなくなった苦難を乗り越えることができるのでしょうか?
シーズン3は、16話を予定していましたが、12話の1シーンのみ撮影が残っている時点で、コロナウィルスのため撮影が中断されました。11話をフィナーレ回として放送せざるを得なくなったため、御多分に洩れず尻切れトンボで終了しました。
5月15日、NBCはシーズン4更新を発表し、10月末に全員集合して撮影が開始されています。シーズン3の残りの5話を内容や展開を変えずに撮影していると公表されていますが、放送日については、NBCは2021年としか発表していません。しかし、下のニュースビデオでは、2021年冬と明言されています。ともかく、21年前半には期待できないと言うことなのでしょう。
「グッドファイト」
2020年6月1日「『グッドファイト4』は、トランプの悪政が法曹界に残した爪痕を描く 召喚状を無視するなど朝飯前!特権階級が牛耳る無法国家になり下がった米国の惨憺たる現況」でご紹介
米国内の放送日:CBS All Access配信局2017年2月19日~2020年5月28日
ご承知のように「グッドファイト」は、CBS地上波局で一世を風靡した「グッドワイフ」(2009~16年)のスピンオフ作品です。日本では法廷ドラマのジャンルに入っていますが、クリエイターのロバート&ミシェル・キング夫妻が得意とする「天と地がひっくり返った時こそ、人間が成長する又とない機会」を設定して制作された法曹界+政界ドラマです。オバマの街シカゴで、反トランプ派良識人を代表するレディック・ボウズマン・ロックハート法律事務所(RBL)で働く進歩派弁護士が、トランプ政権が崩壊にかかる民主主義を如何に維持し守って行こうとするかを描くからです。
毎年、数百本のドラマが制作されますが、トランプ政権下で(ほとんど)リアルタイムで果敢にトランプに刃向かったドラマは「グッドファイト」以外にありません。「天と地がひっくり返った」シーズン1、「魂の闇夜」シーズン2、「激動」シーズン3、「八方塞がり」シーズン4と、トランプ就任以降、悪政/独裁政治のもとで善良な市民が体験する悪夢のような圧政を見事に描きました。
「グッドファイト」も10話制作を予定していたものの、コロナウィルスで制作・撮影がが中断され、第7話を以ってシーズン4を終了せざるを得なくなりました。第7話は、ジェフリー・エプスタインの収監先での怪死を捜査する、少々毛色の違う逸話だったため、完全に尻切れトンボに終わらない工夫が凝らされました。シーズンを通じての謎「覚え書618号」を一貫させるために、4日間撮影した8話から3シーン(1)ジュリアス・ケイン(マイケル・ボートマン)が監察長官に「覚え書618号」を通報するシーン、2)ジュリアスが逮捕されるシーン、3)ダイアンの弁護で罪状認否するシーンを拝借して、フィナーレ回としました。ドラマは42分と限られている地上波局では考えられないことで、融通性の高い配信サービス局(CBS All Access)ならではの技と言えます。4シーズンを通して、「最短の逸話は40分、最長は55~57分だった」とクリエイターは公表しています。
5月14日に更新が発表された「グッドファイト」ですが、制作できなかったシーズン4の8~10話は没になります。「コロナ禍でパラダイムシフトした世の中ですが、シーズン5を書き始める10月あたりには、感染拡大第二波が予測されているので、内容は自ずと変わってくるだろうし、来年1月に就任する大統領によっても、話は全く別の世界になると思う」と、今年5月末のインタビューで、ロバート・キングが述べています。つまり、状況をある程度予測しながら、流れに応じて迅速に方向を転換して行くという離れ業が期待できます。嬉しい事に、暴君トランプは引退(?)を余儀なくされますが、その悪事の数々は、今後50年かけても、元通りに戻すことは不可能だと言われています。トランプの置き土産(悪・不正)を含めて悪ははびこるものですし、トランプが代表する白人至上主義の特権階級は尽きることがないからです。
残念なのは、エイドリアン・ボウズマン(デルロイ・リンド)とルッカ・クィン(クッシュ・ジャンボ)の好演はシーズン5では観られません。この二人が抜けた「グッドファイト」など考えられない!と思ったものの、「グッドワイフ」でウィル(ジョシュ・チャールズ)が射殺された後、アリシア(ジュリアナ・マルグリーズ)が人間として大きく羽ばたいたことを考えると、クリエイターの決断を信じるしかないでしょう。但し、エイドリアンとルッカがシーズン4の8~10話で、RBLを去る過程を描くシナリオが完成していたので、来シーズンにゲスト出演してもらって、「辻褄が合うようにする」とキング夫妻は公表しています。お願いしますよ!
下のニュースビデオには、シーズン5のキャストにジャンボも含まれていますが、降板事実が明らかになる前に制作されたものと思われます。撮影は既に始まっているとは思いますが、確認をとることは出来ませんでした。気になるシーズン5のプレミア日については、最も早いもので2021年冬、遅いものでは2022年春の憶測が飛び交っています。いずれにしても、政権交代、メインキャストの降板、コロナなど、パラダイムシフトした後のこれまでに観たことのない世界をダイアン・ロックハート(クリスティーナ・バランスキー)がどう生きるのかは、待ち遠しい限りです。何しろ、ダイアンは私のお手本ですから!
「ビリオンズ」
2020年3月30日「2020年冬のプレスツアーで入手した吉報第3弾!ジュリアナ・マルグリーズが『ビリオンズ』最終シーズンにゲスト出演」でご紹介
米国内の放送日:Showtime局2016年1月17日~2020年6月14日
チャック・ローズ検事/NY州検事総長(ポール・ジアマッティ)が代表する歴代の資産家(オールド・マネー)対、ヘッジファンドでぼろ儲けするボビー・’アックス’[=首切り斧と言う意味のボビーの渾名]・アクセルロッド(ダミアン・ルイス)が代表する成金(ニュー・マネー)の一騎打ちを描いたドラマです。
3月30日「2020年冬のプレスツアーで入手した吉報第3弾!ジュリアナ・マルグリーズが「ビリオンズ」最終シーズンにゲスト出演」でお知らせしたマルグリーズの役柄は、エール大学社会学教授/ベストセラー著者キャサリン・ブライアント役でした。妻ウェンディ(マギー・シフ)がアックスに寝返りして離婚を発表した後、チャックの彼女兼相談役となりました。504~506話に数分しか登場しませんが、敵アックスのパフォーマンス・コーチとしてウェンディが成功の鍵を握っているのですから、チャックにも同様の味方が付くのは当然と言えるでしょう。
しかし、シーズン5に決着が付くと思ったチャック対アックスの一騎討ちは、次のように三極化しました。
[su_table alternate=”no”][su_row][su_column size=”1/3″ center=”no” class=””] [/su_column] [su_column size=”1/3″ center=”no” class=””]味方[/su_column][su_column size=”1/3″ center=”no” class=””]新たに登場した敵[/su_column][/su_row] [su_row][su_column size=”1/3″ center=”no” class=””]チャック[/su_column] [su_column size=”1/3″ center=”no” class=””]ケイト、キャサリン[/su_column][su_column size=”1/3″ center=”no” class=””]グラム検事[/su_column][/su_row] [su_row][su_column size=”1/3″ center=”no” class=””]アックス[/su_column] [su_column size=”1/3″ center=”no” class=””]ワグ[/su_column][su_column size=”1/3″ center=”no” class=””]マイク・プリンス[/su_column][/su_row][su_row][su_column size=”1/3″ center=”no” class=””]テイラー+ウェンディ[/su_column] [su_column size=”1/3″ center=”no” class=””]ローレン、マイク・プリンス?[/su_column][su_column size=”1/3″ center=”no” class=””] [/su_column][/su_row][/su_table]
ケイト・サッカー(コンドラ・ラシャード)はシーズン1以来、チャックの部下として働いている敏腕検事で、NY州検事総長となったチャックの右腕として活躍。シーズン5にチャックの敵となるのは、マンハッタン区を牛耳る検事メアリー・アン・グラム(ローマ・マフィア)で、縄張り争いで衝突を繰り返します。
アックスにはワグ(デビッド・コスタビレ)と言う鬼に金棒のパートナーがいますが、大金を積んで囲った新鋭画家ニコ・タナー(フランク・グリーリョ)にウェンディを盗られて、嫉妬の余り嫌がらせをし始めたので、ウェンディはテイラー(アジア・ケイト・ディロン)組に入って自立を試みます。環境問題や地球に優しい投資家として世間の注目を浴びているマイク・プリンス(コーリー・ストール)は、アックスのような汚い手を使わないと公言して、当然アックスの大敵に。マイクに宣戦布告したアックスの運命やいかに?と言う所で、シーズン5前半が幕を閉じました。ワグのストリッパーになった娘との出会いや、福音派教団員になった息子がワグを救おうとするシーンは、大いに笑えます。又、その結果、どう言う決断をするかも、お楽しみに。
テイラーは、ローレン(ジェイド・エシェティ)と言うパワフルな味方に恵まれていますが、マイクが敵なのか味方なのかは謎のままです。「いち抜けた!」と鞍替えしたウェンディでさえ、私なら信用できませんが. . .
シーズン5は、12話制作を目指していましたが、第7話でプッツリ切られた感じで、尻切れトンボの最たるドラマです。クリエイターのブライアン・コッペルマンは、「シーズン5の残り5話は、脚本も完成しているし、制作再開の許可がおり次第、何も手を加えずに撮影する」とツイートしたと、オンライン数誌が10月中旬に報じています。しかし、実際に撮影が実施されているのかどうかについては、今もって確認がとれません。
10月1日、Showtime局はストールをレギュラーに昇格してシーズン6の更新を発表しました。内容は全く不明ですが、ファンの関心はシーズン5の後半(第8~12話)をいつ目にできるかに集中しています。現時点では、2021年にシーズン5後半を放送して、2021年秋か冬にシーズン6の何話かで繋げる?説が最も有力のようです。
現在の撮影状況が確認できないので、下のニュースビデオのように、シーズン5後半は2021年後半に放送され、シーズン6は2022年までオアズケ!と言うことも十分にあり得ます。三極の戦いの結果が一日も早く観たいものです。ウェンディは打算的で嫌な女ではありますが、私はやはりテイラー組を応援しています。
ハリウッドなう by Meg ― 米テレビ業界の最新動向をお届け!☆記事一覧はこちら
◇Meg Mimura: ハリウッドを拠点に活動するテレビ評論家。Television Critics Association (TCA)会員として年2回開催される新番組内覧会に参加する唯一の日本人。Academy of Television Arts & Sciences (ATAS)会員でもある。アメリカ在住20余年。