2019年11月19日「結婚号が座礁に乗り上げたら?4組の夫婦のセラピー・セッション20週間を記録したドキュメンタリー・シリーズ『Couples Therapy』」でご紹介したプレミア・ケーブル局Showtimeの「Couples Therapy」のシーズン2が、いよいよ4月18日から始まります。
米国では初の試みだった希少価値の高いドキュメンタリーは、2019年9月6日からシーズン1が開始されました。テレビ評論家のみならず一般視聴者にも好評を博し、セラピーを担当した心理学博士オーナ・グラルニク先生は、今やクライアントが殺到する人気セラピストとなりました。長い順番待ちリストがあるに違いありません。
2月23日に開催されたパネルインタビューは、クリエイターのジョシュ・クリーグマンとエリース・スタインバーグに加えて、監督・編集を担当するイーライ・デプリーとキム・ロバーツ(苗字は違いますが夫婦)が、グラルニク先生の功績を褒め称えました。通常のカウンセリングとは異なる環境で心理療法を施し、更に一般公開したにも関わらず、セラピストとしてひと回りもふた回りも成長したのは「皆さんのお陰!」とグラルニク先生は感謝の意を表明しました。
昨年、12月には「Couples Therapy」COVIDスペシャルが放送され、ニューヨーカーが天と地がひっくり返った異常事態にどう対処しているかが描かれ、共感を誘いました。シーズン2を撮影し始めて数ヶ月後の2020年3月のロックダウン~ある程度落ち着いた8月までを纏めた特番には、シーズン2のカップル3組も一瞬ながら登場する上、シーズン1に登場したローレンとサラ(この時点ではサムに変身)、エレインとデショーン夫婦の近況報告も含まれています。
COVIDスペシャルの核となったのは、1)ブロードウェイ閉鎖で失業した夫婦(舞台監督と舞台女優)が、息が詰まりそうな監禁状態で体験する男女の思惑と現実の差、2)在宅勤務で自宅にいるにも関わらず、子供を野放図にしていると感じる黒人の妻と白人の夫(学校の守衛任務を課せられたNYPD巡査)の家庭内や異人種間の葛藤に焦点が当てられました。
コロナの影響で生活形態が激変して、’有毒な男らしさ’が露わになりました。失業や収入減は「男は大黒柱」という昔ながらの固定観念をゆるがし、プライドが傷ついた男は身近にいる女/子供に毒をばら撒いています。「男は大黒柱」はDNAに組み込まれていると信じる私は、男らしさを新たに定義するのは至難の業だと思います。真の男女共同参画社会は絵に描いた餅だと思いますが、コロナ禍で潜在していた’有毒な男らしさ’にスポットライトを当てるのは、前進を目指す始めの一歩かもしれません。
期待のシーズン2には、1)妻は今時珍しい専業主婦志望+のらりくらり生きる夫=結婚歴11年の正統派ユダヤ教徒夫婦、2)デキちゃった同棲を始めたものの、毎日の生活に追われて心の繋がりがどんどん薄れて行く男女(交際歴2年)、3)アルコール依存症を乗り越えてはみたものの、相手を気遣う余り関係がギクシャクし始めたゲイカップル(交際歴3年)が登場します。結婚しているのが1組だけと言う興味深い選択について質問したかったのですが、今回のパネルインタビューは時間切れとなってしまいました。外出禁止令が出て、セットに来られなくなった期間はバーチャル・セラピーに切り替えて、シーズン2は8ヶ月(32週間)に及び、カウンセリングを収録しました。
一方、2008年~2010年まで3シーズン106話で個人カウンセリングをドラマ化して絶賛され、数々の賞を受賞したプレミア・ケーブル局HBOのドラマ「イン・トリートメント」は、今春5月にシーズン4として返り咲きします。
ポール・ウエストン先生(ガブリエル・バーン)に代わって、シーズン4からブルック・テイラー心理学博士を演じるのは、ウゾ・アドゥバです。又、舞台はNYからLAに移り、コロナ禍でテレワークや自宅勤務を強いられたテイラー先生のカウンセリング風景を描きます。
HBOから送られてきた3話を観た限り、ニューノーマルに対処しきれない様々な人種(白人、黒人、ヒスパニックなど)のクライアントが登場し、現代に生きる不安や悩みを個々のフィルターを通して描いています。自らの体験を共有することでクライアントの心を開き、観察力と感情移入で心理療法を施すテイラー先生は、ウエストン先生とは正反対。但し、第3話までには有名な建築家を父に持つ富裕階級出身、高級品を身に着けるセラピストであること以外は、私的なことは謎のままです。後に白人の彼氏アダム(ジョエル・キナマン)が登場し、くっついたり離れたりを繰り返す複雑な男女関係が露見するようです。
2月10日に行われたバーチャル・パネルインタビューに登場したのは、アドゥバの他にプロデューサーのジェニファー・シュアー(白人女性)とジョシュ・アレン(黒人男性)でした。現代化するために、ここ数年世間を賑わしてきた#MeToo運動や’有毒な男らしさ’、人種差別撤廃運動等をクライアントの悩みに組み込んで行くとシュアーが語りました。一方、アレンは「黒人のカウンセリング不信は今に始まったことではない。『イかれてないのに、何でセラピーの必要があるの?』と冷たい目で蔑まれてきたので、誰でもプロに悩みを打ち明ければ、気が楽になるものと示したかった」と発表しました。
出突っ張り、熱心にクライアントの悩みに耳を傾ける、長いセリフを暗記して余り感情的にならずにクライアントに対応する等、俳優にとっては大仕事。アドゥバは、「これまでに受けた仕事の中で、最も骨の折れる仕事!」と言います。それもその筈、通常30分モノのドラマは、最低5日から最高でも7日かけて撮影しますが、「イン・トリートメント」は2日と限定されており、俳優は万端の準備をして臨まなければならない、過酷な環境だからです。最近、’黒人の、黒人による、黒人のため’のドラマがめじろ押しですが、差別されてきた被害者意識に凝り固まったドラマになりませんように。
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◇Meg Mimura: ハリウッドを拠点に活動するテレビ評論家。Television Critics Association (TCA)会員として年2回開催される新番組内覧会に参加する唯一の日本人。Academy of Television Arts & Sciences (ATAS)会員でもある。アメリカ在住20余年。