HBO Maxが4月22日から配信している「Ellen’s Next Great Designer」(エレンの次世代のデザイナー)は、デザイナーはデザイナーでも、家具デザイナーの勝ち抜きコンペです。
全米各地から厳選した7人の新進家具デザイナーに、毎回課題を与えて独創性、斬新性、機能性の3点を備えた家具を数日で創作し、ロサンゼルスに持ち寄って審査する勝ち抜き戦です。課題は、1)石と木、2)絵画からインスピレーションを得て、3)幾何学形状(オベリスク、十二面体、立方体など)、4)大型遊具、5)多機能家具、6)フィナーレ回は審査員の自宅のスペースを埋める家具最低三作です。課題には予算の限定はなく、材料は何を使っても良いことや、東海岸にあるスタジオで助手の手を借りて創作した家具はロサンゼルスに空輸(?)して審査を受けることから、莫大な制作費(運賃)がかけられていることは明らかです。
審査員はインテリア・デザイナーのブリジート・ロマネクとコンテンポラリー・アーチスト/デザイナーのフェルナンド・マストゥランジェロの業界のプロ。建築や家具デザインに造詣の深い俳優スコット・フォーリーが司会兼審査員、全米に散らばった各デザイナーの仕事場を訪れるレポーターと、一人で三役をこなします。最近、コネチカット州に引っ越したフォーリーは、東海岸各地にアクセスしやすいという地の利もあるからでしょう。
デザイナーは、月刊誌「アーキテクチュラル・ダイジェスト」や「Dwell」にとり上げられた新進デザイナーで、著名人の家具をデザインした経験と将来大物デザイナーになる可能性を買われて選ばれました。勝ち抜いたデザイナーには、10万ドルの賞金+𝛂が贈られます。この𝛂が何なのかは、フィナーレ回の最後まで極秘だったのか(?)全く言及されませんでした。ネタバレを避けるために、ここでは謎のままにしておきます。
上のトレーラーやトップ画像から明らかなように、タイトルのエレンとは、昨年4月「エレンの部屋」で発した’御山の大将’的無神経な冗談(のつもり?)が、庶民の神経を逆撫でし、SNSで大炎上したあのエレン・デジェネレスです。外出禁止令が出た当初、タヒチ等にそそくさと脱出したセレブが同様の「一家全員無事に、パラダイスに避難しました!」的ツイッターを発信して、総すかんを食らう事件が立て続けにありましたが、デジェネレスのバッシングは思いも寄らない所で発火し、山火事の勢いで四方八方に広がり大炎上しました。
先ずは、「エレンの部屋」の制作関係者に飛び火し、パワハラ、セクハラ、人種差別を受けたスタッフが次々と名乗りを上げ、職場の環境改善を叫ぶ声が日に日に高まり、収拾が付かなくなりました。ワーナー・ブラザース・テレビジョンは、真相の追及に乗り出し、主導権を握っていた3人のプロデューサーが生け贄となって解雇処分されました。しかし、デジェネレス自体には何のお咎めもなく、全て「初耳」「知らなかった」と誠意のかけらも感じられない謝罪文を発表しました。デジェネレス側について弁護をかって出たA級俳優や歌手、トーク番組司会者なども続出しましたが. . .時既に遅し。
「エレンの部屋」に出演した俳優(ブラッド・ギャレットやリー・トンプソン等)が番組に出た時に、邪険に扱われた事を指摘し、「香盤表のトップ、冠番組を持つタレントや芸能人は、全スタッフを管理する立場。最高責任者が、プロデューサーが何をしているか知らなかったでは済まない!」と非難して火に油を注ぎました。こうして、画面で見せる気さくなデジェネレスは単なる蜃気楼に過ぎないと発覚してしまったのです。故に、視聴者100万人減に繋がったとか、繋がらなかったとか. . .
そして、5月12日、来春「エレンの部屋19」でトーク番組を終了するとデジェネレスが発表。昨年、視聴率低迷とバッシングに歯止めがかからず、降板を希望していたと報道されていたので、継続は無理?とは思っていましたが、公けには「もうチャレンジではなくなった」「契約が切れた」を口実にしています。
その昔、デジェネレスはコメディエンヌとしては面白いと思っていましたが、カミングアウトした後、人の弱味を笑いのネタにして、一旦笑いがとれると、執拗に痛いところを突く「からかい」が鼻について、「エレンの部屋」も数回観ていやになりました。
案の定、この番組でも4回目からデジェネレスの悪い癖が出始めました。フォーリーのことを「ハンサムなだけ」とか「やっぱり、美形は総身に知恵が回りかね」など、冗談ごかしでチクチクとからかいます。私はフォーリーに何度も会って話をしていますが、「とろい」とか「鈍い」などの形容からは程遠い、好感度抜群でしかも腰の低い人です。それを知っているだけに、余計にムカつくのかも知れませんが、あの手のからかいは笑えません。あれだけバッシングを受けたにも関わらず、自分の無神経さが人を傷つけていることにまだ気付いていないのでしょうか?あれは、一種のイジメだと思います。心の奥底に押し込んでしっかり蓋をしたつもりでも、怒りは様々な形で鎌首をもたげるものです。コメディアンは怒りの塊と言うではありませんか?第一、この手の企画では、笑いをとる必要は全くないと思うのですが. . .
ハリウッドなう by Meg ― 米テレビ業界の最新動向をお届け!☆記事一覧はこちら
◇Meg Mimura: ハリウッドを拠点に活動するテレビ評論家。Television Critics Association (TCA)会員として年2回開催される新番組内覧会に参加する唯一の日本人。Academy of Television Arts & Sciences (ATAS)会員でもある。アメリカ在住20余年。