2020年9月15日に掲載した「パンデミックがもたらしたパラダイムシフト」の記事の中で、米テレビ業界史のパラダイムシフト4件の内、911同時多発テロ事件後の報道ニュースに辟易とした視聴者向けにケーブル局が制作するようになったオリジナルドラマをご紹介しました。その1本として、TNT局が放ったドラマで、日本でもお馴染みの「レバレッジ~詐欺師たちの流儀」のリブート版制作が発表された事を、写真のキャプションでお知らせしました。
そして、今か今かと待ちに待った「Leverage: Redemption」(邦題がどうなるか不明ですが、リデンプションは罪滅ぼしと訳せば、内容に最も見合うと思います)が、7月9日よりIMDb TVのオリジナルシリーズとして配信されています。シーズン1は全16話ですが、今回は前半8話を発表し、今秋に後半8話に繋げる予定です。秋まで配信開始を引き延ばさず、先ずは前半8話を発表すると言う一気見に逆らう、珍しい作戦と言えるでしょう。もっとも、この作品は一話完結型ですから、全16話収録を待たずに、新作発表が比較的少ない7月にジャーンと登場したのは、大正解です。
配信開始前に発表した英文評はこちらをご覧ください。
TNTの「レバレッジ~詐欺師たちの流儀」は、2008年~2012年の5シーズン(77話)続いた一話完結型の和風に言うなら「必殺仕置人」、洋風に言うなら「ロビン・フッド」ドラマです。真面目で堅気な保険調査員ネイサン・フォード(ティモシー・ハットン)は、一人息子の手術を拒否され、死なせてしまった罪の意識に耐えられず、アルコール漬けの毎日を送っていましたが、ある日同様の目に遭った人から、保険会社への恨み辛みを晴らして欲しいと持ちかけられます。それを機に、ネイサンが集めた演技派(?)ペテン師ソフィー(ジーナ・ベルマン)、殴り屋エリオット(クリスチャン・ケイン)、天才ハッカーのハーディソン(オルディス・ホッジ)、泥棒パーカー(ベス・リースグラフ)の4人の力を借りて、弱きを助け強きを挫くようになります。
7月9日から始まったリブート/リバイバル版「レバレッジ:リデンプション」は、TNTで放送が完了してから8年後、貧困の格差が今や埋めようもなくなり、正直者が馬鹿をみる無法国家を描きます。汚職や金の力に任せて責任逃れしていたのは一昔前のこと。特権階級や大富豪は、合法的に私腹を肥やそうと、法律を書き換えたり、都合の良い政策を生み出す下工作に余念がありません。食い物にされて身ぐるみ剥がれても、泣き寝入りするしかない庶民の現実が悲惨を極めるだけに、1%の1%懲らしめを疑似体験できる、ユーモアたっぷり、スリル満点のリバイバル版は、誰が観ても痛快なドラマです。
リーダーだったネイサンの一周忌に、未亡人ソフィーの元に集合するのは、過去8年にレバレッジ・インターナショナルを設立し、世界中で必殺仕置人グループを運営するエリオット、パーカー、ハーディソンの3人です。生き甲斐を失い、悲劇の主人公に甘んじるソフィーを励ますために、美術館から絵でも(?)盗もうと提案しますが、一向に乗り気ではありません。しかし、ボストン美術館を下見に訪れた4人は、昼日中堂々とレンブラントの絵を盗もうとするとんでもない輩に遭遇します。
ハリー・ウィルソン(ノア・ワイリー)は、大富豪や特権階級に法の抜け道を教示し、阿漕な手口を駆使して被害者を捩じ伏せる’フィクサー’と呼ばれる弁護士です。被害者と直に触れる機会に恵まれ、自分が犯した罪の償いをしたいと、鎮痛性麻薬オピオイドを合法的に製造・販売して巨万の富を築いたクライアントが、脱税対策に設立したマックスウェル基金所有のレンブラントを盗んで、ロビン・フッドになり、罪滅ぼしをしようと思いつきました。こうして、パイロット版から、ハリーの罪滅ぼしの旅が始まります。レバレッジチームとしては、法網のくぐり方、数々の悪事の詳細(隠し金の在り処や指図した張本人、’基金’と言う名の脱税兼PR対策等々)を熟知しているハリーは貴重な存在ですが、チームの信頼を裏切るような行動で、危うく追放の憂き目に遭いそうになりながらも、エリオットに「1件片付ける毎に、魂のかけらを取り戻すもの。先は長い!」と諭されます。
リバイバルに新たに加わるのは、ハーディソンが養護施設で可愛がっていた’妹’ブリアナ(アリース・シャノン)です。デジタル/ソーシャルの申し子ブリアナは、ロボット工学にも強く、必要な器械を作ってしまうほどで、あだ名はメイカー。パーカーから盗みの手解きは受けたものの、ペテンの世界ではズブの素人。しかし、ハリーと同様、ヤル気満々で、ソフィー以下先輩達から手解きを受けながら、ヨチヨチ歩きを始めます。ハーディソン役のホッジが、他局のドラマの主役を演じていて多忙な為、ハーディソンの代わりがブリアナと言うわけです。今時、テクノロジーオタクがいなければ、夜も日も明けませんから。
私腹を肥やすことしか考えない、人を人とも思わない業突く張りの1%の1%は、ハリーのような弁護士のアドバイスを受けて、法網をくぐります。昨年、コロナ禍の外出禁止令が出て自宅に閉じ籠っていた際、ネットフリックスのドキュメンタリー・シリーズ「汚れた真実」1と2に遭遇し、すっかりハマってしまいました。シーズン2はまだ日本で配信されていないようですが、このドキュメンタリーが暴露する大企業の犯罪揉み消し作戦やカルテルと銀行の癒着、娘婿ジャレッド・クッシュナー(シーズン2で取り上げられたスラム街の悪徳家主)を含む、汚ないトランプ一族商法などが、微に入り細に入り描かれていて、大いに勉強になりました。「レバレッジ:リデンプション」は、実話を基に書かれているので、モデルが誰なのか、どの犯罪の手口が組み合わせられたのかを探り当てるのも、リバイバル版「リデンプション」の醍醐味の一つです。
私事で恐縮ですが、「レバレッジ~詐欺師たちの流儀」は、エリオットとパーカーの2キャラが好きで毎週欠かさず観ていました。ケインはシーズン2撮影中、リースグラフは最終シーズン放送前にインタビューを取り付け、エリオット、パーカーのひととなりを語ってもらいました。ケインは、「パーカーとエリオットは、自分を守ることに精一杯の悪ガキ。『心』が備わっていないから、何も感じない=無神経と解釈してるんだ。ネイトは酒で心痛を紛らしがちだけど、パーカーとエリオットに『心』を吹き込むはず。鼓動し始めて、痛みを感じるまでの変遷を時間をかけて描くんじゃないかな?」とキャラ分析を語りました。(本インタビューにご興味のある方は、https://www.us-lighthouse.com/leisure/tvinterview/actor-christian.html をご一読ください。)確かに、ケインが言うように、「レバレッジ」オリジナルは、身勝手で自己チューのチョイ悪4人をネイサンが、チームプレーヤーとして忍耐強く育て上げていく過程を見事に描きました。世間から爪弾きにされた一匹狼たちが、自分をありのままに受け入れてくれる「群れ」を探していたからだと私は解釈しています。
両親(ネイサンとソフィー)の元に戻って来た、大人になったエリオット、パーカー、ハーディソンが、次の世代を育み新たな「群れ」となる過程をリバイバル版「レバレッジ:リデンプション」が描いて行くようなシーズン1前半です。しかも、本作の真髄は、ソフィーの一言「我々はヒーローじゃない。必要悪なの!」に凝縮されています。
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◇Meg Mimura: ハリウッドを拠点に活動するテレビ評論家。Television Critics Association (TCA)会員として年2回開催される新番組内覧会に参加する唯一の日本人。Academy of Television Arts & Sciences (ATAS)会員でもある。アメリカ在住20余年。