世界中で人気を博しているHBO局のヒット作「キング・オブ・メディア3」が、漸く10月17日より放送開始となります。まずは、トレーラーをご覧下さい。
全世界で5位を誇る巨大メディア帝国ウェイスター・ロイコ社を情熱と努力で築き上げたローガン・ロイ(ブライアン・コックス)は、老いても、飽くまでも王位にしがみ付く頑固オヤジです。それなりに後継者を育てたつもりだったのですが、4兄妹は誰も、帯に短し、たすきに長し。自分以上の冷酷非情なリーダーを後継者にしたいと望む反面、頭角を現そうものなら即刻叩き潰し、軟弱で幼稚な兄妹間のせめぎあいを助長します。何度も謀反を企てて失敗した二男ケンダル(ジェレミー・ストロング)の人間性(罪の意識や償い願望の芽)を身ぐるみ履いた後、クルーズ部門のスキャンダル隠蔽の責任者として、警察に突き出そうと目論んだローガンを待ち受けていたのは、ケンダルの窮鼠猫を噛む的裏切り行為でした。記者会見で父親を告発すると同時に、いとこ(正確には「いとこちがい」の関係)グレッグ(ニコラス・ブラウン)が隠し持っていた証拠を提示して、真っ向からローガンに楯つきます。
こうして、一見父親に平伏したように見せかけたケンダルは、グレッグを味方(たいした味方ではありませんが)に付けて、果敢にも謀反を起こします。帰国すれば逮捕され二進も三進も行かなくなる窮地に追い込まれたローガンは、急遽東欧の某国に身を隠し、側近+家族会議を開いて当座の対策を練ります。問題は、一時的に誰を社長代理にして、時間を稼ぎ、ケンダルの手の内を探るかですが. . .
天にも昇る心地で意気揚々とNYに戻ったケンダルは、早速他に誰が加担してくれるか探りを入れ始めます。三男のローマン(キーラン・カルキン)はローガンが送り込んだ敵陣偵察係、長男コナー(アラン・ラック)は予期せぬ謀反に、どちらに付けば得かを決めかね、長女シヴ(サラ・スヌック)は又もやローガンに裏切られて、仕方なくケンダルのもとに集まってきて、世紀の腹の探り合いが始まります。シヴは、兄弟の蹴落とし合いに巻き込まれまいと、シーズン1では政界に身を置いて達観していましたが、ローガンに最終的には後継者にすると仄めかされて以来、政界を退き、難攻不落の一匹狼に徹してきました。しかし、業界や経営体験ゼロの頭でっかちで、夫トムにさえ気を許さず、話し相手すらいない、’完全な孤島’になってしまった今、誰に擦り寄っても信用されません。自業自得とは言え、競争心満々のくせに怖くて争いに飛び込めない、立場の弱さに気付いたシヴは、卑劣さ、残酷さに益々磨きをかけて行きます。私は、シヴが最も父親と性格が似ていると思うので、最終的に勝利の女神はシヴに微笑むのではないかと. . .
去る9月22日に開催されたHBOのバーチャル・パネルインタビューで、昨年エミー賞ドラマ部門主演男優賞を受賞したジェレミー・ストロングがケンダルについて語りました。先ず、「ケンダルは菩提樹の下で悟りを開いた仏陀のような心情だと思う。ローガンの’雁字搦め’を断ち切った!昂揚で、宙に浮いているような感じだと言えば良いかな?」と説明。今シーズンは「大きな犠牲を払って手に入れた勝利」が、吉と出るか凶と出るかを探ります。
「キング・オブ・メディア」は、メディア王ローガン・ロイの跡継ぎ養成ハウツー本仕立てになっており、冷酷非情な自己チュー野郎を育て上げるために、人間としての品位(罪の意識や償い願望の芽)を無惨に摘み取る方法を描きます。同族会社は三代で潰れると言いますが、創業者ローガンは金と力(=影響力)の亡者=毒親で、人格を否定する言動で二代目4兄妹を蹂躙(じゅうりん)する事など朝飯前、愛情という名の心理的虐待を続行します。それが証拠に、シーズン1初回で、ローマンが使用人の子供(10歳くらい?)を100万ドルの小切手でいたぶるシーンがあります。とてつもなく、残酷なシーンに胸が痛みましたが、父親から受けた心理的虐待をそっくりそのまま、たまたまその場に居合わせた罪もない子供に継承します。
「この仕事を始めた5年前からユングの『権力が幅を利かせる所に愛はない』の名言を心して演じている」と告白し、ドラマの核心に触れたのもストロングでした。早速、心理学者カール・ユングの名言集を検索してみたところ、全文は「愛の支配するところ、権力欲は存在しない。権力が幅を利かせるところに愛はない。両者はお互いの影なのだ」でした。さ、す、が!言い得て妙とはこの事ですね。
「キング・オブ・メディア」で風刺の対象となった、特権階級の目に余る超自己チュー的言動や、見るに堪えない醜態、許しがたい破廉恥なパワハラなどは、トムやグレッグのような庶民が見て初めて気がつく、尋常ではない世界です。しかし、クリエイターのジェシー・アームストロングは、特権を振りかざして濫用する1%の1%の生き様を風刺する為に書いた訳ではなく、「魚の目に水見えずだ」と指摘します。富や特権が余り身近すぎて目に入らず、ロイ一族に必要不可欠なものへの有り難みが薄れている様を巧みに表現する言葉です。な、る、ほ、ど。
J・スミス=キャメロン(ジェリー役)の「クロアチアでもトスカーナでも超高級ホテルでも、どこにいてもこの連中は惨めそのもの!贅沢に慣れっこになって、周囲に気が付かないのか目に入らないのか. . .何でも手に入る金持ちなのに、どこにいてもあがいて、もがいて、惨めそのものなのよね」コメントが失笑を買いました。今夏のHBOのヒット作「The White Lotus」を観た時もつくづく思ったのですが、VIP客にはマウイの絶景など全く眼中になく、あれほど美しい環境に身を置いても、至福を味わっている様子が全くありません。自分が今幸せか?と自問した事がないのか、至福感など生きる目的ではないのか、どちらなのでしょうか?
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◇Meg Mimura: ハリウッドを拠点に活動するテレビ評論家。Television Critics Association (TCA)会員として年2回開催される新番組内覧会に参加する唯一の日本人。Academy of Television Arts & Sciences (ATAS)会員でもある。アメリカ在住20余年。