アメリカ国務省は10月27日(水)、史上初となる「X」ジェンダーのパスポートを発行した。今回交付を受けた人物は、2015年からこの問題をめぐり法廷闘争を繰り広げていた。
「X」ジェンダーとは、男女のいずれか一方に限定しない性別の立場を取る人のことを指す。
このたび、性別欄に「X」と記載されたパスポートを受け取った退役軍人のダナ・ジムさん(63)は、2015年、パスポート申請時に性別欄の男女選択をせず、両性または無性を表す「インターセックス」と記入して提出した。
ところが、この届け出が受理されなかったことから、アメリカ国務省を訴えたのだ。
裁判資料によると、ダナ・ジムさんは生まれつき、性別を判断する身体的特徴があいまいだった。男性をして育てられ、何度か手術を受けたものの、男性の特徴を完全に手に入れることはできなかったという。
成長した後は、男性として海軍に所属。その後コロラド州立大学で働きながら学ぶうちに、自身がインターセックスなのではないかと気がついた。
そこでインターセックスに関する国際会議に出席するため、パスポートの取得を試みたが、取得そのものが拒否されてしまったのだ。
2020年5月、連邦控訴裁判所は、インターセックスの人々に男性か女性かの選択を迫ることはデータの正確性が保てなくなると判断し、ジムさんへのパスポート発行を再検討するよう国務省に命じた。
判決文では「シェフが塩の入ったビンに『砂糖』と書かれたラベルを貼っても、そのラベルによって塩が甘くなることはない」と、性別を選択させることの無意味さを指摘。
さらに「インターセックスの人々が申請書の『男性』『女性』欄にチェックをつけることを要求しても、パスポートの正確性が上がるわけではない」と付け加えている。
そして今年6月30日、国務長官のアントニー・ブリンケンは、パスポート申請書に「X」の性別マーカーを提供すると発表した。
国務省のネッド・プライス報道官は、システムを申請書を改訂することによって、来年初めにすべてのパスポート申請者が「F(女性)」や「M(男性)」ではなく、「X」という識別名を選択できるようになるとの声明を発表している。
また「Lamdba Legal」によると、オーストラリア、オーストリア、バングラデシュ、カナダ、デンマーク、ドイツ、インド、マルタ、ニュージーランドなど少なくとも他の12か国が、「M」または「F」以外の性別マーカーが付いたパスポートを提供しているという。