2020年10月2日にネットフリックスのオリジナルとして世界同時配信され、第73回エミー賞のコメディ部門にもノミネートされた「エミリー、パリへ行く」。コロナ黙示録の真っ只中で身も心も荒んでいる全世界の視聴者を、美しいパリに誘う魔法の絨毯となって現実逃避させてくれました。クリエイター、ダーレン・スター(「SATC」や「サバヨミ大作戦」)は、又しても「悲惨なドラマだらけのテレビ界で’逆流’」を果たし、カラフル、オシャレ、ロマンス山盛りのロマコメをここぞ!とばかりに発表してくれました。
11月13日、「速報!『エミリー、パリへ行く』シーズン2更新」でお知らせした、シーズン2はいよいよ12月22日に世界同時デビューすることになりました。
オードリー・ヘップバーンの再来と言われる清楚で可憐なリリー・コリンズ主演のロマコメは、仕事、恋愛、友情におおわらわのエミリーの猪突猛進!パリ奮闘記。私は、パリってこんなに綺麗な街なんだ!とうっとりして、エミリーの冒険に同乗しましたが、同時にさり気なく書き込まれた異文化体験にも興じ、十分に満喫しました。
しかし、今年のゴールデン・グローブ賞テレビコメディ部門及び主演女優賞等、計4部門にノミネートされると、ハリウッド外国人記者協会(HFPA)の会員=投票権保持者がパラマウント・ネットワークからパリ優待旅行(高級ホテルに2泊、宴会、セット訪問等)をさせてもらい、票に繋がったのではないかとの疑惑が浮上して、すっかりケチがついてしまいました。詳細は、本サイト2021年2月25日の「『エミリー、パリへ行く』ゴールデングローブ賞ノミネートに疑惑!? 主催メンバーを制作スタッフが手厚い接待か」をご参照ください。
HFPAのスキャンダルは、1958年の投票方法に始まり、「エミリー、パリへ行く」で何と8回目とか. . .2010年に映画「バーレスク」自体の興行はポシャったにも関わらず、最優秀ミュージカル部門にノミネートされ、ラスベガスで接待を受けた見返り票だ!と責められたのが、私の記憶に残っています。今回も匿名のHFPA会員が「この番組(「エミリー」)は、2020年のベスト作品にはふさわしくない」と断定したのには、正直びっくりしました。ゴールデングローブ賞は、毎年アカデミー、エミー賞が目もくれない一風変わった(毛色の違う)作品に賞を授与する団体としての歴史が長いからです。「エミリー」ファンの私は、そんなに槍玉に挙げないでよ!と悲しくなってしまいました。ですから、エミー賞コメディ部門にノミネート発表があった時には、「ほら、ご覧!」とほくそ笑んでしまいました。残念ながら賞はとれませんでしたが、馬鹿にしている人達を見返すことができて、本望でした。たまには、何も考えずに、単に満喫するだけの軽いノリの作品があっても良いと思うのは、私だけではないと言う証拠です。
先日送られてきた評論家用の試写版5話を観た所、パリやサントロペの絶景がふんだんに観られるものの、先ず一番大きな違いは、これってミンディー(アシュリー・パーク)の歌唱力を証明するためのシーズンなの?と思う程、ふんだんに時間が割かれている事でした。話の展開ネタが尽きてしまったから?とマジで疑ってしまいました。
次に、アメリカでは馴染みのないフランス人俳優フィリピーヌ・ルロワ=ボリュー(シルヴィー役)、サヴォア従業員ブリュノ・グエリ(リュック)やサミュエル・アーノルド(ジュリアン)等を起用したので、エミリーが少々サヴォアに馴染んだ状態と仮定して、フランス語の会話がかなり増えた点が目立ちました。字幕付きのドラマ苦手人間には、面倒なシーズンです。
コロナ禍がもたらしたパラダイムシフト現象の一つとして、米国では字幕付きのドラマに抵抗を感じる視聴者の激減があると言われています。その事実(?)を前提に、シーズン1で控えていたフランス語の場面が激増しました。ロマコメだから軽く流せば良いのかも知れませんが、仏語会話の内容をしっかり把握しようにも、字幕を読んでいるとキャラの表情や動作を見逃すので、最低でも二度観しなければなりません。しかも、字幕が瞬時に変わるため、読み切る事ができず、一時停止機能を何度も何度も使って字幕を読む操作が超面倒で、興醒めも良い所!
シーズン2は、リモワとピエール・カドーのコラボ、リーキ(ポロネギ)販売促進会、シャンペア等、シーズン1よりクライアントの数が激減した事も明らかです。昔、広告代理店のドラマを制作したプロデューサーが、毎回広告キャンペーンのキャッチフレーズやコンセプトを考えなければならず、通常の4~5倍手間隙がかかるので、二度と広告代理店が舞台のドラマは書きたくない!と告白したことを思い出しました。
更に、エミリーの三角関係に端を発した公私混同が原因で、シャンペアのキャンペーンを持ち込んだカミーユ(カミーユ・ラザ)は勿論のこと、エミリーと関係ができてしまったガブリエル(リュカ・ブラボー)までが、新レストランの出資者/シルヴィーの愛人アントワーヌ(ウィリアム・アバディ)の仕事だと言って、開店キャンペーンをサヴォア(=当然、エミリーにお鉢が回って来る訳ですが)に依頼する等、四六時中顔を突き合わせる事になり、人間関係が超複雑化!尤も、ミレニアル世代は、プライバシーを曝け出すことに慣れており、職場とプライベートの間に境界線を敷かないので、当然の成り行きかもしれません。プライバシーを死守してきたデジタル・イミグラントは、公私を曝け出さずにはいられないミレニアルを見ると、そんなきりきり舞いをいつまで続けるの?とかわいそうになってしまいます。
シーズン1は、アメリカ人のフランス人や文化に対する時代遅れの固定観念が物議を醸し出しました。スターは、「ドキュメンタリーではない」「僕の見たパリ、僕の好きなパリを描いただけ」「最初からフランス語を流暢に喋り、仏文化にも通じている米中西部出身のエミリーなんて、ドラマにならない!」と大きなお世話と言わんばかりの言い訳をしました。元々、米国のケーブル局で放送する予定だったものが、急遽全世界同時配信に切り替わったと言う裏事情もあって、あそこまでバッシングされるとは、予想だにしなかったに違いありません。現在も、「そんなに目くじらを立てるほどの事ではない。たかが、ロマコメ!されど、ロマコメ!」と全く問題外のような口振りです。しかし、シーズン2は、この麗しき「醜いアメリカ人」叩きを交わそうと、1)エミリーの仏語教室での時間を増やし、片言ながらフランス語を其処此処に挿入、2)フランス嫌いの英国人アルフィー(ルシアン・ラヴィスカウント)の口を借りて、「見掛け倒しのパリ」を徹底的にバッシングさせ、3)フランス人から見たアメリカ文化バッシング(例:ロマンスを商品化する、手軽で効き目抜群大好き、減量命、カーダシアンやグープ崇拝など)も書き込まれています。
「ヒョウタンから駒か、アメリカ商法の技かー私は前者だとは思いますがー短期間に成果をあげたと思います。長期の駐在となれば、クライアントとの関係を更に深めるでしょうし、フランス文化に馴染み、少しはまともにフランス語が喋れるようになるものと期待しています」と書かれたシルヴィーの駐在期間延長願いとは裏腹に、シーズン2では、エミリー、カミーユ、ガブリエルの三角関係が職場に持ち込まれ、二進も三進も行かなくなってしまいます。ガブリエルに未練たっぷりのカミーユは、エミリーをシャンペアのキャンペーンから締め出したり、母親の言うなりにガブリエル奪還作戦を企んだり、シーズン1では見せなかった金持ちの我儘娘ぶりを発揮します。一方、ガブリエルは、カミーユからエミリーに乗り換えたつもりが、「賞味期限付きの恋は真っ平御免!」と言い渡され、未練タラタラ、ねちねち纏わり付いて来ます。潔くない女の腐ったようなガブリエルは鬱陶しいの一言に尽きます。
コロナ禍の外出禁止令下で観た「エミリー、パリへ行く1」は、ワクワク度の高いロマコメで、どの角度から見ても、新鮮そのものでした。しかし、エミリーの三角関係と公私混同故の、もやもや、ねちねちの何ともスッキリしないシーズン2は、字幕の鬱陶しさも手伝って、手放しで楽しめないロマコメに変身してしまいました。
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◇Meg Mimura: ハリウッドを拠点に活動するテレビ評論家。Television Critics Association (TCA)会員として年2回開催される新番組内覧会に参加する唯一の日本人。Academy of Television Arts & Sciences (ATAS)会員でもある。アメリカ在住20余年。