スピルバーグ監督にとって、映画『ウエスト・サイド・ストーリー』は夢だった。10歳頃にブロードウェイ・ミュージカルのオリジナルキャスト盤を聴いてから、いつかこの映画を作りたいと思い続けてきた。その夢がミュージカル公開から60年以上の時を経て叶った。
1961年に公開された映画『ウエスト・サイド物語』は、歴史に残る名作であり、大ヒットにもなり、アカデミー賞ではなんと10部門受賞という快挙となった。日本では当時511日間のロングラン公開という記録を達成している。
映画『ウエスト・サイド・ストーリー』予告
その成功の原動力となったのがミュージカル界、音楽界の最高峰、天才と言うべき制作者たちだ。ドリームチームと言ってもいいと思う。まずは、現代版『ロミオとジュリエット』という原案から始まり、振付、監督を担ったのがジェローム・ロビンス。空に片手を思いっきり突き上げ、片足を高く上げるポーズ、『ウエスト・サイド物語』を象徴するヴィジュアルのひとつだが、この振付を考えたのがロビンスだ。
この投稿をInstagramで見る
その彼が製作の決定と同時に声を掛けたのがクラシックのマエストロで、作曲家のレナード・バーンスタイン。そして、作詞を担当したのが当時25歳、のちに数々のブロードウェイ・ミュージカル作品を手懸けたスティーブン・ソンドハイムである。
バーンスタインとソンドハイムのコンビが生み出した劇中歌は、名曲揃いで、たとえば、「サムウエア」などは映画を離れて、ポップスやR&B、ジャズ、クラシックなど幅広いジャンルで数多くカヴァーされているので、ミュージカルを観たことがなくても、きっとどこかで耳にしたことがあるはずだ。その歌を今回、61年の作品でアニータ役を演じて、アカデミー賞助演女優賞を受賞したリタ・モレノがトニーが働くドラックストアの店長バレンティーナ役で出演し、人種間の対立、なくならない負の連鎖を嘆き、深い悲しみを刻むように歌う。
『ウエスト・サイド・ストーリー』「Somewhere」by リタ・モレノ[音源]
そんな不朽の名作をスピルバーグは、どう映画化したのか。物語の舞台は、1950年代のニューヨークのまま、細部の設定に多少違いはあっても、ヨーロッパ系移民の「ジェッツ」と、プエルトリコ系移民の「シャークス」が敵対する構造も、そのなかでトニーとマリアが恋に落ちるのも変わらない。ただひとつ大きく違うのが振付をロビンスに代わり、30代の若きジャスティン・ペックが担っていることだ。
ダンスシーンは、全て鮮烈だけれど、とりわけ印象深いのは「アメリカ」を踊る場面だ。オリジナル版の舞台は、夜の屋上だったが、それを昼のストリートに移し、アニータと仲間だけでなく、子供達も踊り、周囲には大勢の住民がいて、部屋の窓から見物している人もいる。その映像は、移民街の日常を切り取ったような風景で、たくましき生命力にあふれ、故郷プエルトリコよりアメリカでの暮らしを選んだことを歌う「アメリカ」に秘められた心情と重なる。まさに心躍るシーンになっている。
映画『ウエスト・サイド・ストーリー』新映像「America(アメリカ)」編
また、3万人の応募者から選ばれたヒロイン、マリアを演じるレイチェル・ゼグラー。ソロで、またトニー役のアンセル・エルゴートとのデュエットで歌う「トゥナイト」など瑞々しい魅力にあふれ、「スター誕生」という言葉が何度も頭に浮かんできた。実際にレイチェルは、ゴールデングローブ賞コメディ/ミュージカル部門で最優秀主演女優賞に輝いている。
映画『ウエスト・サイド・ストーリー』本予告「Tonight(トゥナイト)」編
スピルバーグは子供の頃、オリジナルキャスト盤の収録曲を全て暗記して歌っていたと言うが、バーンスタイン作曲のそれらは、決して簡単には歌わせてくれない。ラテンの複雑なリズムが取り入れられているし、トニーが何度も“マリア~♪”を繰り返す「マリア」なんて、切なる恋心がひしひしと伝わってくるけれど、正しく音程をとりながら歌うとなると、超難しい。
『ウエスト・サイド・ストーリー』「マリア」by アンセル・エルゴート[音源]
1984年にバーンスタイン自身が指揮を執り、キリ・テ・カナワやホセ・カレーラスといったオペラ歌手が参加して、『ウエスト・サイド・ストーリー』のアルバムがレコーディングされた。そのメイキング映像を観ると、いかに緻密に構築された音楽かとわかる。パーカッションひとつとってもさまざまな楽器を駆使して、音とリズムを作り出している。超クールなフィンガースナップにしても、絶秒なタイミングで組み込まれている。
バーンスタインが指揮を執りレコーディングした『ウエスト・サイド・ストーリー』アルバムのメイキング映像(1984年)
スピルバーグ自身も「ミュージカルのために書かれた最高峰の音楽」という劇中歌を今回のレコーディングで指揮したのはベネズエラ出身のグスターボ・ドゥダメル。彼もまた天才と呼ばれ、41歳になった現在、ロサンゼルス・フィルの音楽・芸術監督、エーテボリ交響楽団首席指揮者、ベネズエラ・シモン・ボリバル公共楽団音楽監督、パリ・オペラ座の音楽監督を兼任している。
スティーブン・スピルバーグ(左)とグスターボ・ドゥダメルのツーショット
この投稿をInstagramで見る
ドゥダメルにはラテンの血が流れている。この映画に関わる前からコンサートで、劇中歌「マンボ」で演奏し、楽団員がステージ上で踊りだしたり、観客が“マンボ!!”と叫んだりする、熱いパフォーマンスで絶賛されてきた。嵐の松本潤さんも魅了されて、あるTV番組の企画で今逢いたい人としてドゥダメルを紹介したこともある。
レコーディングは、ニューヨーク・フィルと一部ロサンゼルス・フィルと行ったが、「マンボ」はもちろんのこと、ドゥダメルの指揮でより鮮やかに生き生きとした勢いが生まれ、痛快な疾走感がありつつ、一方バラードはどこまでも繊細で、まるで空気を優しく抱擁するような情感が醸し出されてくる。そして、どの曲もダイレクトに心に、体に響いてくるので、その余韻がいつまでも消えない。そんな感動が『ウエスト・サイド・ストーリー』にはある。
最後に先ほど少し触れたが、1月に発表されたゴールデングローブ賞コメディ/ミュージカル部門で他に最優秀作品賞と、アニータ役のアリアナ・デボーズが最優秀助演女優賞を受賞している。3月27日にアカデミー賞が発表されるが、当然本命視されている。61年の記録にどこまで迫るか、それも楽しみだ。
(文=服部のり子)
映画『ウエスト・サイド・ストーリー』公開情報
スティーブン・スピルバーグ監督が、珠玉の名作を完全映画化。異なる立場を越えた“禁断の愛”と、夢を求めて必死に生きる“若者のすべて”を、数々の名曲や熱情的なダンスと共に時代を越えたメッセージをこめて描く、感動のミュージカル・エンターテインメント!
2022年2月11日(祝・金)公開
イントロ
スティーブン・スピルバーグ監督が、珠玉の名作「ウエスト・サイド・ストーリー」を完全映画化。物語の舞台は、ニューヨーク。たったひとつの愛や限りない夢を求めて世界中から集まった若者たちは、差別や偏見と戦いながら必死に“今”を生きようとしていた…。数々の名曲や躍動感あふれるダンスと共に、“異なる立場を越えて、私たちは手を取り合えるのか?”という普遍的なメッセージをこめて贈る、感動のミュージカル・エンターテインメント!
ストーリー
夢や成功を求め、多くの移民たちが暮らすニューヨークのウエスト・サイド。だが、貧困や差別に不満を募らせた若者たちは同胞の仲間と結束し、各チームの対立は激化していった。ある日、プエルトリコ系移民で構成された“シャークス”のリーダーを兄に持つマリアは、対立するヨーロッパ系移民“ジェッツ”の元リーダーのトニーと出会い、一瞬で惹かれあう。この禁断の愛が、多くの人々の運命を変えていくことも知らずに…。
関連リンク
【公式サイト】https://www.20thcenturystudios.jp/movies/westsidestory
【Twitter】https://twitter.com/20thcenturyjp
【Instagram】https://www.instagram.com/20thcenturyjp/
【Facebook】https://www.facebook.com/20thFOXjp/
© 2022 20th Century Studios. All Rights Reserved.
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
商品情報
『ウエスト・サイド・ストーリー オリジナル・サウンドトラック』
UICH-1017
¥2750(税込)
2022年2月9日(水)発売
https://umj.lnk.to/WestSideStory_OST
映画・海外ドラマ関連を中心に、洋楽や海外セレブ情報も発信。カルチャーとファンの距離を縮める、カルチャーをもっと楽しめるコンテンツをお届け!
☆X(旧Twitter)で最新情報を発信中!今すぐフォロー!