常に挑戦的に活動、日本でも絶大な人気を誇るドイツ出身の映画監督ヴィム・ヴェンダースが、東京・渋谷を舞台にトイレを舞台にしたプロジェクトに取りかかることを発表した。ヴェンダース監督がその趣旨、社会的意義に賛同した「THE TOKYO TOILET プロジェクト」では、世界的に活躍する16名の建築家やクリエイターがそれぞれの個性を発揮して、2020年から東京・渋谷区内17カ所の公共トイレを新たなデザインで改修し、現在までに12カ所が完成している。それは、従来の公共トイレのイメージを刷新、日々の生活に共存するアートに昇華されており、現在日本だけでなく海外からも大きな注目を集めている。
今回、ヴェンダース監督は現在の東京、渋谷の街、「THE TOKYO TOILET」で改修された公共トイレを舞台に映像製作を行う。2011年以来11年ぶりの来日をはたしたヴェンダース監督は、東京・渋谷の街並みやプロジェクトの公共トイレなど視察しながら、シナリオハンティングを敢行。5月11日(水)に行われた記者発表では、“TTT”プロジェクトに参加している建築家の安藤忠雄と長谷部健渋谷区長を迎え、小池百合子東京都知事からも東京での撮影に関しての全面サポートを発表した特別メッセージを受領、このアートプロジェクトの魅力や、監督が改めて見つめる東京・渋谷の変貌、そして“アート”は私たちに何を問いかけるのかを語った。
2人のあいさつ後、トークセッションではロケーション視察のためにドイツより来日した、ヴィム・ヴェンダース監督、役所広司氏が登場。柳井康治氏(プロジェクトオーナー)より「ヴェンダース監督が過去に手がけた『パリ、テキサス』や『ベルリン・天使の詩』などが大好きで、毎回作品を通して色々なものを問いかけていますよね。今回、清掃という行為の尊さ、建物を維持・管理することに清掃員の方の多大な協力があることを、東京を舞台に伝えたいと思ったときに、それを実現できるのはヴェンダース監督しかいないと思いました」と述べ、それを受けてヴェンダース監督は「本当にこの場にいられることを大変光栄に思っています。皆さんからお手紙を頂いたときは本当に最高のクリスマスプレゼントだと思いました。東京はしばらく来ることができず少しホームシックでしたが、今回ようやく来日することができて、そしてこの“TTTプロジェクト”を実際に目にすることができてワクワクしています」と述べた。
高崎卓馬氏(クリエイティブディレクター)は「ヴェンダース監督、役所さんという、大好きな二人でここから何が生まれるのか興奮しています」と述べつつ、主演の役所は「この場に立たせて頂いて幸せです。柳井さんの発想から生まれた『THE TOKYO TOILET』を舞台にヴェンダース監督が作品を手がける…この作品を断る俳優はいないのではないかと思います。ヴェンダース監督の作品に参加できるということで、俳優になって40年この業界にしがみついてよかったと思えるくらい、本当にすばらしいご褒美だと思います。この作品を通して、日本という国を紹介していきたいです」と感慨深げに語った。
また、今回のアートプロジェクトではどんなものを作るのか?という問いにヴェンダース監督は「大きなチャレンジであるこの企画では、社会的に意義があるものを、自由な発送で何章かに分けて作り上げたい」と語り、主演の役所氏については「色々な作品を拝見しています。自分というものがありながら、作品や環境によって全く異なるキャラクターを演じ分けることができる俳優だと思っています。私は好きではない俳優とはお仕事ができないのですが、役所さんは本当に最初から好きになりました。悪い役を演じているときでもすごくよいなと思っていたので、なぜここまで私は役所さんのことが好きなのか?ということを知るためにも、ぜひお仕事をご一緒したいと思っています」と役所氏へラブコール。
それを受けて、役所は「今回の作品で監督に嫌われないように、がんばりたいです(笑)。さきほど、物語の話をきいて、トイレという場所を舞台に365日一日3回清掃する男性清掃員の物語とのことで、とても美しい物語になりそうな気がしました」と意気込みを語った。
そんな二人の話をうけて柳井氏は「日本や東京を見続けている監督ですし、今の東京、渋谷をどういう風に感じられて、どのように撮られるのか関心がありますし、そこに役所さんが加わるということで期待しかないです。作品で描かれるのが、できれば最高の渋谷、最高の東京であったらいいなと思います」と述べた。
またここで、「THE TOKYO TOILET」を設計した建築家・安藤忠雄、渋谷区長が登壇。安藤氏に関して柳井氏は「ユニクロの店頭でオリーブ基金を一緒にしていたつながりが最初のきっかけで、このプロジェクトについて相談した際も内容も聞かずに『やったるよ』と。ええことやろうとしてるんやったら、一緒にやろう!と二つ返事でご快諾いただきました」と参加の経緯を説明。
安藤氏は「最初に柳井さんと笹川さんが意義のあることをしたいといったので賛成しまして、話を聞いてるうちに美しいトイレを通して日本の美意識を発信したいと聞き、参加しました」と述べました。また安藤氏とヴェンダース監督とは以前から交友があり、久しぶりの再会にヴェンダース監督は「安藤先生の作品は以前から敬愛しています。アメリカ、ヨーロッパでの作品やパリのオープニングにも伺いました。彼とはつながりを感じていて、真の同世代のクリエイターだと思っています」と語った。
ひとしきりのトークセッションが終わったのち、小池東京都知事より、本プロジェクトへのメッセージも寄せられ、最後には質疑応答も実施。いくつかの質問をヴェンダース監督や役所さんが応えた後、記者会見は無事終了した。
【THE TOKYO TOILETプロジェクト】
柳井康治と日本財団が、多様性を受け入れる社会の実現を目的に実施する公共トイレ改修プロジェクト。渋谷区全面協力の下、性別、年齢、障害を問わず、誰もが快適に使用できる公共トイレを区内17カ所に設置する。趣旨に賛同する16人のクリエイターが参画し、デザイン・クリエイティブの力で、新しい社会のあり方を提案する。
TTTプロジェクト(日本財団)特設サイト(https://tokyotoilet.jp/)