日本では「スーパー!ドラマTV #海外ドラマ☆エンタメ」で5月9日から放送済みなので、ご覧になった読者も多いとは思いますが、TCA賞ノミネーションのため、2021年6月1日〜22年5月31日の間に放送/配信された番組や俳優の功績を評価してみて、改めてこの異色時代劇コメディーの実力を見直しました。「THE GREAT〜エカチェリーナの時々真実の物語〜」は、米国ではフルのオリジナル・コメディーですが、スーパー!ドラマTVでの放送終了後、動画配信サービスで視聴できそうなので、シーズン1にも増して奥が深くて面白かったシーズン2の見どころをご紹介します。
クリエイターのトニー・マクナマラは、常に自分が観たいと思う作品を創造するよう心がける劇作家/脚本家です。ユニークなキャラが登場する時代劇ファンとして、「21歳になる娘も観てくれそうな、型破りでひねりの利いたドラメディー仕立てにした」と言う「THE GREAT」。道理で、体当たりコメディとあり得な~い!悲劇の間を、実に巧みに泳ぎ切っている訳です。又、エカチェリーナが謀反を起こすために欠かせない三要素は、「教会」「軍隊」「貴族」と史実から読み取り、当時ロマノフ王朝に仕えた歴史上の人物+豊かな創造力を駆使して、エカチェリーナが即位するために必要な将棋の駒役を、大司教、将軍、謀反を企てる貴族/ピョートルが妻に与えた愛人、国民を代表する女官等の取り巻きキャラに託しています。
夢見る乙女ソフィアが、近衛連隊と結託して、統治能力もロシアを想う気持ちも皆無のピョートルを失脚させようと決心し、画策するのが「THE GREAT1」なら、愈々女帝エカチェリーナ2世として第一歩を踏み出したものの、ピョートル派や現状維持派の猛反対を受けて前途多難な「THE GREAT2」です。
まだ生まれてもいないのにパーヴェルと名付けたお世継ぎの誕生を待ち侘びるピョートルは、育児時間とエカチェリーナと朝食を共にすることを条件に、意外とあっさり退位したかのように見えます。しかし、城の一角に幽閉され暇を持て余し、バイオリン、哲学、占星術、カンフーなど、文化人であることをエカチェリーナに証明するかのように、慣れないお稽古事に精を出すピョートルを尻目に、親友グレゴール(グィリム・リー)以下忠臣達(数人ですが)は、世継ぎが生まれた時点で、ピョートルに帝位を奪還してもらおうと、あの手この手でエカチェリーナの政策に横槍を入れます。食べる事と権力を振りかざして独裁政治を続けることしか興味のないピョートルは、啓蒙専制君主の概念さえ知らず、エカチェリーナが掲げる理想国家論など絵に描いた餅でしかありません。ロシア国民は、現状維持に何の疑問も感じないどころか、変わる必要がどこにある!と居直る始末で、エカチェリーナへの風当たりは半端ではありません。
即位したとは言え、エカチェリーナは時限爆弾を抱えています。出産前にある程度の近代化・啓蒙化をしておかなければ、ピョートル派にいつ抹殺されるか知れません。しかし、クーデターを起こして4ヶ月後、理想と現実は大違い、身の程知らずの行為だったのか?と不安が募る一方、近代化を急ぐ余り、迷信や旧体制の煩わしい慣習に真っ向から立ち向かう羽目になります。
エカチェリーナは、参謀オルロ(サッシャ・ダーワン)と将軍ヴェレメントフ(ダグラス・ホッジ)の経験と知恵を借りて、数々の政治改革に着手しようと試みますが、1)たかが女に何ができる?2)所詮、ドイツ人に何がわかる?3)一国を統治した経験がない小娘に振り回されて溜まるか!4)何もかも話し合いで丸く収めるだけでは、敵国から甘く見れらる5)(貧乏とは言え)貴族のお嬢様の思い付きは高慢と偏見に満ち満ちている等、見くびられる理由は山積みです。宮廷にたむろする貴族にとって、女帝は透明人間。頭を下げるどころか、道を譲ることさえしません。女故に、誰の目にも入らない!これぞ正しく、男尊女卑の極みです。
男尊女卑を身を以て体験する女帝の改革第一弾は?男のオモチャか世継ぎを産む役目しか与えられていない文盲の貴婦人や女官たちの地位を高めようと、女子校を開設します。しかし、少女は王侯貴族に嫁がせて財力/権力を手に入れる政略結婚に使う’道具’としてしか価値のない存在で、下手に教育などしようものなら、「もらい手が無くなる!」「エカチェリーナのような’あたまでっかち’になっては困る!」と恐れて、母親達が登校させません。シーズン1で女官マリアル(フィービー・フォックス)は、エカチェリーナを裏切ったにも関わらず、今シーズンは貴族に返り咲きますが、父が残した遺産を継ぐために、8歳の従兄弟と名目上の結婚をしなければ相続さえできないのも男尊女卑の好例です。
エカチェリーナの出産や統治、外交は旧体制との闘いですが、ピョートルが世継ぎパーヴェルを思う気持ちや子育てに夢中になる様子は、まるで21世紀の育メンです。ロマノフ朝時代に、王室の子育ては乳母や教育係が担当し、自ら積極的に参画していた筈がありません。自分達の毒親とは正反対の親になろうと誓い合う皇帝と王妃、ベビーシャワー、国王が世継ぎを抱っこして宮廷を歩き回る事なども、あの時代には想像できません。ピョートルのみが、3世紀先の育メンとして超現代風に描かれているコントラストが面白いのです。
ピョートルのマザコン振りは、シーズン1から母親のミイラを大切に保管して事あるごとに話しかけるシーンなどから明らかですが、今シーズンは軟禁生活を強いられ、独りになることが何より怖いピョートルが、幼い頃に母親から受けた冷たい仕打ちやお仕置きを思い出して、ミイラを粉々にしてしまうシーンがあります。更に、ピョートル大帝(ジェイソン・アイザックス)は指導者としては優れていましたが、父親としては失格だったことも悟ります。こうして、毒親に育てられた結果、自信過剰〜自己不信の両極端に走る劣等感に苛まれ、自分の非を認めない、人間関係の距離感がわからない独裁者となった自分を生まれて初めて省みるピョートルが描かれています。
一方、母親ヨハンナ(ジリアン・アンダーソン)の訪問で、エカチェリーナの母に対する想いに反比例するヨハンナの毒親振りも明らかになります。自分が育てたにも関わらず、エカチェリーナをまるで妄想に取り憑かれたおバカちゃん扱いし、事ある毎にエカチェリーナの自己チュー振りを批判し、自分の努力や教育が水の泡だと嘆き悲しみます。この手の毒親は、過干渉で嫉妬するタイプで、ヨハンナ自身が叶えられなかった夢や理想を、エカチェリーナに押し付けて、自分の思い通りに操ろうとします。
過干渉、過酷な抑圧下で育ったエカチェリーナは、’良い子’でないと母親から見放されると信じて大人になりました。最愛のレオ(セバスチャン・デ・ソウザ)を失った悲嘆や涙を堪える時、自ら頰にビンタを喰らわす異常な行動をとるのは、感情表現を極力避けるドイツ人気質のなせる技なのか、ヨハンナから受けたスパルタ教育故の’良い子ちゃん’の行動なのでしょうか?
そして、漸く円満夫婦になれそう!とエリザベータ叔母さんが喜んだのも束の間、エカチェリーナとピョートルの間の溝は益々深まり、一触即発状況になった所でシーズン2が幕を閉じます。シーズン3は、どうなるのでしょうか?楽しみです。
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◇Meg Mimura: ハリウッドを拠点に活動するテレビ評論家。Television Critics Association (TCA)会員として年2回開催される新番組内覧会に参加する唯一の日本人。Academy of Television Arts & Sciences (ATAS)会員でもある。アメリカ在住20余年。