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Vol.27 新年迎え、テレビ界にも新シーズン到来! 最も待ち望まれているのは、エミー受賞作のあのドラマ!
2007年1月9日
皆さん、新年明けましておめでとうございます!
ここアメリカでは、残念ながらテレビをつけたところで正月気分はあまり味わえないが、クリスマス~新年は一年を通して最大のホリデーシーズン。日本で正月に特番がたっぷり放送されるように、12月中旬から新年にかけて様々なスペシャル番組等が放送され、テレビ界のスケジュールは通常のそれと大きく異なった。その影響で年末年始はシリーズドラマ等も小休止中だった訳だが、その間にファンやメディアは今後の展開を予想したり、あるいは視聴者数ランキングと照らし合わせて「このドラマは今シーズンでキャンセルされるだろう」などドラマの寿命そのものを危惧したりするのだった。またこの時期は、ゴールデングローブのノミネート作品が発表にもなるので、それを受けて受賞作品予想も盛り上がるころである。
そんな虚実混交の噂や予想が飛び交うなか、2007年、最も大きな熱量を以って人々から迎えられるドラマが、『24』だろう。今年でシーズン6を数える『24』は、昨年夏のエミー賞で作品賞を受賞。「緘口令が敷かれてるのか!?」と思うほど内容に関する情報は出てこないが、「ジャックの父親と兄弟が登場するらしい!」などなど例年以上に高まる期待感の中、1月14日よりジャック・バウアーの「人生で最も長い一日」の全容が明かされていくことになる。
【物語の舞台、ロサンゼルスにおける『24』の評価とは?】
で、実はわたくし、ロサンゼルスに来てから初めて本格的に『24』を見始めたわけだが、最初に見たときには、街中でガンガン銃撃戦が行われる様などを見て「うお~! 今自分は、なんて危険な街に住んでるんだ!?」と、おののいたものである。そして、ドラマ自体は面白いのだが、ロサンゼルスを舞台に展開される「ジャック・バウアーvs.テロリスト」の物語をロサンゼルスに住む一市民として見たとき、どうしてもいろんな瑣末な部分が気になってしまい、なかなか純粋に楽しめない……というのが正直なところなのだ。
例えば、このドラマを見る前に最も気になっていたことが「果たして、都市内での移動をどうするのか?」ということ。というのも、車がほぼ唯一の移動手段であるロサンゼルスでは、朝夕の通勤時期はアリが入り込む隙も無いほどの大渋滞に見舞われ、普通なら10分で着く距離にも1時間を要したりするのだ。なので、渋滞時間帯の最中にものの数分で大移動を果たしてしまうジャックを見たときには、「ありえね~だろっ!!」とテレビ画面に向かい大つっこみをしてしまったのだった。
また、“ロサンゼルスに住む異邦人”という自身の立場からこのドラマを見たときにも、いくつか引っかかる点があり心がザワザワしてしまう。現在アメリカは、対イラク戦争の事後処理やイラク戦争そのものをいかに定義するかで、国全体が揺れている時期である。2008年に控える次期大統領戦に誰が出馬するのか、という話題が早くも過熱している現状からも、ここ数年の政策や、アメリカという国家の世界的な立ち居地を国民が危惧している空気が伺える。そのような動静の中で、「世の潮流など、どこ吹く風!」と言わんばかりに「ティンドン、ティンドン」と独自の秒針を刻みながら進んでいくそのマイペースっぷりには、なんとなく抵抗を感じてしまうのだ。
そう思っているのは何もわたしだけではないらしく、このドラマに関する否定的な意見はわたしの周りでもちょくちょく聞かれ、きな臭い噂も立ち込めている。それは、「『24』は、政府のプロパガンダだ」という風説。わたしの友人には「あのドラマを見ると政府の都合の良いように洗脳されるから、見てはならない」とまで言う人もいるほどだ。その噂の信憑性はともかくとして、『24』を放送しているFOXは政府寄りの立場を取ることで有名で、先の中間選挙の際にも大本営発表的な報道を行い、散々非難されたばかりだ。そのようなFOXのスタンスとも相まって、このような説が飛び出したのだろう。そもそもロサンゼルスは、アメリカで最も移民の多い都市の一つであり、リベラルな風潮で知られる地である。そのような土地を舞台に、中東や東欧、メキシコやアジアの人々が「アメリカ全土を脅かす異分子」として描かれるのだ。批判が噴出しない方がおかしいだろう。
【ロサンゼルスのテロ対策の真の姿は……】
実際のロサンゼルスにおけるテロ対策、または「潜在的テロリストへの危機感」というものは、日常生活の中でもときおり感じることができる。その最たる例は、ロサンゼルス国際空港のセキュリティの厳重さだ。この空港では、国際線の場合は離陸時間の3~4時間前に空港に着いておくのが常識とされているが、理由は当然、セキュリティをくぐるまでに多大な時間を要するから。チェックの際には、身につけている金属類はもちろんのこと、靴、さらにはジャケットやセーター、フリースなどの厚手の服も全て脱がなくてはならない。手荷物からはパソコンを取り出さなくてはならないし、なんと最近ではX線による身体透過チェックまで実施され、これに対しては「プライバシーの侵害だ」と、反対運動が起きているほどだ。さらにイランから来ている知人によると、彼らは入国の際に通常の入国審査とは異なる窓口を通され、念入りな調査を受けるのだという。そのような彼らが、イスラム教徒を敵視するかのようなドラマを見て面白いはずもない。
空港以外のことで言うと、昨年ブッシュ政権は「国防」という大義名分の下にメキシコとの国境沿いにフェンスを張るという法案を可決したが、これに対して多くのメキシコ移民がデモを行ったことは記憶に新しい。また、大規模な停電や事故等が起きると、そのたびにテレビでは「テロとの関連性は認められていません」という報道を行うが、これは潜在的なテロに対する危機感を煽る行為とも言えるだろう。
果たして本当にロサンゼルスがテロの標的にされているのかどうか、どの程度危機的状況下にあるのか……それは解らない。ただ、実際にこのような対策が取られている街に住み、多種多様な人種や立場の人々の声が聞こえる立場にいると、このドラマの「アメリカ本土を脅かす異邦人たちの魔手から、アウトロー・ヒーローが愛する人々を守る」というプロットは、どこか受け入れがたいものがあるのです。要は、主人公ジャック・バウアーの「目的は手段を正当化する」という信念のもとに法やセオリーを破りまくり、完全なる独善の下にまい進する姿は、良きにつけ悪しきにつけあまりにアメリカ的すぎて、どうしても拒絶感を覚えてしまうのですわ。
嗚呼……『24』が大好きという方々には申し訳ない。これまで『24』に対して思うところがいろいろあったために、つい今回は爆発してしまった。
まあ散々文句を言っては来たけれど、今シーズンに限り『24』の訪れが楽みでないその訳は、結局のところ、わたしが大好きだったキャラクター、トニー・アルメイダが先のシーズンであまりに報われない最後を迎えた――という一点に尽きるのかもしれない。
ここアメリカでは、残念ながらテレビをつけたところで正月気分はあまり味わえないが、クリスマス~新年は一年を通して最大のホリデーシーズン。日本で正月に特番がたっぷり放送されるように、12月中旬から新年にかけて様々なスペシャル番組等が放送され、テレビ界のスケジュールは通常のそれと大きく異なった。その影響で年末年始はシリーズドラマ等も小休止中だった訳だが、その間にファンやメディアは今後の展開を予想したり、あるいは視聴者数ランキングと照らし合わせて「このドラマは今シーズンでキャンセルされるだろう」などドラマの寿命そのものを危惧したりするのだった。またこの時期は、ゴールデングローブのノミネート作品が発表にもなるので、それを受けて受賞作品予想も盛り上がるころである。
そんな虚実混交の噂や予想が飛び交うなか、2007年、最も大きな熱量を以って人々から迎えられるドラマが、『24』だろう。今年でシーズン6を数える『24』は、昨年夏のエミー賞で作品賞を受賞。「緘口令が敷かれてるのか!?」と思うほど内容に関する情報は出てこないが、「ジャックの父親と兄弟が登場するらしい!」などなど例年以上に高まる期待感の中、1月14日よりジャック・バウアーの「人生で最も長い一日」の全容が明かされていくことになる。
【物語の舞台、ロサンゼルスにおける『24』の評価とは?】
で、実はわたくし、ロサンゼルスに来てから初めて本格的に『24』を見始めたわけだが、最初に見たときには、街中でガンガン銃撃戦が行われる様などを見て「うお~! 今自分は、なんて危険な街に住んでるんだ!?」と、おののいたものである。そして、ドラマ自体は面白いのだが、ロサンゼルスを舞台に展開される「ジャック・バウアーvs.テロリスト」の物語をロサンゼルスに住む一市民として見たとき、どうしてもいろんな瑣末な部分が気になってしまい、なかなか純粋に楽しめない……というのが正直なところなのだ。
例えば、このドラマを見る前に最も気になっていたことが「果たして、都市内での移動をどうするのか?」ということ。というのも、車がほぼ唯一の移動手段であるロサンゼルスでは、朝夕の通勤時期はアリが入り込む隙も無いほどの大渋滞に見舞われ、普通なら10分で着く距離にも1時間を要したりするのだ。なので、渋滞時間帯の最中にものの数分で大移動を果たしてしまうジャックを見たときには、「ありえね~だろっ!!」とテレビ画面に向かい大つっこみをしてしまったのだった。
また、“ロサンゼルスに住む異邦人”という自身の立場からこのドラマを見たときにも、いくつか引っかかる点があり心がザワザワしてしまう。現在アメリカは、対イラク戦争の事後処理やイラク戦争そのものをいかに定義するかで、国全体が揺れている時期である。2008年に控える次期大統領戦に誰が出馬するのか、という話題が早くも過熱している現状からも、ここ数年の政策や、アメリカという国家の世界的な立ち居地を国民が危惧している空気が伺える。そのような動静の中で、「世の潮流など、どこ吹く風!」と言わんばかりに「ティンドン、ティンドン」と独自の秒針を刻みながら進んでいくそのマイペースっぷりには、なんとなく抵抗を感じてしまうのだ。
そう思っているのは何もわたしだけではないらしく、このドラマに関する否定的な意見はわたしの周りでもちょくちょく聞かれ、きな臭い噂も立ち込めている。それは、「『24』は、政府のプロパガンダだ」という風説。わたしの友人には「あのドラマを見ると政府の都合の良いように洗脳されるから、見てはならない」とまで言う人もいるほどだ。その噂の信憑性はともかくとして、『24』を放送しているFOXは政府寄りの立場を取ることで有名で、先の中間選挙の際にも大本営発表的な報道を行い、散々非難されたばかりだ。そのようなFOXのスタンスとも相まって、このような説が飛び出したのだろう。そもそもロサンゼルスは、アメリカで最も移民の多い都市の一つであり、リベラルな風潮で知られる地である。そのような土地を舞台に、中東や東欧、メキシコやアジアの人々が「アメリカ全土を脅かす異分子」として描かれるのだ。批判が噴出しない方がおかしいだろう。
【ロサンゼルスのテロ対策の真の姿は……】
実際のロサンゼルスにおけるテロ対策、または「潜在的テロリストへの危機感」というものは、日常生活の中でもときおり感じることができる。その最たる例は、ロサンゼルス国際空港のセキュリティの厳重さだ。この空港では、国際線の場合は離陸時間の3~4時間前に空港に着いておくのが常識とされているが、理由は当然、セキュリティをくぐるまでに多大な時間を要するから。チェックの際には、身につけている金属類はもちろんのこと、靴、さらにはジャケットやセーター、フリースなどの厚手の服も全て脱がなくてはならない。手荷物からはパソコンを取り出さなくてはならないし、なんと最近ではX線による身体透過チェックまで実施され、これに対しては「プライバシーの侵害だ」と、反対運動が起きているほどだ。さらにイランから来ている知人によると、彼らは入国の際に通常の入国審査とは異なる窓口を通され、念入りな調査を受けるのだという。そのような彼らが、イスラム教徒を敵視するかのようなドラマを見て面白いはずもない。
空港以外のことで言うと、昨年ブッシュ政権は「国防」という大義名分の下にメキシコとの国境沿いにフェンスを張るという法案を可決したが、これに対して多くのメキシコ移民がデモを行ったことは記憶に新しい。また、大規模な停電や事故等が起きると、そのたびにテレビでは「テロとの関連性は認められていません」という報道を行うが、これは潜在的なテロに対する危機感を煽る行為とも言えるだろう。
果たして本当にロサンゼルスがテロの標的にされているのかどうか、どの程度危機的状況下にあるのか……それは解らない。ただ、実際にこのような対策が取られている街に住み、多種多様な人種や立場の人々の声が聞こえる立場にいると、このドラマの「アメリカ本土を脅かす異邦人たちの魔手から、アウトロー・ヒーローが愛する人々を守る」というプロットは、どこか受け入れがたいものがあるのです。要は、主人公ジャック・バウアーの「目的は手段を正当化する」という信念のもとに法やセオリーを破りまくり、完全なる独善の下にまい進する姿は、良きにつけ悪しきにつけあまりにアメリカ的すぎて、どうしても拒絶感を覚えてしまうのですわ。
嗚呼……『24』が大好きという方々には申し訳ない。これまで『24』に対して思うところがいろいろあったために、つい今回は爆発してしまった。
まあ散々文句を言っては来たけれど、今シーズンに限り『24』の訪れが楽みでないその訳は、結局のところ、わたしが大好きだったキャラクター、トニー・アルメイダが先のシーズンであまりに報われない最後を迎えた――という一点に尽きるのかもしれない。
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