Vol.34 『ザ・ソプラノズ』主人公トニーのモデルとなったマフィアの数奇な半生とは？

1999年1月10日に米HBOチャンネルで放送がスタートした『ザ・ソプラノズ 哀愁のマフィア』は有料チャンネルであったことに付け加え、2003年と2005年は放送されなかったりと中休みが多かったにも関わらず多くのファンを獲得し大ヒットしました。ドラマはアメリカ現地時間6月10日に最終回が放送されることが決定しており、シーズン6で幕を閉じることになっています。

『ザ・ソプラノズ～』の舞台はニューヨークに隣接するニュージャージー州のとある街。表向きはゴミ処理専門のコンサルティング会社を経営し、裏ではマフィアとして組織的犯罪を繰り返すソプラノ・ファミリーのボス、アンソニー・"トニー"・ソプラノを中心に物語は展開していきます。

ドラマはあくまでフィクションだとされていますが、実際に存在したニュージャージーの犯罪組織”デカヴァルカンテ・ファミリー"がモデルだとされています。そして、その組織の頂点に立つヴィンセント・"ヴィニー・オーシャン"・パレルモがリアル・トニーだといわれているのです。前回に引き続き、今回もリアル・ソプラノズと言われた男ヴィニー・オーシャンをご紹介いたします。

90年代はＮＪマフィアの時代
ニューヨーク5大ファミリーの一つガンビーノ一家のボス、ジョン・ゴッティに貸しを作ったヴィニーは、属するデカヴァルカンテ・ファミリーの中でみるみる頭角を現すようになります。ヴィニーは資金集めに長けていたとされていますが、その方法は「ギャンブルで負けたが、どこからも金が調達できないような人に高い利息で金を貸し出し厳しく取り立てていく」という暴力絡みのものでした。ドラマでも同じ設定になっていましたよね。

お金への執着心と、全てを暴力で解決しようとする姿勢も『ザ・ソプラノズ～』のトニーとヴィニーの共通点でしたが、ヴィニーの方がはるかに凶暴だったとのこと。デカヴァルカンテ・ファミリーは、麻薬、殺人、銀行強盗、保険詐欺、医療詐欺などお金が絡むこと全てに首をつっこんでおり、レイバー・ユニオンもコントロールしていたので、この点もドラマと酷似しています。

90年代はFBIがニューヨークのマフィア・ファミリーを叩き潰していた時期であり、ハドソン河を隔てたニュージャージーのデカヴァルカンテ・ファミリーの天下でもありました。トニー同様豪邸に住んでいたヴィニーは、毎年妻と二人の子供達を連れてディズニー・ワールドに行っていたとのことです。

現実でも同性愛者は制裁されていた
アメリカン・イタリアン・マフィアの世界はボスを頂点に、コンシリオーリ（イタリア語で相談役）とアンダー・ボスが、その下にキャプテンが続くという位置づけになっており、それぞれのキャプテンが10人前後のクルーと呼ばれる下っ端をまとめることになっています。

ヴィニーはクルーを経てキャプテンにのし上がったのですが、その上に昇進したきっかけはボスの同性愛行為発覚事件がきっかけでした。

マフィアにおいて金よりも大切だといわれているのは「リスペクト＝敬意」であり、ある意味カルト的なこだわりを持つのだそうです。デカヴァルカンテ・ファミリーのボス、ジョン・デアマートの彼女がメンバーの一人にジョンと乱交した時、彼が同性愛行為をしてげんなりしたという話をもらしてしまい、これもドラマ同様「マフィアの一員でありながらゲイだとは何たること！裏切りだ！」と、ジョンは顔に2発銃弾を打ち込まれ抹殺されてしまいました。

ジョン亡き後、デカヴァルカンテ・ファミリーはボスを立てずに3人のキャプテンを昇進させ協力してボス業をこなすようにさせました。この時昇進した一人がヴィニーだったのです。

世界貿易センター銀行強盗犯がキーパソンに
1998年、世界貿易センタービル（WTC)の11階で300万ドルの銀行強盗事件が発生しました。しかし、3人の強奪犯たちは警備カメラがあるというのにマスクを外したりと無防備この上なく、すぐに警察の御用となってしまいます。もちろん、主犯は他におり、その人物ラルフィ・グアリーノにFBIは20年間投獄する代わりに盗聴器を身につけてデカヴァルカンテ・ファミリーに潜り込み、情報を集めろと交渉。ラルフィーはこれを承諾し、ドラマでプッシーがやっていたようにワイヤーをつけることになったのです。

ラルフィーはドラマに出てきた同名の人物と同じくお金を稼ぐ能力には長けていたためヴィニーは何の疑いもなくラルフィーを迎え入れます。そして、自分の運転手役をしていたジョーイと共に行動するように命じラルフィーはジョーイから色々な情報を得ることになったのです。ラルフィーは疑われていた時期もあったようですが、とにかくお金を入れてくれるのでしつこく探られることはなかったとのこと。そして、このことがヴィニーの首を絞めることになったのです。

そして1999年12月2日、ドラマスタートから11ヵ月後にデカヴァルカンテ・ファミリーのトップ40人が逮捕されるという史上最大逮捕劇が起こりました。

マフィア・ヴィニーの最後
ヴィニーは逮捕直前に高飛びしようと企んでいました。しかし、最後はあっけなくお縄となってしまいます。ヴィニーには沢山の殺人罪、詐欺罪などがかけられ死刑は免れない状態となりますが、最後の最後で警察との秘密取引に応じてしまいます。『ザ・ソプラノズ～』でもジョニーがそうでしたが、このような交渉に乗るということは「沈黙の掟という名のリスペクト」がなってないということになり、マフィアとしてそして人間としての生涯が終わることを意味します。しかし、ヴィニーとしてはどうしても家族を守りたかったのでしょう。

ヴィニーとその家族は現在リンチ制裁から身を守る保護プログラムに置かれており国から安全が保障されているそうです。田舎に住み、名前を変えて、違う人間としての人生を歩んでいます。整形をし顔を変えている可能性も高いそうです。

『ザ・ソプラノズ～』でポーリーン役を演じたトニー・シリコは、28回の逮捕歴があり、60年後半から70年前半にかけて7年間服役していたこともあります。彼が足を洗うきっかけとなったのは銃で撃たれたのがきっかけでした。アメリカは底辺から這い上がることが可能な国でもあるので、今後マフィア出身の俳優が出てくるかもしれませんよね。

『ザ･ソプラノズ～』ラスト9話は、日本でも年末にWOWOWで放送されることが決定しています。どのような最後を迎えるのか本当に楽しみです。